My sister and I moved around the world until I unified the continent to protect my sister.
69 Farms operated by Elves
薄暗い倉庫に集まったエルフさん達10人を前に、俺は緊張しつつ話をはじめる。
「俺が、新しくこの農場の所有者になった洋一です。今日集まっていただいた要件はヒルセさんから聞いていると思います。運営の具体的な方法については、農場内での事は全て皆さんにお任せします。周囲の森で狩猟採取をしてもらいつつ、今まで通りにワインなどの製品を作って下さい。
農場の建物一つを交易所とし、そこで一日一回首輪のネジを巻いてもらうのと、ここで作られた製品と街から買い付けた物資の交換をしてもらいます。交換比率はかなり悪いでしょうが、そこはご辛抱いただけると幸いです」
とりあえずそこまで言って反応を待つ。
「……ヒルセ達三人を連れて行くそうだな。身の安全は保障されるのか?」
おおう、そこからか。エルフさん達ってかなり仲間意識強いよね。
代表して声を発したのは、たしかこの中で最年長だった人。見た目は二十歳くらいの美人なお姉さんだが、300歳近いお歳だったはずだ。
とても駆け引きなんかが通じる相手じゃないだろうから、正直に話す。
「はい。北方に4000人ほどのエルフが生活している場所があり、そこにはヒルセさんと同じ村出身の方もいます。ですが4000人のうちの多くが牧場出身のエルフなので、森育ちの技術と知識を持った方が必要なのです」
「ヒルセから手紙を見せてもらった。だがそこはお前が所有する領地なのだろう? お前の心変わり一つで崩壊するのではないのか?」
このエルフさん、俺と対等の口調で話をしてくれる。奴隷と主人の話し方ではない。これはある程度俺を信頼し、胸襟(きょうきん)を開いてくれていると見ていいのだろう。ヒルセさんからかなり好印象が伝わっているようだ。
「領地ではないですし、厳密に言えば所有者はこちらにいるライナさんですが、おっしゃる事はおよそその通りです。
俺の心変わりについては……信用してくださいとしか言えないですね。俺はエルフに窮地を救われ、大切な妹の命を助けてもらいました。なのでその恩を返したいと思っているのです」
自分で言うのもなんだが、説得力弱いよな。なんとか『騙そうとするならもっとまとな話を考えてくるだろう』とか、そういう方向で信じてもらえないだろうか?
「そんな根拠のない話を信じろと?」
あ、やっぱダメだよね。しょうがない、セシルさんへの説明が面倒になるが、やはりこの手を使わざるを得ないか。
俺は持ってきた皮袋から、ジャラリとネジの束を取り出す。
「これは皆さんの首に嵌められている首輪のネジです。俺がエルフの皆さんを信用している証にこれをお預けしますから、皆さんも俺を信用してください」
そう言ってネジの束を置き、エルフさん達の方へズイと押しやる。
300年近く生きてきて、老獪であろうエルフさんの表情に驚きが走り、しばらくじっとネジの束を見つめた後、おもむろに本物であるかの確認をしはじめた。
「予備はありませんから、なくさないでくださいね。縫製(ほうせい)ができる人に、首から下げるヒモを作ってもらうのをお勧めします」
正直、これをやるとエルフさん達が逃亡してしまうリスクはあると思う。
だが俺としては、最悪ヒルセさんだけ。できれば他二人も一緒に来てくれればそれでいい。リステラさんには迷惑をかける事になるけどね。
ヒルセさんからはすでにかなりの好感触を得ているので、みんなが逃げても残ってくれるんじゃないかと期待している。それに、いくら採取の達人が五人いるといっても、牧場出身のエルフさん90人以上を連れて森の中を移動するのは大変なはずだ。
このあたりは辺境で冒険者もめったに来ないとはいえ、危険はゼロじゃないのだし、それならしっかりした拠点であるこの農場にいる方が安全だろう。
そう考えての行動だったが、もし全員逃げちゃったらどうしようという不安はぬぐえない。
