Mysterious Job Called Oda Nobunaga

6 Kagojo Great Victory

「よし、みんな死守するぞ! 敵は浮足立ってる! 勝機はある!」

俺の声に反応して、威勢のいい声が上がる。俺たちは今、間違いなく一丸となっている。放置するわけにいかないから、とりあえず攻めてきているだけの敵に負けたりなんてしない。

「ここはラヴィアラに任せてください!」ラヴィアラは砦の突き出た部分にあるちょっとした塁壁に身を隠し、少し顔を上げては次々に弓矢を放っていった。弓矢を受けた敵兵が倒れていく。ラヴィアラの弓矢の技術は相当なものだ。エルフには弓にすぐれた者が多い。一方で、敵の弓矢は塁壁のおかげで跳ね返されて、ラヴィアラにまでは届かない。

正面まで来たものの、そっちの側は切り立った崖になるように作っている。とても登るわけにはいかず、足を止めていると、こちらの矢に撃たれる。敵が弓矢や魔法の火球を撃ってきても、塁壁を破壊するまでの力はない。

こっちの砦はすべて土でできてるからな。火を放って燃やすことすらできない。建物を壊すこともできない。こじ開ける門すらない。シンプルだからこそ、敵は攻めあぐねる。もっとも、建物を作る時間なんて最初からなかったが。

やがて、横から登れる道があるとわかって、敵が攻めてくる。けど、それも想定の範囲内。わざとスロープ状にジグザグに道を作っているから、高いところから槍や弓矢でいくらでも狙撃できる。最初に上がってきた十人の敵兵はすぐに全員、命を落とした。こちらの拠点から攻めてくるのが丸見えなのだ。しかも道が細いから数を任せて突っ込むこともままならない。

「このような土の砦が機能するか不安だったのですが、こうも役に立つものなのですな」老将シヴィークも舌を巻いていた。「直感的に土の砦でどうにかできると思いついたんだ」

作戦を出していた時、俺の頭にはなぜか土の砦だらけで戦争をしていた世界のことが頭に浮かんだのだ。これはオダノブナガという英雄の知識や経験なのかもしれない。その世界では土に高低差をつけるだけで、十二分に敵を防げる砦になっていた。百人の兵で千人の敵を防ぐこともそう難しいことではなかった。たしかに敵兵が空を飛ぶわけではないのだから、土だろうと、それを工作するだけで、いくらでも厄介な砦にできる。

本来、城というものは相手より地の利で優勢に立つための場所でしかなかったのだ。時間があれば石の城を作ればいいが、そんな時間をかけずとも防衛拠点は作れる。

強引に特攻をかけて、ついに敵の一部がスロープ状の道を進みきって、砦の本体に入ろうとしていた。なかなか剛の者だな。死線をかいくぐって、攻めてくるところは買ってやるぞ。

しかし、その敵もすぐに青ざめた。そいつの進んできた道は砦に続いていないのだ。間には大きな深い溝があって、飛び越えることなど絶対にできない。足踏みしているうちにラヴィアラがその兵士を射殺した。

こちらの兵士は木の板を掛けることで別の場所から移動させる。敵がメインの道と思っているところは最初から途切れている。

「この土の砦、シンプルなようで、ものすごく技巧的ですね。ラヴィアラ、びっくりしました」「俺もびっくりしてるぐらいだ。道の工夫をするだけで、こんなに有利になるものなんだな」「少なくとも力押しで攻められてるうちは絶対に負けませんよ。だって、こっちの兵士はみんな元気なままですもん」ラヴィアラが後ろに目をやる。たしかにケガ人すらほぼ出ていなかった。

こちらは圧倒的に有利な状態から戦うことができている。死の恐怖も実質的な危険も激減しているのだ。

一方で、敵の死傷者はすでに百人を超えていると思う。まず、こちらの正面に来てしまった連中が次々に撃たれて、スロープから攻めようとした敵も各個撃破されている。こんなところにこちらの砦ができているだなんてミネリアの連中は誰も思ってなかった。考えてもない敵に強引に向かっていっても、死体の数が増えるだけだ。上手くこちらの砦を落とす計略などまったく立っていないだろう。

結局、敵はほとんど何の戦果も得られずに撤退していった。鬨 俺たちはの声をあげて、勝利を祝った。

「この作戦はたしかに俺が考えた。だが、君たちの勇気がなければ何も形をみなかった。礼を言う!」俺の言葉で、さらに兵士たちは盛り上がった。

俺たちネイヴル側が優勢ということで、兄ガイゼルも援軍を送ってくれた。これで元のナグラード砦と対岸砦の両方を守ることができる。敵の土地に砦を作ったことは兄も書状の上では激賞して、「言葉にできないほどの功績である」と書いてあった。

兄にとって俺が活躍してるのは楽しくないかもしれないけど、敵方の脅威が大幅に減ったのは間違いないから、そこはうれしいだろう。

ミネリア側もこちらを一気に滅ぼすことは諦めるしかなくなったようで、ぴりぴりした戦争状態は一度落ち着いた。はっきり言って、敵は死者を出しすぎたのだ。作戦を根本から考えざるをえなくなったのだろう。俺も兄ガイゼルから帰還命令を受けた。あくまで、俺は緊急時の助っ人だったので、当然と言えば当然だ。ラヴィアラと一緒に所領に戻る。

「アルスロッド様に敬礼!」最後に老将シヴィークが兵士全員に俺に礼をさせた。「あなた様は希代の英雄です! ネイヴルはあなた様のおかげで守られました!」

「俺が英雄なら、お前たち一人ひとりも英雄だ! 胸を張ってこのネイヴルのために戦え!」最後にちょっとかっこつけたことを言ってやった。

帰還中、ラヴィアラに言われた。「ラヴィアラはアルスロッド様のことなら何でも知ってるつもりでしたけど、その想像を三段階ぐらい上回る戦果を上げられましたね」「そうだな。なにせ俺の想像も三段階上回ってたからな」最初は戦死も覚悟してたのに、敵を押し返すことができた。

けど、ラヴィアラは少し不満があるらしく、かわいく頬をふくらませていた。すねている時の態度だ。「何か問題があったか?」「こんなにとんでもない力を持っているんでしたら、ラヴィアラに教えてほしかったです! ラヴィアラに隠し事をするだなんてひどいです!」

「だから、俺も想像できてなかったんだから、しょうがないだろ。すべては職業のおかげだと思う」「例のオダノブナガですか?」「そういうこと」俺は馬上でうなずく。「魔法剣士なんて目じゃない。これはきっと最強の職業だ」