My 【Repair】Skill Became an Almighty Cheat Skill, So I Thought I’d Open Up a Weapon Shop
Episode 722: The City of the Floating Island
白狼騎士団からは、ガーネット、チャンドラー、ライオネル、ヒルド、アンブローズ。
ホワイトウルフ商店の関係者からは、アレクシア、ノワール。
銀翼騎士団からはカーマイン率いる騎士部隊に加え、彼らの監督下にあるブラン。
そして強引についてきたハイエルフのエイルに加え――魔王軍からもう一人。
「よもや私が貴様らの先導など……」
魔王軍四魔将、氷のノルズリ。
奴もまた、探索部隊の一員として、俺達に同行することになっていた。
「スズリやアウストリは攻撃部隊に配属されたというのに……」
「ご期待に添えなくて悪かったな。だけど案内人は必要なんだよ。虱潰しで片っ端から調べて回るわけにはいかないんだから」
「分かっている。だが何故私なのだ! 陛下のご判断といえ……!」
ノルズリはこちらの部隊に回されたことが甚(いた)く不満だったようだが、こちらとしては前々からの因縁を度外視すれば理想的な人選ではある。
かつて実際に第三階層で暮らしていた経験があり、なおかつ魔王軍で五指に入る実力の持ち主となれば、何度も痛い目に遭わされた相手だからといって拒む理由はない。
「ルーク。攻撃部隊(あっち)の準備も終わったらしい。そろそろだな」
攻撃部隊の方の様子を窺いに行っていたガーネットが、全ての準備が終わりつつあることを伝えてくれる。
浮遊島の端っこで立ち話に花を咲かせるのはもう終わりだ。
俺はノルズリを含めた探索部隊の面々に向き直り、隊長として語るべき言葉を口にした。
「事前の作戦会議で伝えてあるとおり、俺達は攻撃部隊と同時に市街へ踏み込み、しかし攻撃部隊とは完全に独立して行動する。目的は第一に情報収集! 古代魔法文明の技術の情報と、アガート・ラムの犯罪の証拠を掴むことを第一とする!」
そこで一旦言葉を切り、深く息を吸い込んでから、決定的な一言を宣言する。
「――探索部隊、出撃する!」
そして俺達は浮遊島の市街地の探索へと乗り出した。
浮遊島はそれぞれの中心部に市街があり、周囲はさながら庭園のような緑地が広がっている。
上陸地点はこうした緑地帯の隅だったため、ブランの魔法の援護もあってアガート・ラムから発見されることはなかった。
しかしここから先は、奴らが拠点として利用している場所に踏み込むため、かなり慎重に動かなければ発見されてしまうだろう――
「――どういうことだ、これは――」
――そんな机上の空論は、市街地に踏み込んですぐに覆されてしまった。
俺達が最初に乗り込んだ市街地は、完(・)全(・)な(・)無(・)人(・)であった。
神獣ヘルが再現した古代魔法文明の町並みとよく似た、高度な技術で作られた道路と建物の数々。
だが、それらを利用する市民の姿がどこにも見当たらない。
「ゴーストタウンじゃないか。ノルズリ、これは一体どういうことなんだ」
「私に聞くな。我々が連中に追い落とされる前は、古代人の末裔や特権的な魔族が実際に暮らしていたはずだ。事前の偵察でも街にまでは踏み込まなかったのか?」
「偵察は上陸予定の周辺部までだ。街には踏み込まず、遠目に観察するに留めさせたんだが……くそっ、こんなことなら、もう少し踏み込んだ敵情視察をさせるべきだったか? ……いや、結果論だな、それは」
困惑しているのは俺達だけではない。
エルフの時間感覚では少し前まで、この階層で実際に暮らしていたノルズリの困惑は、俺達以上に深いようであった。
「どうやら、別のルートで突っ込んだ攻撃部隊も困惑してるみてぇだな」
いつの間にか建物の上に駆け上がっていたガーネットが、遠くを見やりながら報告を寄越してくる。
あちらにしてみれば、いざ攻撃だと熱(いき)り立って踏み込んでみたというのに、肝心の攻撃対象が見当たらなかったのだ。
戸惑いはこちらの比ではないだろう。
「……古代人の末裔が生身の肉体を捨て、魔王軍が地上侵攻の隙を突かれて敗走した……それを期に、第二階層と第三階層の連絡も途絶えたんだったな。この階層に残った魔族は、アガート・ラムに邪魔者として消されたのか?」
俺は『右眼』を凝らしながら、市街地が無人となった理由の考察に頭を働かせた。
「魔族を一掃したなら、この階層の総人口は激減したはずだ。それなら、幾つかの島を放棄して特定の都市に人口を集約していても、不自然じゃないはずだが……」
「ちょっといいかな、ルーク隊長」
カーマイン卿が発言の許可を求めて軽く手を挙げる。
ここで無理に仕切ろうとしてこないのは、名目上とは言え部隊長である俺を立ててのことだろう。
「何か分かりましたか?」
「というよりも、違和感がある。かなり前に放棄されたにしては、街(・)が(・)綺(・)麗(・)す(・)ぎ(・)る(・)と思わないかい?」
言われてみればその通りだ。
常に手入れをされていない建物はあっという間に劣化する。
これは古代魔法文明の建築物でも変わらない。
記憶の中に再現された魔力プラント然り、住人を失って避難シェルターとしての役目を終えたダンジョン然り、高度な技術を持ってしても経年劣化を避けることは困難である。
「銀翼騎士団は治安維持のみならず犯罪捜査も仕事のうち。職業柄、現場の状況を観察する技量とスキルは磨いているんだ。建物の窓枠、道路の表面、配管の錆の具合……どれを取っても手入れを怠った様子はない」
「でもよ、兄上! 建物ン中に生活感はねぇぞ!」
ガーネットがスキルで強化された腕力任せに建物の壁面に留まり、地上数階程度の部屋を覗き込んで、カーマインに報告を飛ばす。
「家具の類は?」
「一応あるな! でも使われてる様子はねぇ!」
「そうか! ……なるほどね」
カーマイン卿は短く息を吐き、それから俺に向き直った。
「隊長。これはあくまで僕の推測なのだけれど、彼らはこの街をい(・)つ(・)か(・)ま(・)た(・)使(・)う(・)つもりで保管しているんじゃないかな」
「……自宅の空き部屋も一応は掃除しておくのと同じように?」
「そういうこと。恐らくルーク隊長が推測した通り、組織の拠点としての機能はいずれかの島に集約しているんだろう。しかし、他の島を捨てたわけではなく、状況が落ち着けばまた使うつもりで手入れをしている……僕の見立てではこういう状況だ」
説得力のある推測ではある。この街の状況の説明としては最適だろう。
となると、問題になるのは『ならばどこを調べるべきなのか』という点である。
「……ノルズリ。いくつかある浮遊島の中で、奴らがどこか一つを選ぶとしたら……」
「ふん、考えるまでもない。あそこしかないだろう」
ノルズリは苦々しい表情を浮かべながら、宙に浮かぶ浮遊島の一つを見上げた。
「中央管(・)制(・)島(・)。第三階層の首都とでも呼ぶべき中枢の島だ」