リステラさんが合流して50日ほど。

 俺はこの世界に来て8度目の新しい年を。大陸暦427年を迎えていた。

 新年にお祭りや祝宴(しゅくえん)を催すのは大陸どこでも同じらしく、特に今年は1月1日を期して正式にダフラ王国をパークレン王国に併合する事が発表されたので、そのお祝いと内外に向けた宣伝も兼ねて、大きなパーティーが催された……らしい。

 ちなみに俺はそういうの苦手なので、エイナさんとニナ。そしてドラゴンを追い払った英雄であるリンネ達に任せて、スミクトさん達がいる大密林に避難中である。

 こちらのお祭りは数十人くらいの小さなもので、仲間内の和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気だ。

 知っている顔も多いので、人見知りの妹も楽しそうにしてくれている。

 豪華なだけの王宮でのパーティーよりも、俺はこっちのほうが断然好きだ。

 それに料理に限れば、テーブルにはスミクトさんが採ってきてくれた密林の食材と、妹が腕を振るってくれた絶品料理が並んでいるので、こっちのほうが上だと思う。

 そうなるといよいよ向こうのパーティーに出る理由はない訳で、こっちなら堅苦しい正装をする必要もないし、面倒くさい形式ばった挨拶(あいさつ)に追われる事もない。シェラが手づかみでカラアゲを食べていても、誰も文句を言う人はいないのだ……いや、ちょっと食べすぎだろシェラ。他の人の分もあるんだから少しは残しておきなさい。

 妹ががんばって作ってくれた羊10頭分のカラアゲを一人で食べ尽くす勢いのシェラを後ろから抱え上げ、『なにをする放せ! ドラゴンの姿に戻ってこの国を焼く尽くすぞ!』と、とんでもない脅し文句を口走って手足をバタバタさせるエンシェントドラゴンを、カラアゲのお皿から引き離す。

「ああ、せめて。せめてあと一つだけでも……」

 カラアゲから少し離れると、シェラは一転して悲しそうに。同情を誘うような切(せつ)な気な声を出す。

 …………思わず足を止めて、ライナさんに頼んで一個持ってきてもらってしまった。いらん知恵つけてきたなこのエンシェントドラゴン……。

 羊9頭分以上は食べたのに今更あと一個でもないと思ったが、シェラはその一個を口に入れてもらい、幸せそうにもぐもぐしている。

 ……なんというか、毒気を抜かれてしまうようなかわいらしい笑顔だ。別に元々怒っていた訳じゃないけどさ。

 ……とりあえずカラアゲから離れた場所まで連れて行き、ライナさんに『あの子はお腹いっぱいになったようなので、皆さんも遠慮せずにカラアゲを食べてください』と会場に伝言を頼む。

 そして俺は『まだまだ腹いっぱいになっておらんぞ』と抗議の視線を送ってくるシェラに、俺の血から作られた魔力キャンディを与えるのだった。

 カラアゲと並ぶ大好物らしいので、とりあえずなんとかなるだろう。

 まさか本気で国を焼き尽くしたりはしないと思うけど、一応その気になればできてしまう子だからね。ご機嫌をとっておくに越した事はない。

 そもそもシェラがその気になれば俺なんて簡単に振り払えるんだし、手足をバタバタさせていたのも抗議の意思を示すためであって、俺に当たらないように注意をしてくれていたみたいだから、本気で怒っていた訳でもないと思う。

 下手な事をして俺を傷つけたら、妹の怒りをかって二度とカラアゲが食べられなくなってしまう事をちゃんと理解しているのだろう。

 俺はコロコロと魔力キャンディを舐めているシェラを連れて宴の場に戻り、ぐるりと辺りを見回してみる。

 俺のとなりで果実ジュースを飲みながら、ライナさんと話したり俺に料理を勧めてきたりする妹。スミクトさんの肩に乗って楽しそうに話し込んでいるクトル。エルフさん達に片っ端から話しかけて人脈作りに余念(よねん)がないリステラさんと、平和で穏やかな光景が広がっている。

 ちなみにリステラさんは、ザルートでのパーティとどちらがいいですかと訊いてみたら、即答でこっちを選んだ。

 この人も基本、建前とお世辞ばかりの堅苦しいパーティーとか嫌いなタイプだからね。

 リステラさんは持ち前の社交性のおかげかすぐにスミクトさん達とも打ち解けて、今では一緒に大密林の奥まで商材を探しに行く仲になっている。

 ついつい忘れがちだけど、大密林って凶暴な魔獣はもちろん、小さいのに致死性の毒を持っている虫や小動物。人間でも捕食してしまう巨大食肉植物や、幻覚を見せて獲物を誘引(ゆういん)し、苗床にしてしまうキノコまで、恐ろしい危険でいっぱいなのだ。

 慣れているスミクトさんが一緒だから平気なだけで、普通に入ったら生きて出てくるだけでも一苦労な恐ろしい場所なのである。

 それだけに、人間には知られていない珍しいものが沢山あるらしく、中には伝説でしか伝わっていない幻の香木(こうぼく)なんかもあったそうで、商材探しは順調に進んでいるらしい。

 他の仕事も順調で、この村から近い川の対岸にはリステラさんが作った新しい商会である、リングネース商会の支部が建設中で、すでに一部の倉庫などは稼動をはじめている。

 あちこちから集められたエルフさんもすでに4000人を超え、ちょっとした街を形成して、拠点の建設と将来大密林へと帰るための準備を進めてくれている。

 すでに、密林出身のエルフさん達が牧場出身のエルフさん達に知識を教える学校のような場所がいくつも開設され、人口の7割は生徒である牧場出身のエルフさん達だ。

 最初に想定していたよりずっと速いペースで、この辺りの手際はもう、さすがリステラさんとしか言いようがない。任せて安心だ。

 ちなみに新しい商会であるリングネース商会の名前は、リンネのフルネームをそのまま使用している。

 商会長も、リンネに頼んで就任してもらった。

 ドラゴンを追い払った部隊の隊長の一人として、東部ではかなり名前が知られているので、商会の宣伝にもなって一石二鳥だとリステラさんの強い後押しがあったのだ。

 リンネにはここの所無理ばかり言って申し訳ないが、他ならぬリンネの悲願でもある全てのエルフさん達が解放されるためなので、なんとかがんばって欲しい。

 そんなこんなで色々な事が順調に進んでいる中、俺は新年のパーティーが一段落ついたころを見計らって、ザルートの街へと戻ってきた。

 親しい仲間だけで、身内の新年会を開くのだ。

大陸暦427年1月15日

現時点での大陸統一進捗度 54.8%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領並びに旧イドラ帝国領の大森林地帯を領有・旧サイダル王国領の大湿地帯を領有・旧ダフラ王国内の大密林を領有・大陸の四分の三を支配するパークレン王国に強い影響力・旧サイダル王国領東部に孤児(こじ)用の土地を確保)

解放されたエルフの総数 97万5251人(+8万6709)

内訳は各地で順次進行中

保護した孤児8万8193人(+7823) ※全体の88%を達成

資産 所持金 168億3516万(-213万)

配下

リンネ(エルフの弓士・リングネース商会商会長)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(エルフ解放計画遂行担当・リングネース商会副商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(次期国王候補)

エイナ(パークレン王国国王)

クトル(フェアリー)

シェラ(エンシェントドラゴン)