My 【Repair】Skill Became an Almighty Cheat Skill, So I Thought I’d Open Up a Weapon Shop
Episode 210: Now is the time to approach the truth
「アズール……オーガスト一座の、アズールだ……!」
「何だって!?」
ガーネットも身を乗り出して復元された顔を確認し、冷や汗を垂らして同意する。
「おいおいマジかよ。本当じゃねぇか……どうなってやがんだ」
「……君達、オーガスト一座のアズールのことを知っているのか」
「ええ……顔見知りとも呼べない程度ですけど」
俺達とアズールの関係を簡潔に説明する。
とはいえ一度だけ彼女達の興行を鑑賞したのと、この万神殿に向かう途中で道案内をしたくらいなのだが。
「それと、あの二人はブルーノが事件を起こしたときにも現場付近にいたようです。騎士団の詰所に駆け込んだ子と一緒にいたのを見ました」
「ミスリル加工師のクレイグの息子さんだね。事件現場を目撃したときの混乱で連れの子達と逸(はぐ)れたと言っていたけれど……なるほど、そういうことだったのか」
カーマインは復元作業の後始末を神官長に丸投げし、俺達を引き連れて地下室を後にした。
「以前からオーガスト一座は容疑者に挙げられていたんだ。構成員の過去の経歴が不明瞭で、なおかつ彼らが王都に来てすぐに最初の事件が起こったからね」
無人の廊下を駆け足で進みながら、カーマインから大まかな説明を受ける。
「有力な手がかりがなかったから断定できなかったけど、これで決まりだ。夜の切り裂き魔(ナイトリッパー)の正体はオーガスト一座のアズール! あるいはパートナーのピンキーを加えた複数犯! ……正確には本物の彼女達に成り代わった何者かだ!」
カーマインの推理に俺も無言の同意を示す。
ブルーノが起こした事件の状況と先ほどの【修復】結果を合わせれば、それ以外には考えられない。
「本物のアズールとピンキーは王都に来てまもなく殺害され、遺体を切り刻まれて身元不明の死体にされたうえで、犯人達に成り代わられたんだろうね」
「バラバラ殺人には合理的な意味があった……成り代わりの事実を誤魔化すために……」
「三人目以降の犠牲者まで解体した理由も想像はつく。そうすれば死体の解体が手(・)段(・)ではなく目(・)的(・)だったと誤認させられるはずだ」
死体を切り刻んだ本来の理由は『他人に成りすました事実を隠蔽する手(・)段(・)』だった。
バラバラ殺人がこれ一件だけだったなら、わざわざ解体した意図を追求されて隠蔽が破られてしまう恐れがある。
しかし、バラバラ殺人が何件も続いたとしたらどうだ。
多くの人は『死体を解体すること自体を目(・)的(・)とした猟奇殺人鬼』を想定し、最初の一件だけに合理的な意味があったことには思い至らなくなるだろう。
「本当に手が込んだ犯人だよ。最初の事件は二件目以降の事件の共通点をぼかす煙幕になっていたし、逆に二件目以降の事件は最初の事件の目的を誤魔化す偽装になっていたんだ」
忌々しげに口の端を吊り上げたカーマインに、ガーネットが簡潔な疑問をぶつけてくる。
「けどよ、一座の連中は入れ替わりに気付かなかったのか? それとも一座全体が……」
「共犯の可能性は否定できないけど、あの一座は旅芸人が活動認可を得るために結成した寄り合い所帯だ。構成員同士の繋がりは希薄だから、気が付かなかったとしても不思議じゃないよ」
「ああ、くそっ……それに、そもそも入れ替わった後に加入したんなら、どうあがいても気付きようがねぇか」
ガーネットは舌打ちをして眉をひそめた。
今度は俺が質問を投げかける番だ。
「わざわざ成りすます労力を払ったということは、そうしなければ身動きが取れなかった人物が真犯人ということですか」
「だろうね。具体的にどんな立場だったのかは分からないけど、偽物を捕らえられたらそれで済む話だ」
「……それならここからは時間との戦いですね」
「取り逃しても打つ手はあるさ。今夜中にケリをつけるに越したことはないけどね!」
万神殿を駆け足で通り抜け、正門まで戻ってきたところで、来るときにはいなかった銀翼の騎士が書類を手に駆け寄ってきた。
よく見ると門前の馬車が一台増えている。
俺達が神殿に入った後でやってきたのだろう。
「団長殿、報告があります」
「読み上げてくれ。ルーク君は協力を受諾してくれたから気にしなくてもいい」
「はっ。ビルの工房を捜査したところ、凶器の人形に仕込まれていた刃物の仕様書と思しき資料が発見されました。犯人にミスリル製の武器を提供したのはビルで間違いないようです」
俺の隣でガーネットがピクリと反応を示す。
カーマインもそれに気が付いてしまったと顔を歪めたが、伝令の騎士は全く気付かずに報告を続けてしまう。
「恐らく犯人は、以前から裏ルート経由でビルにミスリルを供給していて、その影響力を行使して作らせた刃物を人形に仕込んで凶器としたのでしょう」
「えっとだな、ちょっと待ってくれ。続きは別の場所で聞こう」
「やはり本事件はミスリル密売組織との綿密な関連が疑われ……いかがなさいましたか?」
焦るカーマインの二の腕をガーネットの手が掴み、その小ささからは信じられないほどの力を込めて握り締める。
ミスリル密売組織――その名を聞かされてガーネットが黙っていられるわけがない。
「……こちらからも報告だ。第一の事件の死体がオーガスト一座のアズールとピンキーだと判明した。現在活動している人物は犯人による成りすましの可能性が高い。すぐに部隊を一座の宿泊場所へ向かわせろ。僕も後から合流する」
「は、はい!」
カーマインは一息で指示を飛ばして伝令の騎士を送り出し、素早くガーネットに向き直った。
「いいか、ガーネット。落ち着いて聞くんだ。お前の役割はだな……」
「兄上。オレも連れて行け」
「……お前の役割はルーク君の護衛だろう。優先順を間違えるんじゃない」
「けどよ……もしかしたら……」
母親を殺した密売組織のアガート・ラムが絡んでいるのかもしれない。
そう思うだけで居ても立ってもいられないのだろう。
ガーネットがミスリル密売組織を心から憎んでいるということは、それこそ初めて出会った日から知っている。
俺は憎悪も含めてこの少女を受け止めると決めたのだ。
ならば、俺が口にするべき言葉は一つしかない。
「構いませんよ。俺も協力させてください。冒険者としても加工師としても、他人事じゃありませんからね」
「参ったな……すまないね、君に迷惑を掛けるなと忠告したばかりなのに」
「甘えて困らせる程度なら構わないとも言っていましたよ」
「……分かったよ。僕の負けだ」
カーマインは溜息混じりに両手を軽く上げ、降参の意思を示した。
「ただしその格好では駄目だ。一度服を替えてから来るんだ。いいね?」