Mysterious Job Called Oda Nobunaga

14 Neighborhood control

そして、夜になった。空気でわかる。敵の気持ちは弛緩している。

マール子爵家はかなりの間、本格的な戦争はしてこなかったはずだ。本格的な戦争ばかりだと、大敗した時に滅亡の危機に瀕するから、よほど勝つ自信がなければみんなそういったものは避ける。

とくに俺の土地から見て東側には中小の領主が多い。ミネリア領みたいな一県レベルを支配する伯爵位を持つ者もほぼいない。だからこそ、どこも本格的な戦争を避けて、どうにか自分の土地を守ることだけは果たしてきたのだ。

自分のところはそちらを全力で攻めないから、そちらも見逃してくれ――そんな暗黙の了解を多くの領主が守ってきた。

そんなことを続けていても、いずれミネリアみたいな大きな勢力に滅ぼされるだけだ。ルールというのは力が伴っているからこそ、価値を持つ。一匹のカマキリが大きな牛にルールを押し付けようとしても踏まれれば、ひとたまりもない。

「今から作戦を行う。朝には笑顔で再会できることを祈っているぞ」

俺のいる部隊は敵の子爵がいる丘の上を目指す。もちろん、物見の兵はいるだろうし、敵もこちらに気づいて、矢を撃ちかけてきた。

これは大きな盾を掲げたこちらの兵が防ぐ。だんだんと俺たちは敵の側に接近する。

距離が近づいてくると、敵も槍や剣に持ち替えて、防ごうとする。弓矢で追い払えるものではないと判断したらしい。いよいよ、乱戦のはじまりだな。俺の前のほうで斬り合いがはじまる。

敵には地の利はあったが、こちらが攻めてくると想定してなかった分、おろおろとしている。そして、俺たちに丘にまで上がられだしている。

ここから先は攻めていると感じている側が心理的に有利になる。

俺がいたあたりも乱戦に巻き込まれだした。もう、敵の子爵がいるところまで、そう距離はない。「よし、お前たち、よく弓矢を防いだ! あとは自分の身を守ることを考えていろ!」

俺は盾の壁から飛び出す。

そして、剣を持って、突っ込んでいく。

至近距離までくれば、味方に当たる矢はほぼ使えない。剣での勝負なら、今の俺ならほぼ負けることもない。一人一人、確実にこちらを攻撃してくる奴を斬っていく。

まだ、こちらの素性に気づいてない奴も多いな。かなり敵の大将まで迫っているし、名前を出してもいいか。味方の士気を高める効果のほうが大きい。

それに俺はここではっきりと英雄になっておく必要がある。

「お前ら! 俺の名はアルスロッド・ネイヴル、ネイヴル子爵だ! そちらの子爵を出せ! ここで雌雄を決しようじゃないか!」敵兵もさすがに俺が来てることに気づけば目の色を変えた。俺を殺せば大きな手柄になるからだ。

とはいえ、恐怖心はない。これは自分で決めてやったことだからだ。こっちは平常心だ。一方で、向こうは落ち着いてなどいられない。一つずつ、ゴールに近づいていけばいい。

俺を無理に狙おうとする分、大将を守る陣形も崩れている。もう、どうとでもなる形だ。もちろん、俺以外にも攻め込んでいるこちらの兵が敵を押し込んでいる。丘の上まで上がってしまえば、敵と互角以上に渡り合える。こっちの兵は覚悟を決めて参加してる連中ばかりだからな。

マール子爵との間にある敵を順番に斬っていく。俺と相対すると、敵の能力は自動的に下がる。職業のボーナスだ。だから、よほど秀でていないと、俺に勝つことなんてできない。

そして、ついてにマール子爵の前にいる最後の一人を刺し殺した。月明かりのおかげで視界は開けている。俺の動きは軽快だ。息もほとんど上がっていない。

「さあ、マール子爵、一騎打ちをいたしましょう」相手の子爵は四十歳ほどの中年男だ。俺を見ただけですでに怖気づいている。「どうして……お前がこんなところに……」

――やはり、ザコか。お前と同じ領主とは思えんな。覇気というものがまったくない。これでは好機があろうと逃がしてしまうわ。

心の声が言うとおりだな。最初から戦おうという意思がない。俺を殺して名を上げようという気持ちすらないのだ。

「くそ……ここは逃げ……」なんと敵は俺から背を向けて逃げ出そうとする。それは考えてもなかった。もう、子爵の地位なんて自分から捨ててほしいレベルだ。

その子爵の足に矢が刺さる。そのまま、マール子爵が転倒する。大きな矢は足を貫いて、地面にまで刺さっていた。完全に敵は地面に打ちつけられていた。

強弓「ネイヴル子爵の腹心、のラヴィアラ! 臆病な子爵に一射を放った次第! 夜闇の中といえ、油断めされるな!」

遠くからラヴィアラの声がする。助かった。では、ゆっくりと自分の役目を果たさせてもらおうか。

剣を勢いよく横に薙いだ。

俺はマール子爵の首を背後から一撃で斬り落とした。すぐにその首を取る。誰もその首を奪いにも来ないから、たいして部下からの尊敬も集めてないんだろう。

「マール子爵の首を取ったぞ! 俺たち、ネイヴル子爵の勝ちだ!」

その声を聞いた敵方陣営はあわてて逃げ出していった。そこを背後から俺の兵士たちが背中から斬って、突いていく。やはり、小競り合いが当たり前になっていたから、全力で敵が来た場合の対処策がなかったらしい。この様子だと、似たような勢力は軒並み勢力下に置けそうだな。

――ああ、なつかしい。信長の時代を思い出すわい。

オダノブナガも何かにひたっていた。きっと、オダノブナガも破竹の勢いでザコを一掃する時期があったのだろう。

当主の子爵が討たれたことで相手方は、機能不全に陥り、そのまま抵抗も見せずに降伏した。一族には、ひとまずある程度の土地を与えて、家臣に組み入れることにした。完全に滅ぼしてしまうと、ほかの領主が徹底抗戦をしてくる恐れがある。

こうして、俺はヒージュ郡とキナーセ郡も完全に支配下に組み込むことになった。都合三郡を支配したわけだ。ネイヴル子爵としての最大版図はこれにてあっさり実現した。

といっても、これですべてが終わったわけではない。俺が単身で敵に突っ込んでマール子爵の首を取った、そう各地に喧伝させた。勇名を馳せて損をすることはないからな。また、武人が仕官したいとやってきてくれるなら、そのほうがいい。

これで俺の武力を恐れて、周囲の領主が自分から従ってくれれば最高だが、別にそうでなくてもこっちから滅ぼさせてもらう。面従腹背ということもあるし、はっきり力で制圧しておくほうが安全ではある。

ネイヴル城に戻ると、また祝いに来る者が後を絶たなくなった。こればっかりは面倒でもどうしようもないな。

その日も四回、会見の時間をとることになった。

「さすがに肩が疲れてきたな……」「じゃあ、肩もんであげましょうか?」ラヴィアラが楽しそうに言ってきた。「でも、耳に息は吹きかけるなよ」「自分の時だけ、勝手ですね……」