――伯爵ランクの領主になったため、特殊能力【覇王の道標】獲得。指揮を受けている兵士の信頼度と集中力が50パーセント上昇。

この特殊能力を使えば、短期間でも限られた数の軍隊の統率力を高めることはできるはずだ。

ただ、特殊能力だけに頼るのはよくない。あくまでも職業のボーナスは元の能力に加算される。未熟な者がどんなボーナスを得てもその効果は小さい。今回の場合、まず兵士たちがある程度でもやる気になってくれないと、せっかくの特殊能力も薄れてしまう。

そこで、俺は親衛隊というものを組織することにした。赤熊隊 さらに、これに赤い布を腕や鎧に巻いた、同様に白い布を巻いた部隊であると名前をつけた。これで彼らが特別な存在であると遠くからでもわかるし、そこに抜擢された側も誇りを持ち、やる気にもなる。

この二つの部隊はまず、こちらから選抜し、かつ、厳しい訓練に耐えられる者だけというただし書きつきで志願者を募った。すぐに兵士たちが集まった。特別な者になりたいという欲望は誰しもが持っている。そこを上手くついた形だ。

黒母衣 ――これはまるで衆と赤母衣衆のようであるな。なんとも興味深い。心の声もこれと似たものを知っているらしい。あくまでも、これは俺のオリジナルだけど。――なるほどな。この覇王がお前の職業に選ばれた理由がわかった。せっかくだから、聞いておいてやるよ。いったい、その理由っていうのは何なんだ?

――おそらく、世界が異なっても似たような考えや発想を抱く者は、現れるのだ。お前は織田信長に近い発想を自然と出している。これまでも事象もすべて完全に織田信長と同じではないが、似通った部分がある。だから、お前が得た職業がオダノブナガだったわけだ。すべては偶然ではなく必然だったのだな。たしかに歴史書を読んでも、まったく違う国で似たようなことを考えた人間がいることがわかる。

もっとも、だからといって自分に似た人間が職業になるのは謎だけど。職業は神が授けるものだから、人間が理解しようとすること自体、畏れ多いかもしれないが。

――お前は神を信じているのだな。あまり神を信じすぎて、足下をすくわれたり、心のほうを巣食われることがないようにな。もっとも、この世界ではある程度はやむをえんか。

今日の心の声はどうも冗長だが、これは機嫌がいい証拠らしい。このまま、やればいいだろう。

さてと、実際の訓練をやるか。

俺は赤熊隊と白鷲隊を集めた。みんな、俺が支給した布を巻きつけて、厳しい顔をしている。もちろん、厳しいといっても俺を非難してる顔じゃなくて、気合いに満ちた顔だ。俺はナグラード砦の作戦だけではなく、マール子爵の首を取ったことでも名を馳せている。近隣の県で随一の英雄になったことは間違いない。だから、俺の実力を侮っているような者はここに一人もいない。

伯爵の身分と武勇がつりあっているのは気持ちがいいな。たいてい、偉くなるほど、直接の戦闘体験は減ってしまう。常に最前線にいるわけにはいかないから当然だが、それがエスカレートすると兵士の気持ちが理解できなくなってきたり、戦場での判断を誤ったりする。つまるところ、貴族化しすぎると、人間は兵士ではいづらくなるわけだ。

その点、俺はさんざん戦場で嫌な思いもしてきた後に強くなった。戦争の苦しみも絶望もちゃんと把握している。

「いいか、俺は小領主の次男の立場から砦を守り抜いて功名を立てて、今の伯爵の地位まで上り詰めた。だが、何分、急なものだったから、兵士の鍛錬が伯爵の格に見合うものではなくなっている。これは俺にとっての恥でもあるし、君たちにとっての恥でもある」

俺は居並ぶ軍隊の前で声を張り上げる。

「そこで、今日から君たちにきびきびとした伯爵の親衛隊らしい動きを身につけさせる。これはただ、儀礼的なものではない。乱れのない動きは敵の領主を恐れさせ、我々の力が本物であると示す。どうか、耐え抜いてもらいたい」

「「うおおおっっっ-!」」大音声 で声が響く。聞いていて、すがすがしい。よく短時間でここまで来れたなと思うが、感慨にふける暇はない。おそらく、今後、一県や二県を支配しているような勢力と戦わないといけない時も来る。そういった連中に勝てる力を手にしないと、結局は滅ぼされてしまう。

「まずは行進からだ! だらだらと歩く兵士よりも、王都を練り歩く儀仗兵のほうが強く見えるのは道理だからな!」

俺は徹底的に行進の練習をさせた。それがミネリアと会談する時、最も重要な武器になると確信していたからだ。

相手は大勢力。そんな相手が注視する部分が軍隊の強さだ。といっても、腕っぷしがいいかどうかなんてものは見た目ではわからない。しかし、軍隊の動きに見事な統率がとれているかどうかはすぐにわかる。そんな軍隊を持つ勢力はほぼ確実に強いものに見える。

まして、俺は一度ナグラード砦で相手に辛酸を舐めさせている。その結果が偶然ではないと思い知らせることができれば、必ず会談はこちらに有利に運ぶ。

おおかた、ミネリアは俺という新興勢力がたいしたことはないということを見て、安心したいのだ。

使者はこっちを連携して攻撃することもできると脅していたが、それは裏を返せば、こっちだってミネリアの周辺勢力と提携することができることを意味している。

数年のうちに一県の半数以上の郡を支配するようになった勢力を黙殺はできまい。気味が悪いことは確かなはずだ。だからこそ、向こうはまだまだ恐れるほどの敵ではないと思いたい。同盟という形で押さえこめれば、なおいいと考えている。

そんなにあっさりと思惑には乗らないからな。むしろ、ミネリアを利用して、こっちが大きくなってやる。

一週間も続けて、訓練をすると、親衛隊の動きは見違えるものになった。それは、まるで王国全盛期の王の近衛兵のようだ。当然ながら、特殊能力【覇王の道標】の影響もあるが、もともと兵士たちがやる気になっていることも大きい。

その様子をラヴィアラにも見させてやった。「あまりにも素晴らしいです……。ラヴィアラ、息を呑むほどです……」思わずラヴィアラは口を押さえて、感動を示していた。

「これをミネリアに会談の場で見せつけてやる。あいつらの驚く顔を見て、溜飲を下げてやろうぜ」