Mysterious Job Called Oda Nobunaga

8 A city on the highway

先日、狩猟のついでに俺の屋敷に来た兄ガイゼルをもてなしてやったら、かなり引きつった表情をしていた。おそらく、俺に仕える家臣が多いことを見たせいだろう。

「弟よ……なぜ、これほどにも家臣がいるのだ……?」「すべてはナグラード砦を守ったことに起因するものです。周辺の土地からも武勇に自信のある者がぜひ雇ってほしいとやってまいりまして、それを繰り返していたら数が多くなってまいりました」

「こ、こんなに多くの家臣を養うのは大変ではないのか……?」「たしかに。ですが民が増えたことにより、これまで休耕地になっていた土地を農地として使うことができるようになり所領の収穫高はかなり増えそうです。それにより土地を増えた家臣にも分配することができました」

「そ、そうか……。だが、お前はあくまでも領主である私の家臣だからな……。あ、あまり分をわきまえぬことはするなよ……」勝手に言ってろ。そんなこと守るわけないだろ。

「しかし、先日の砦防衛も、危うい場面がいくつもありました。もし、自分に今ほどの兵力があれば、より一層簡単に敵衆を討ち果たすことができました。ネイヴル領を守るため、この兵力はきっと必要になります。どうか、ご理解ください」「うっ……。そうか……。それもそうだな……。よし、今後も忠勤に励むようにな……」「はい、弟が兄を助ける、これこそ天国の父上もお喜びになる道かと存じます」

昔と比べると俺にも余裕が出てきたので口がまわるようになってきた。今後もとことん兄を追い詰めてやろう。

しかし――こんなことを続けていれば、猜疑心の強いあの兄はどうせ何か手を打ってくるだろう。それはわかっていたので、事前に兄が俺のことをどう思っているか、探らせていた。

早速、一報が入った。行商人としてネイヴル城に入っている間諜が報告してきた。「子爵はアルスロッド様に対して怯えていらっしゃる様子でございます。とくにまだ自分の子もいないので、今、自分が殺されたら子爵の地位を奪われるのではないかと不安になっておられるようです」「そうか。わかってはいたことだが、本当にそういう気持ちを隠せない男だな」

まだ俺が砦から戻ってきて九か月ほどしか経っていない。つまり俺が職業を得て正式に、大人の仲間入りをしてから一年も経ってないわけだ。俺も、こうも、状況が変わってくるとは思っていなかった。俺は歴史書もたくさん読んでいた。武名をあげた軍人が独立した王朝を打ち立てるのはよくあることだ。カリスマ性のある者のもとに人は集まってくる。逆に戦争の弱い兄は、本質的に人の信頼を受けづらい。

「兄の妻のところには安産成就と名高い神殿の護符でも贈ってやろう。今後も、情報収集を続けてくれ」商人は下がっていった。

こっちが怪しい動きを起こしているわけでもないから、土地を召し上げるなんてことは言い出せないだろうし、おそらく近いうちに俺を殺そうとしてくるはずだ。ガイゼルの性格はよく知っている。このまま平然と俺が台頭するのを待つことなどできない。

だが、その時こそ、最大の好機だ。

それまではできるだけ自分の評判を高めておく。

俺は一族の墓の整備などを積極的に買って出た。ネイヴル家――土地と同じ名前を姓に持つ一族だ。

別に一族の俺が墓を綺麗にしてはいけない法などない。でも、外から見れば、さも俺がネイヴル家の後継者であるように見えるだろう。もちろん、表面上は忙しい当主に代わってという立場でやっているが。

そんな折、また心の声が何か言ってきた。

――今のうちに商業振興策をやっておいたほうがいい。貧乏人の覇王などはおらんからな。試すには小さなところからやったほうがよい。

金が入って、困ることはない。でも、具体的にどうすればいいんだ。

――商人の出店税を無料にしろ。街道に立つ市の規模がきっと大きくなる。

市の出店には税を納めねばならないのが、それまでの常識だった。ネイヴル城下のように商業組合のほうにも金を払う必要まではないが。

それでは領主側は儲からないんじゃないのか?

――利益のうちから一部を上納させるシステムに変えればいい。

税を払わずにトンズラされそうだけどな。

――儲けが出るなら、商人も素直に払うさ。儲かる話を税をケチってだいなしにしたくはないはずだ。ろくに儲けのない奴はが一人二人払わなくても害はない。税は金のあるところから徴収したほうがいいのだ。

オダノブナガの言うことを信じてやろうか。

俺は自分の領地中に、「市や店で物を売る出店税はすべて無料にする。商人でも農民でも売りたいものを好きに出してよい。ただし上がった利益のうち一割を支払うように」という布告を出した。

効果がすぐにあった。見回りで街道沿いにできる市を見てみたら、明らかに今までより規模が大きくなっていた。そうやって人が増えると、それに付随して、酒を売る者だとか弁当を売る者だとか、新たな商売に乗り出してくる者も増える。市の規模は加速度的に大きくなっていった。

ちょうど俺が職業を得て、一年ほどになる頃、ラヴィアラとまた見回りに出た。「ラヴィアラ、こんな活気のある市、見たことがないですよ!」そのにぎやかな様子に、ラヴィアラは心底驚いていた。「まだネイヴル城下と比べると小さいけど、仮設の市としてはネイヴル最大級かもしれんな」

「母方であるエルフたちも薬草を売ったりしてますし、獣人の行商人も以前よりずっと増えてますね。これは街道の市というより、ほとんど都市ですよ!」「城下の商人も、ここに出店をはじめるところが増えてる。失敗しても出店に金がかからないから、経済的損失もないからな」「本当に大成功と言っていいですね」

今のところ、売り上げもちゃんと納められている。支払ってないのがばれれば、営業権を剥奪されるので、利益が上がっているところほど、真面目に払おうとする。むしろ、今の市は金を払ってでも出店したい土地になっている。

「でも…………これ、子爵を刺激しますよね……」少し声を潜めてラヴィアラが言った。

「ああ、間違いなくな」そろそろガイゼルは動いてくるぞ。