ドキドキしながら待っていると、ネジが本物である事を確認したエルフさんはじっと俺を見、『わかった、お前の事を信用しよう。ヒルセ達をよろしく頼む』と言って頭を下げてくれた。
これは……うまくいったんだよね? これで明日の朝一人もいなかったら、俺泣いちゃうよ? それはそれで、エルフを解放するというリンネとの約束には適っているのかも知れないけどさ。
信用が得られたからかその後の話はスムーズに進み、農場の運営と交易所の設置について了解が取れ、街から調達して欲しい物は、塩と鉄の道具類との事だった。
石加工ができる人がいなくなるからかと思ったが、この辺りではエルフが使う黒晶石が採れないので、元々才能の持ち腐れだったらしい。エルフさん達が密造した矢の先端には、固い木を削った鏃(やじり)が、ナイフには釘(くぎ)を潰して磨いた物が使われていた。
武器の供給を頼むとセシルさんも抵抗があるだろうが、ナイフやノコギリくらいなら農場の運営に必要という事で、気にしないだろう。
それより問題は、首輪のネジの件をどう説明するかだよなぁ……。
散々悩んだがいい考えは出てこなかったので、『エルフの中から一人を選んで、その人に管理を任せる。その人は今回連れて帰るうちの一人の姉で、妹を人質に取っているので裏切る事はない』という話をでっち上げて、無理やり納得してもらった。
なんか俺、すごい悪人みたい。
セシルさん達は、お供の男の人がトレッドとの輸送担当。女の人が交易所担当で、セシルさんは両方の補助とトレッドでの拠点造りをするつもりだったようだが、交易所常駐だと護衛の費用が嵩(かさ)むので、月に二度交易に来るだけにしてもらった。トレッドまで往復10日くらいだから、問題ないだろう。
ワイン造りは、採取のスキルレベル4だった人が料理レベル2も持っていたので、その人に担当してもらう事になった。料理と醸造が同じなのかは知らないけど、妹いわく『基本的にはパンを発酵させるのと同じだから大丈夫だよ』だそうだ。
ホントか?
交易品については、今まで通りのワインと干しブドウとオリーブ油限定で、森で採った特殊な物とかは出さないようにお願いしておく。
ワイバーンの襲撃についても一応確認してみたが、最年長のエルフさんが『弓を自由に使えるのなら、群れで襲って来ても大丈夫ですよ』と自慢気に請け負ってくれた。
一応これでエルフ運営農場の体制が整った訳だが、念のためにしばらくは農場に留まり、最初の交易を見届けてちゃんと機能する事を確認した上で、交易の一行と一緒にトレッドに戻る事にする。
セシルさん達はいったんトレッドへ戻り、10日ほどして最初の交易便がやってくる。
農場の護衛費用がなくなったおかげで、初回の交易は多少の赤字で済んだようだ。これからの改善次第で黒字化も近いだろうとのセシルさんの分析を聞き、ちょっと安心する。
リステラさんからの提案だったとはいえ、大赤字を出させるのは申し訳ないからね。
トレッドに戻った俺達は王都への隊商を待ち、それに同行して王都へと戻る。
小型の馬車にヒルセさん達三人が追加で乗り、七人と荷物を積むとかなり窮屈だったが、
俺からすると全員美少女との密着馬車の旅な訳で、全く苦痛ではなかった。
ニナはエルフさん達になにやら色々教えてもらっているようだったが、俺と妹に読み書きを教わった他、今までの移動中にライナさんから馬車の扱いを、エイナさんに各種知識を、セシルさんに商売を、エルフさん達になんか色々教わっているのって、かなり豪華な講師陣じゃないだろうか?
賢い子に育ってくれるといいなと思いながら、それを見守りつつ、隊商が王都へ到着したのは、もう風も冷たくなった11月10日の事だった……。
大陸暦419年11月10日
現時点での大陸統一進捗度 0.11%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフ3974人)(リステラ農場所有・エルフ100人)
資産 所持金 2億9891万(-166万)
配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(解放奴隷)