教会による亜人追放令から三ヶ月。

 鉱山に移送されてきたエルフさんは30万人を超えた。

 一応ピークは過ぎたようだが、それでも一日に4000~5000人が送られてきているので、まだまだ死ぬほど慌(あわただ)しいし、一時収容のエルフさんも増え続けている。

 最終的には、まだ10万から15万人が追加見込みだ。

 鉱山も大変だが、王国全土から膨大な数の移送を差配してくれているリステラさんは、本当に大変そうだ。

 何度か王都へ出向いた際に顔を合わせたが、目の下にくまを作ってかなり疲れている様子で、薬師さんの次くらいに憔悴(しょうすい)していた。

 大変な事に巻き込んでしまって申し訳なくなったが、こんな大仕事他の人ではとてもできなかったと思う。

 エイナさんがかなり手伝ってくれたそうで、それがなかったらとても自分一人では回せなかったと言っていた。二人には感謝しかないので、後日できるだけのお礼をしようと思う。

 しかし、そんなリステラさん以上に危なそうなのが薬師さんだ。

 絶える事なく100日近く、一日3000人が診察室に送られている訳で、入室患者も3万人を超えている。

 病室を見回る薬師さんは、どっちが患者かわからないほどに消耗した姿をしていた。

 眼鏡白衣に不健康そうに痩(や)せた理知的お姉さんはとても魅力的だけど、もうそんな状況を通り越して、ただただ健康が心配になるレベルだ。

 本人は、これこそ自分が存在する理由だといわんばかりに精力的に働いているが、さすがにそろそろ限界な気がしてならない。

 主人権限を発動して24時間の強制休憩を取ってもらおうとしたら、『こんな状況でベッドに入ったとして、ゆっくり眠る事などできるはずがないではないか……』と、涙ながらに訴えられ、結局10時間で妥協する事になってしまった。

 弱いな、俺……。

 一方で、大変なのは薬師さんばかりではない。

 セレスさんとその弟子達ががんばってくれている首輪外しは、他の仕事があるせいもあってまだ5万人ほどしか進んでいない。

 大森林への移住も、引率をしてくれる森出身の採取エルフさんが足りないので、まだ1万人ほど。

 事前に用意できた住居をあふれ、坑道で寝泊りしてもらっている人が数万人に達している。

 とにかくもう、桁が多すぎて報告を聞いてもピンとこず、現地を見てあまりの人数の多さに唖然とする事の繰り返しだ。

 ヒルセさんが探してくれている森出身のエルフさんは、30万人の中から894人が見つかったそうだ。

 薬師さんによると王国領域内に元々いたエルフの人口が2000人ちょっとだったらしいから、今までに見つけたエルフさん達と無事だった村の分を足して、これから上積みがある事を考えても、四割ほどが消えてしまった計算になる。

 特に、エルフ奴隷の最大の使用先であった鉱山からは、一人も見つからなかったのだそうだ。

 薬師さんも、あと一年遅かったら多分生きてなかっただろうしなぁ……。

 陰鬱な気持ちになりつつも、森出身のエルフさん達は貴重な戦力なので、ヒルセさんから事情を説明してもらい。体力の許す人から随時、得意分野での作業に当たってもらう。

 半数近くが採取を得意とするエルフさんなので、食料調達と大森林への移住はかなり進むと思うが、森出身のエルフさんが全体の0.3パーセントというのは、かなり少ない。

 移住人数の上限に響いて、食糧供給の負担が増えそうだ。

 農場が10パーセントくらいだったので甘く見ていたが、そういえば鉱山は4000人近くいて薬師さん一人だけだったもんな……。

 せめて薬学の知識を持ったエルフさんがいてくれると薬師さんの負担が減らせてよかったのだが、残念ながら見つかっていない。

 元々数が少なく、薬師さんが知っている範囲で他に二人しかいなかったそうだから、仕方ないだろう。

 そんなこんなで、慌(あわただ)しいうちに時間はどんどんと過ぎていくのだった……。

 亜人追放令から半年が過ぎた9月の末。

 エルフさん達の移送はほぼ終了し、今は十日の間に馬車一台。30人ほどが送られてくるだけになっている。

 9月30日の時点で、鉱山で受け入れたエルフさんは43万7845人。その中で入室患者が4万1983人。森出身のエルフさんが1207人だ。

 リステラさんによると、王国内で使われていたエルフ奴隷のうち、95%を越える数だろうとの事。

 さすがに100%は無理だろうから、かなりの好成績だと言っていいと思う。

 王国内に三ヶ所あった牧場も、無事廃業に追い込めたそうだ。

 だが受け入れたエルフさんの数はあまりに膨大で、一時収容のエルフさんこそいなくなったが、10万人以上が坑道で寝起きしている現状に変わりはない。

 ちなみにエルフさん達の一時収容をして番号で管理し、診察に回す人数を制限していた事は薬師さんにバレ、一瞬鋭い目でにらまれたが、薬師さんは感情を飲み下すかのようにしばらく目を閉じ、一言『手間をかけた、感謝する』と言っただけだった。

 怒られるのを覚悟していたので正直意外だったが、薬師さん自身にもオーバーワークな自覚はあったのだろう。

 敏感なのは他人の体調に関してだけだと思っていたのに、ちょっと意外だった。

 一方、新たに加入した森出身のエルフさん達のおかげで森への移住は急速に進み、新たに321ヶ所の村を開き、現時点での移住者は6万人を超えたが、基幹(きかん)となる森出身エルフさんの数的に、そろそろ限界である。

 緊急措置として当面の間は食料採取だけに専念してもらい、牧場出身で採取Lv2になったエルフさんを補助に送る事で、森出身採取エルフさん一人に対して牧場出身エルフさん150人の割合として村の数と人数を増やし、冬までに小規模な村を含めて500ヶ所、人数を8万人まで増やせる見込みではあるが、それでもおよそ36万人を鉱山で養わなくてはいけない計算になる。

 当初の想定を大きく上回る数だ。

 足りない住居は坑道で我慢してもらうとして、冬服3万着は採取に出られるエルフさんに優先して支給する。

 他は14万枚の毛布で33万人が、2~3人で一枚の毛布に包(くる)まって冬の寒さに耐えてもらう事になる。

 せめて食料だけでも潤沢にと思うが、今年の王国の収穫は平年並みの見込みだそうで、今までの備蓄と継続して買い入れられる量。採取可能な量をリンネとニナで計算してもらった所、冬の間十分な食糧を供給できる人数は17万人という結論が出た。

 36万人に供給するには、明らかに不足である。

 食料が十分でなければ、不十分な衣料で冬を越せるかどうかは微妙になる。

 リンネが改めて、めったに見ない深刻な表情で俺を訪ねてきて、ドラゴン狩りに行く許可を求めてきたのも当然の事だった……。

大陸暦422年9月30日

現時点での大陸統一進捗度 2.2%(パークレン鉱山所有・エルフ3163人+新規到着37万6545人)(パークレン子爵領・エルフの村345ヶ所・住民6万3601人)

資産 所持金 35億8380万(-52億7435万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(パークレン鉱山運営長)