二度目の精霊祭が終わった後、私たちはいつも通りの日常を過ごしている。

この村での暮らしは、少しずつ変化があるけれど、その変化も含めて私は楽しいと思う。

少しずつ、この村を発展させていくために、皆が動いているのだ。

さて、今日はランさんたちが遺跡へと向かう日である。進めていた準備がようやく整ったのだ。

この村の何人かの村人と、後は護衛のためも含めてグリフォンの一匹――ルルマーが一緒にいってくれることになった。契約獣たちが一緒の方が、皆が無事に帰ってくる確率も高くなることだろう。

ちなみに遺跡に行くということでドアネーアが「ピキィイイイイ(我が行く)」などと口にしていたが、まだ生まれて一年も経過していないのに行かせるわけにもいかないと何とか皆でなだめた。

代わりにちょっとした旅行として、ドウロェアンさんの所へ一緒に向かうことにはなってしまったけど、まぁ、それは仕方がないだろう。

ドウロェアンさんの所ならば、安全が保障されているし、私もドウロェアンさんに会いたい。

ドアネーアは、ドウロェアンさんの子供というわけではなく、分体だけど、ドウロェアンさんはドアネーアのお父さんみたいなものだしね。

ちなみに遺跡に向かうのは、ニルシさんやランさん、あとは民族の女性であるベレニックさんなどの数名の人々である。

ベレニックさんは女性だけど、民族の中でも体を動かしたりするのが得意なようだ。村では、戦う術をミッガ王国の騎士たちが教えてくれたりしているのだけど、その中でもベレニックさんは筋が良いと褒められてた。

凄いなと思う。

私も習っているけど、魔法と違って武器を扱うのは難しいから。

「ランさん、ちゃんと帰って来てね」

「大丈夫ですよ。遺跡には危険なものはないはずですから。それにもし危険があったとしてもニルシさんやルルマーたちがいますもの。何かあったとしても守ってもらえますもの。私も少しずつ自分の身を守る術も手に入れることが出来ましたし」

ランさんは出会った時と同じような動きやすいローブを身に纏っている。

ランさんは今日はいつもより眠そうだ。今日、遺跡へと向かうということで興奮して寝不足らしい。ランさんらしいなと思いながら、寝不足でお出かけは危険だからちゃんと眠った方がいいと思う。

「ランさん、ちゃんと眠らなきゃだよ。遺跡はランさんにとって楽しい場所かもしれないけれど、ちゃんと眠らないと危ないからね。村でならともかく、外でご飯も食べずに、眠らずにじゃ危険だからね?」

「分かってます。私はちゃんとそのあたりはきちんとしますよ」

本当にちゃんと食べて眠ってくれるだろうか……少しだけ不安に思うのでニルシさんの方をちらりと見る。

ニルシさんは「俺がちゃんと食わせて眠らせるから気にするな」と言ってくれた。ニルシさんが見ていてくれているのならば、安心だ。

私が「おねがい」と口にしたら、ニルシさんは「ああ」と頷いてくれた。

それにしてもランさんは、獣人の村にやってきてからずっと一緒に居た。だからランさんがこれからしばらくいないのだと思うと、寂しさと不思議な気持ちを感じてしまう。

遺跡という場所は、どういった場所なのだろうか。どんなものを私たちの村にもたらしてくれるのだろうか。

私はまだ見ぬ遺跡に思いをはせて、そんなことを考えてしまう。

「レルンダ、遺跡から帰ってきたら沢山何を見たかお話しますからね。そして一緒に遺跡にも行きましょうね。私は必ず此処に戻りますから、元気に過ごしていてくださいね。私も元気に過ごしますから。何か困ったことがあったらドングさんに言うんですよ?

レルンダは怪我や病気にはならないと思いますが、どうか気を付けてくださいね」

「うん。ランさんも、ちゃんと気を付けてね」

ランさんはかがみこんで、私に向かってそう言って心配そうに声をかけてくれる。ランさんが私を心配してくれているのが分かって嬉しくなった。

ランさんやニルシさんたちを見送る。

その場には、村の人たちが皆そろっている。

――いってらっしゃい。元気で帰ってきて。

皆の思いは共通で、そんな思いで皆で彼らを送り出す。

「行っちゃったな」

「うん。ランさんたち、遺跡へ行っちゃった」

「俺も遺跡行きたかったなぁ……」

「ランさんたちが帰ってきたら、次は一緒に行く」

今回は危険がないかの様子見も込めて大人たちだけで遺跡へ向かう。子供達は行きたくてもお留守番だ。

だけど、その次は行かせてくれると言ってくれたから。

次回は、まだ小さいけれど行きたいというドアネーアも連れて行った方がいいだろうか……。私が遺跡へと向かうのならば、ドアネーアも連れて行った方がいいだろうしなぁ。

そのあたりも、ランさんたちが帰ってきたら相談をして、契約獣の中で誰を連れて行っていいかも相談をしないとね。

ランさんたちの姿が見えなくなって、私たちはそれぞれの日常に戻っていった。

――少女と、見送り

(神子の少女は、遺跡へ向かう人々の見送りをする)