Mysterious Job Called Oda Nobunaga

75 Operation with the King

「わかった! 今から反撃に出る! 大聖堂軍を叩きつぶすぞ!」立ち上がって、そう叫ぶ。

「いいか! 今から全軍で攻め込む。川を渡って大聖堂軍に攻めかかる! 数合わせの小領主は放っておいていい!」その声に、周囲の者たちの空気も変わる。

ラヴィアラが目をうるませて、そこにやってきた。「ついに来たんですね! アルスロッド様が待っていた好機が! もう待ちくたびれましたよ!」どうして泣きそうになることがあるんだと思ったけど、ほかの者たちの顔も見てわかった。

みんな、俺が攻めると決めた時は勝てるということを心と体に叩きこまれてるんだ。

だから今回も勝てる、そう信じることができて安心したんだ。その判断は間違いじゃない。間違いじゃないということをこれから証明しに行く。

「この戦いは今から俺たちの優勢に変わる。向かい風は追い風になった! それでも細心の注意で攻めろ。敵はこのあたりじゃ一番の大物だ!」「うおおおっ!」叫びが俺の鼓膜を震わせる。

「アルスロッド様、一つ質問があります!」ラヴィアラが俺の前に出てくる。

「もし、大僧正が陣の中にいた場合、どうすればよいでしょうか?」神官は聖職者だから、表面上は軍人ではない。形の上だけ出家した武将などは軍人としてしか見られないが、大僧正ともなれば誤りなく聖職者ということになる。本来は非戦闘員であり、殺害してはいけないことになっている。

「ラヴィアラ、いくら大聖堂の軍とはいえ、カミト大僧正はこんな死臭漂う土地にいらっしゃるはずはない。彼も国家より公認された大僧正、自軍の勝利をオルセント大聖堂の中にて御祈願されているだろう。こんなところに軽々しく出て来られることなどない」

実のところ、俺も大僧正がいるかどうかの確認はできていなかった。ヤドリギが持ってきた敵軍の詳細配置図を見ても、大僧正の名前はない。

だから、別にこう行っても問題はないだろう。

「なので、この地に大僧正などはいないはずである。もし、神官の装束を着ている者がいても、容赦なく斬り殺せ」

味方の士気が上がるのを肌で感じた。

「そんな者は神官にあらず! 将がこちらを欺くためのものだ! 仮に大僧正と名乗る者がいても首をとってよい!」

「わかりました! ラヴィアラ、たしかに承りましたっ!」大きな声でラヴィアラが答える。もう、走って俺のそばから離れていった。よし、俺も出ていかないとな。

――うむ! 愉快! 実に愉快!オダノブナガが吠えていた。

――一時はどうなることかと思ったが、クソ坊主どもを斬れるなら、その苦渋の日々もすべて耐えしのべるというもの! 斬れ! 斬れ! 斬れ!盛り上がってるところ悪いけど、八割方、大僧正は来てないと思ってるぞ。あれは盛り上げるための方便だからな。

本当に大僧正が死んだらどうなるかな。最低でも、収拾はまったくつかないことになるだろう。それが俺にとって吉と出るか、凶と出るか怪しいところだ。

もしオルセント大聖堂が一つにまとまらないなら俺の勝ちで、もし結集して俺を殺すことに血道をあげられたら俺の負けというところか。おそらく遠国の連中も引き込んで大包囲網でも築いてくるだろう。

じゃあ、なぜ、兵を焚きつけたといえば――総大将というものはほぼ戦死しないのが定石と知ってるからだ。もしも大僧正がいても、連中は全力で守るだろう、どのみちこちらから逃げるぐらいはできるだろう。ならば、こっちの軍の士気を上げたほうが確率としては得だ。

――別に理屈ぐらいは知っている。こっちは覇王であって、阿呆ではないぞ。それでもだ。坊主の頭目をぶっ殺せとはなかなか言えんかったからなあ……。お前が言ってくれてすっきりしたというのはある。

いや、オダノブナガ、俺はあくまでもこんなところに大僧正はいないはずだ⇒だから大僧正っぽいのがいても殺してもいい――って論理だからな。大僧正を見つけて殺せとは言ってないぞ。

――そんなもの、同じだ! お前は坊主の勢力を破壊しに向かうのだろうが!

そうだな。だって、これだけ強いのが聖職者だから軍人ではないだなんて不公平だろ。戦場に出てきたからには、全員平等だ。

俺が兵を出す直前、馬が自陣に入ってきた。乗っていたのは、ケララだ。「馬上から失礼いたします。ケララ・ヒララ、任務を完了いたしました!」

「もう一日早くしてほしかったな。寿命が縮んだらお前のせいだ」やっと軽口を叩く余裕ができた。

「陛下が乗り気になりすぎました。デモンストレーションではなく、本当に軍を率いて、大聖堂の軍と戦うつもりになったせいで行軍が慎重になりました」「そうみたいだな。まさか、背後にいきなり出現するとは思わなかった。向こうは動揺しているか?」

ケララは首を縦に振ってから、恐懼「とくに小領主の寄せ集めはし、兵を引いて、逃亡を図った者が出ているようです」「やはりな。治める土地が小さいと、心も小さくなる」

王に弓を向ける勇気など伝統ぐらいしかとりえのない連中にできるわけがない。奴らは新参の俺と戦う気はあっても、王権そのものとぶつかることなど最初から考えてなかった。

だから、ハッセを出してくれば戦局はこっちに傾くと判断した。

大聖堂の連中だって王権に真っ向から盾突くつもりはなかっただろう。だから、今の足並みは無茶苦茶のはずだ。今回の指揮官が誰か知らないが、王など殺してかまわんとは絶対に言わない。

「敵軍の半分はもう戦意を喪失している。残り半分を駆逐する。それで俺たちの凱旋になる!」

ハッセには後で心からお礼を言わないとな。向こうも自分の存在感を認識できて一石二鳥だ。王の力を奪うのはもっと先でいい。まずは俺自身を摂政として鍛え上げないことには話にならない。