My sister and I moved around the world until I unified the continent to protect my sister.

103 Towards the liberation of all elves 7 "The Night Before Plan Activation"

 全エルフ開放計画の準備に取り掛かって一年以上。

 年が変わって大陸暦422年の春、いよいよマーカム王国における全エルフ解放計画を発動する時がやってきた。

 今日は3月の24日。計画発動前日であり、妹の誕生日である。

 とはいえ、計画の準備に忙殺されているみんなと一緒に誕生パーティーなんてできるはずもなく、毎年恒例になりつつある二人でハンバーグパーティー@第三回をやったのだが、俺の料理の腕が初回より上がったかどうかは非常に微妙な所だと思う。

 とりあえず妹はとても喜んでくれたので、それでいいんだけどね。

 明日からは忙しくなるはずなので、今夜は妹と二人ゆっくり過ごす。

 俺が作ったハンバーグを食べたあとは、妹たっての希望で同じベッドで寝て、今までの事を色々語り合った。

 子供の頃の事。俺が引きこもってしまった時の事。この世界に飛ばされてからの事……。

 どう考えても一番インパクトがあるのはこの世界に飛ばされてからの事だと思うのだが、なぜか香織の話は95パーセントくらい子供の頃の事だった。

 そして半分くらいは俺が覚えていない思い出だった。

 ……いや、7歳の時に二人でブランコに乗った事とか、9歳の時に転んだ妹を助け起こした事とか、ふつう覚えてないよね?

 むしろ香織は4歳と6歳だったはずなのに、よく覚えてたな。

 記憶にない話はてきとうに相槌(あいづち)を打ちながら、妹が俺の腕を抱え込んで眠ってしまうまで、何時間も話し込んだ。

 思えば、妹とこんなにゆっくり話をしたのは初めてかもしれない。

 ちょっと引いてしまうような案件も多かったけどね……。

 俺の腕に抱きついて幸せそうに眠っている妹を眺め、改めて今の自分が幸せである事。そして、この幸せがあるのはリンネや薬師さん、ライナさんエイナさん姉妹や他のたくさんの人達に助けてもらったおかげである事をしみじみと噛み締める。

 この幸せを維持するために。リンネや薬師さんから受けた大恩を返すためにも、明日からの全エルフ解放計画はぜひとも成功させたい。

 この一年間、この計画に関わるみんなは実によく働いてくれた。

 リステラさんは、王国全土から数十万人のエルフを移送する準備を整えてくれた。

 エイナさんは、各所に根回しをしてくれた。

 ニナは、食料の確保と備蓄に全力を尽くしてくれた。

 薬師さんは、エルフ奴隷の対価として教会から提供する事になった上級傷薬を大量に作ってくれた。

 他のみんなも、受け入れの準備や資金稼ぎのために、寝る間を惜しんで働いてくれた。

 本当にありがたいと思う。

 他にも、ファロス大公はエイナさんと共に各種道具の量産と普及、改良を熱心にやってくれている。

 おかげでエルフ奴隷の労働力は余り気味で、値段も落ちているし、牧場での生産も縮小されているらしい。

 道具は人間の労働者にも影響を与えていて、失業率が上がって治安が少し悪化しているらしいが、これもエルフ奴隷が担っている労働を肩代わりしてもらうためには必要な事だ。

 大公は教会に10億アストルもの寄付をしてくれたらしく、おかげでこの件はファロス大公家の意を呈(てい)して行われているのだと教会に誤解してもらえて、話をとても進めやすくなった。

 いくら亜人とはいえ無益な殺生は神の教えに反するので、円滑に追放が進むようにエルフ奴隷の所有者に提供する対価として、上級傷薬を教会からとして提供する案も、あっさり認めてもらえた。

 この上級傷薬は薬師さん製作で、人間の薬師が作る物とは素材からして違うらしいのであくまで『上級傷薬相当』だが、エイナさんによると30万アストル相当の価値があるのだそうだ。

 出所は当然秘密である。さりげなくファロス大公家提供であるような事を匂わせておいたので、強引に調べたりはしないだろう。

 王国最大級の権威、マジ便利。

 エイナさん情報によると上級傷薬はそこそこ製作が難しい物だそうだが、薬師さんがふつうに作る傷薬が最上級傷薬相当なのだそうで、それを三倍に薄めた物が上級傷薬に相当するらしい。

 ……俺が持たせてもらっている『特別製だ』と言って渡された傷薬、どのくらい価値があるんだろうな?

