My sister and I moved around the world until I unified the continent to protect my sister.

101 For the liberation of all elves 5 "Grand Duke Pharos Again"

 エイナさんは今、王立学校高等部の三年生。一年生の時は高等部でも学年主席を取り、今は薬学を専攻しているらしい。

 十日熱の薬の共同開発者、さらには在学中に子爵に叙せられた事もあり、学内では超がつくほどの有名人。おまけに結構な美人でもあるので、結婚の申し込みが絶えないそうだ。

 まぁ、本人は相変わらずのお姉様一筋で、結婚の申し込みは全部断っているらしいけどね。

 一度冗談めかして訊いてみたら、『私はお姉様が結婚した相手と結婚します。そうすればずっと一緒にいられますから』と、マジトーンで断言された。

 この国の結婚制度はおおらかで、経済力さえあれば男が複数の女の人と結婚してもいいし、女が複数の男の人と結婚してもいい。

 なんなら近親婚に対する禁則すらないが、この件は絶対に妹に知られてはならない。

 それはともかく、多忙であるはずのエイナさんなのだが、俺が話をしたいと言うとすぐに時間を作ってくれる。

 同じ家に住んでいるとはいえ、ありがたい話だ。

 そんな訳で、鉱山で作ってもらった模型や試作品を見せながら、使い方の説明や使用方法の試案。これらでエルフ奴隷の仕事を代替(だいたい)する計画について話を聞いてもらい、意見やアドバイスを求める。

 二時間ほどかかった全部の説明を黙って聞いてくれたエイナさんは、『……申し訳ありません、ちょっと頭を整理してきます』と言って自室へ引っ込んでしまった。

 妹が淹れてくれたお茶とお菓子をつまみながら待っていると、一時間位して戻ってきたエイナさんは、危ない薬でもやったのかと思うくらいに目が据わっていた。

「洋一様、これは大変な事です」

「お、おう……」

 それから丸一日あれやこれやと問い詰められ、例によって俺が知らない難しい話まで聞かれたあげく、ファロス大公に会う約束を取り付けてくれた。

 またトレッドまで長旅かと覚悟していたら、なんでも最近は王都の近くに広大な実験場を設け、そこに常駐して熱気球の研究をしているらしい。

 大公なのにそんな事してていいのかな?

 熱気球の実験でも積極的に自分が乗りたがるので、一年の間に足を三回折ったそうだ。

 一応領地経営の指示はちゃんと出しているし、数ヶ月に一度は自領にも帰っているらしいが、部下の苦労がしのばれる。

 ともあれ翌日、俺達はエイナさんに伴われて、王都から馬車で半日ほどの場所にあるという大公の気球実験場へ向かうのだった。

 俺はつけヒゲをつけて変装した、いかにも怪しげな格好でである……。

 王都の南東。去年の内戦では激しい戦場になったこの場所は、見渡す限りの荒地が広がっている。

 草原だと枯れている時期に燃えやすく、火を使う熱気球の実験には不便だから、場所としては良い所だと思う。

 一帯は去年の内戦後、戦功の一部として大公が希望して大公領の飛び地になったらしい。

『荒地で羊の放牧すらできないような場所をなぜ?』とずいぶん不思議がられたらしいが、北の大森林地帯を所望した変わり者の子爵もいるので、大目に見てあげてほしい。

 よく考えたら、子爵の仲介で大公に会いに行くのって、結構な大事(おおごと)だよね?