 エイナさんによると、最上級傷薬の上に『神薬』と呼ばれる特殊な薬があって、一個2000万とか3000万アストルで取引されるらしいが、それに該当するのだろうか?

 ともあれ、薬師さんは土加工拠点で作ってもらった新しい調合器具のおかげかすこぶる順調に傷薬を量産し、一日4リットルほどを生産していた。

 三倍に薄めて、10ミリリットルほどが一回分だそうなので、250日で30万回分ほどを生産した計算になる。

 素材が大森林の深い部分でしか採れない物だそうで、むしろ採取に駆け回るリンネの方が大変そうだった。

 薬はできたがビンの調達が間に合わなかったので、大きなカメに入れてビニール状樹皮と布でふたをした状態で教会に運び込む。

 一個30リットルほど入るカメ100個になったが、一個が9億アストル相当の計算になるので、運ぶ教会関係者の皆さんの緊張が半端ではなかった。

 一気に市場に供給すると価値の低下を招くので、5年間有効の上級傷薬引き換え札として提供するらしい。これならビンの不足もなんとかなる。

 5年間というのはふつうの上級傷薬の有効期限だそうだが、薬師さんは『私が作った物なら20年は持つのに……』と不満そうだった。

 あくまで表向きは従来の上級傷薬として供給するので5年としたが、5年後の教会で品質が劣化していないと騒ぎになるかもしれないな。まぁ、今はそんな先の事は気にしないでおこう。

 大勢のエルフ奴隷を使っている所には、水車や風車、ベルトコンベアの実物提供もする計画になっているので、この30万回分だけで多分足りると思う。

 余ったら教会に寄付する予定だ。

 それにしても、エイナさんが薬師さんの薬を街で売る事に慎重だった理由がよくわかる。

 薬師さん一人で王国の薬需要を半分くらいまかなっちゃいそうだもんな。

 そんな事になったら既存の薬師から大反発必至ですわ。

 ……とはいえ、俺の中にはまだ大きな不安がある。

 対価として供給する上級傷薬の価値30万アストルは、エルフさん達がつけている首輪を売った時の相場45万アストルより低いのだ。

 その方が得だからと、殺して首輪を転売しようとするヤカラが出るかもしれない。

 奴隷の首輪は壊して外すか、転用可能な状態で回収しようとしたら、装着している奴隷の首を切り落として抜き取るしかないのだ。

 なので傷薬作戦と平行して、俺は奴隷の首輪一万個を注文した。

 教会から亜人追放令が出る少し前に、一気に市場に放出するためだ。

 奴隷の首輪は人間の奴隷にも使うので、エルフがいなくなった所で需要がなくなる訳ではないが、需要の大半を占めるエルフ奴隷がいなくなり、中古品が大量に出回っているとなれば、確実に値段は暴落するだろう。

 短期的にでも30万アストルを大きく下回れば、ほとんどの人がエルフ奴隷を教会に引き渡す選択をしてくれるはずだ。

 もちろん100パーセントとはいかないだろうが、俺の頭ではこれが限界だった。

 首輪の放出はすでに行われており、平均50万アストル購入の41万アストル売却一万個で、9億アストルの損が出たと報告が来た。

 痛いけど必要経費だ。

 いつもは中古買取45万アストルが相場なので、一度に一万個売却となると、それだけでも結構相場に影響が出たようだ。

 これにエルフの追放が重なれば、すさまじい暴落が起きるだろう。

 明日王都の教会で出されてる亜人追放令と共に、この情報も一緒に伝わるように手配をしてある。

 これなら、エルフの奴隷を殺して首輪を売ろうとする人はほとんどいないだろう。

 ……人事を尽くして天命を待つという言葉があるが、できるだけの事はやったと思う。

 もちろん本当に大変なのはこれからなのだが、今夜だけは穏やかな気持ちで、妹と二人平和のうちに眠りにつくのだった……。

大陸暦422年3月24日

現時点での大陸統一進捗度 1.2%(パークレン鉱山所有・エルフ3163人)(パークレン子爵領・エルフの村24ヶ所・住民2301人)

資産 所持金 87億2625万(+52億7850万)※鉱山製品の売り上げ一年分に、フランの花の売却代などを含む

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(パークレン鉱山運営長)