 昨日の今日であっさり決まったけどさ……。

 俺の心配をよそに、馬車に乗ったまま荒野をしばらく進むと、大きな気球の影が見えてきた。

 ……あ、円形じゃなくて飛行船みたいな流線型になってる。ちょっとずんぐりしてるけど……お、飛行中にも熱を送れるようにバーナーっぽい物が……。

 一応飛行船の存在も伝えてはあったけど、なんか凄い進歩してるな。

 巨大な気球を見上げて感嘆していると、建物の方からファロス大公がこちらにやってくる。

 両足にギプスを巻いて松葉杖だが、いたって元気そうだ。移動速度も速い。

「エイナ、久しいなよく来た! どうした、ようやく子爵領を姉に譲って我が領へ来る気になったか? 約束通り侯爵待遇で迎えてやるぞ!」

「四日前にもお目にかかりましたので、さして久しくはないかと。そしてその件は何度もお断りしたはずです」

「そうか……まぁよい、それより見ろ。試作17号機が完成したぞ! 上部の形を流線型(りゅうせんけい)に変え、風の影響を小さくした。熱の拡散に少々問題があるが、そこは熱風噴出し口の形状を変えて解決した。これで安定性が格段に向上し、将来的には風に逆らって前進できるようになる可能性も……」

 大公はなんかすごく早口で、テンション爆上がりだ。エイナさんがちょっとめんどくさそうな顔をしている。

 それにしても、エイナさんずいぶん気に入られてるな。侯爵待遇で招聘(しょうへい)って…………だが大公よ。貴女は頭いいのにエイナさんの事をよくわかっていない。

『子爵領を姉に譲って』なんて、エイナさんが応じる訳ないじゃないか。『姉と一緒に我が領へ来い』なら可能性あるかもしれないけどさ。

 エイナさんをライナさんから引き離すとか、多分一国を餌にしても無理ですわ。半分拘束してる俺でさえ戦々恐々なのに……。

 だが、熱気球の方はテンション上がるのもわかるくらいに凄い出来栄えだ。

 シルエットは元の世界で見た飛行船に近く、違いは尾翼がない事くらい。人力(じんりき)では風に逆らって進むのは無理だろうけど、多少の方向転換くらいはできるかもしれない。

 噴出し口を改善したというバーナーっぽい物は、なんか見覚えがある。

 ロケットストーブだったかな? L字型パイプの縦の部分を保温して底の部分で火を燃やすと、上昇気流と煙突効果で空気の流れが一直線になってすごくよく燃えるとかいうやつだ。

 って言うか、一年くらいの間に17個も試作したのね。さすがこの国トップクラスの権力と財力を持っているお方だ。

 ぜひともこの勢いで、エルフ奴隷解放のためにご尽力いただきたいものである。

 大公のマシンガントークが一瞬途切れた隙をついて、エイナさんが今日の訪問目的をねじ込んだ。

 大公がしゃべっているのを邪魔するとか、本来ならリアルで首が飛んでもおかしくない事案な気がするが、大公はまったく気にした様子もなくエイナさんの話に耳を傾けている。

 大公、ホントにエイナさんの事気に入ってるんだな。ひょっとして領地を離れてここに常駐してるのって、エイナさんと会いやすいからだったりするのだろうか?

 気球の実験場なら元の公爵領にだってあるだろうに……なんかホントにそんな気がしてきたぞ。

 俺がそんな事を考えている間に、エイナさんから説明を聞き、模型を見、設計図とアイディア帖を見た大公はすっごい真顔になり、『少し考える時間がほしい』と言って、資料と共に自室に引っ込んでしまった。

 エイナさんと同じ対応だな。賢い人ってみんなこうするものなのだろうか?

 松葉杖の代わりに試作品の一輪車に乗ってゴロゴロと運ばれていく後姿はちょっとマヌケだったが、あれ楽しいよね。俺も子供の頃にやった事あるわ。

 鉱山の革加工エルフさん達が、ゴムみたいに伸びこそしないものの弾力の高い素材を作ってタイヤに張ってくれたので、乗り心地も結構いいはずである。

 さて、どんな反応が返ってくるかな……。

大陸暦421年3月14日

現時点での大陸統一進捗度 1.2%(パークレン鉱山所有・エルフ3163人)(パークレン子爵領・エルフの村24ヶ所・住民2301人)

資産 所持金 34億4775万(-8万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(パークレン鉱山運営長)