Mysterious Job Called Oda Nobunaga

162 World Championship Plan

今後の作戦会議を俺は「王」の御前で行った。サーウィル王国の王、ルーミー一世の椅子の前には俺が立ち、その先に君臣が並ぶ。

といってもほとんどが軍人だし、マウスト城に詰めているような者はここには来れていないから、こぢんまりとしたものだ。

「摂政アルスロッド、まことに大儀でした。巨島部に寄生する悪を完全に取り払うことができました」ルーミーは穏やかな表情で微笑んでいる。もっとも、言葉の内容はずいぶんと物騒だ。王を名乗るだなんてことは、俺に嫁いだ頃のルーミーなら絶対に考えられなかっただろう。ルーミーも時が経つうちに烈女になった。

「サーウィル王国の建て直しに携れたこと、光栄至極に存じます。ネイヴル家最大の功績としていつまでも記録されるかと思うと、今でも足がふるえそうです」なんとも大仰なやりとりを俺とルーミーは続ける。夫婦での、王と臣下ごっこだ。だが、ほかの誰かがいる限り、これはごっこでも何でもない、正史に載るべき事案になる。

「西側の脅威は去りました。いよいよ我が兄を倒さねばなりません」ルーミーが少し憂いを顔ににじませる。ハッセとの直接対決はこの調子では避けられないだろう。ルーミーは兄を憎みきっているわけではない。まして、命を奪うようなことは考えたくないだろう。

「陛下、ここから先はこれまで以上に慎重にいかねばなりません。我々が正統な王国の後継者であると民たちにも知らしめねばならないからです。まずは地図をごらんください」

俺は後ろを向いて、手で合図をした。地図が後ろのテーブルに広げられる。

「今、こちら側と敵の勢力範囲は巨島部を除いておよそ半々。とはいえ、この俺がヤグムーリ城に戻ってきたことで、こちらにつく者、つきたくなった者は増えているとは思います」「そうですね。王国北部のマチャール辺境伯も順調に周辺の敵を駆逐しているようです。北部の覇権は少なくともマチャール辺境伯が握っています」

タルシャは存分に力を発揮してくれているらしい。おかげで俺は巨島部攻めに力を割くことができた。もしも、タルシャがハッセ方なら、情勢はずいぶんと変わっていただろう。マウスト城とその周辺領域の防衛も心もとなくなる。そもそも俺もヤグムーリ城を築く余裕がなかった。この城を築いたことで、ハッセの疑心暗鬼の念を増幅させたことは間違いない。

「さて、みんな、どう動くべきだと思うか?」俺は一度、臣下に問いかける。この前にいる者たちも今は俺の臣下であると同時にルーミーという王の臣下でもある。

まず、ラヴィラが手を挙げた。「すぐにマウスト城に兵を出しましょう! マウスト城はまだ敵に包囲されているはずです! アルスロッド様の居城を奪還してこそ、こちらの優勢を伝えることにつながります!」妥当な意見だ。それにマウスト城にはセラフィーナら、妻たちが残っている。妻たちの安否のためにも、自分の領内にいる敵はすべて追い払うべきではある。

ただ、ここはあくまでも多様な意見を求める場だ。ほかの考えが出てもいい。次に手を挙げたのはケララだ。「今のヤグムーリ城にいる兵力に徴募で増える兵を足せば、王都を陥落させることも可能です。リスクはありますが、短時間で敵軍を降伏に追い込むことができます」

その案はおそらくルーミーの気持ちをくんだものだろうと思った。王都を囲んで、ハッセが降伏すれば、王都に直接攻め込むこともなく、戦争は終わる。犠牲者は少なくてすむし、王都もさほど荒れることもなく残る。

あとはハッセの身柄だけ拘束してしまえば、それで戦争は終わる。サーウィル王国は再びひとつにまとまる。ハッセには正式に退位してもらって、どこか適当なところで余生をすごしてもらえばいい」

俺がどちらがいいかと尋ねると、意見がおおかた半々に分かれた。いずれも一理ある。すでに王都のハッセを屈服させられるはずだというのも正しいし、天下を差配することを示すなら、まずマウスト城の安全を確保しろというのもわかる。

――それで肝心のお前はどうする気だ?オダノブナガが俺に問いかけてくる。

――はっきり言ってワシはもう何も言わんぞ。お前が決めろ。なにせ、ワシはここまで来る前に死んでしまったのでな! もう、あとはお前が自分なりの天下統一の道を示せ。ワシもそれを見届けてやる。

といっても、お前にも案の一つや二つあるだろう。自分ならこの時はこうするとか言い出しそうなものなのに。

――あるが、お前には言わん。明智光秀のバカに邪魔をされたワシは、いわば未経験者だ。九州どころか中国も四国も平定できなかった。いわば、資格がない。

お前が謙虚になるだなんてかえって不気味だな。

――それにお前に言ったところで、お前はワシの言うことなんざ聞かずに勝手にやるだろうよ。

それは、そうだな。お前からしたら信じられない危ない橋も渡ってきた。生来、血の気が多いんだ。

――だから、これから先もお前が好きなようにやって、お前なりの天下を作れ。どんな道を歩いても、お前の選んだ答えが正解になる。それこそ、謀反でも起こされない限り、お前が倒れることはない。

ああ、このヤグムーリ城が落ちなかった時点で、大勢は決したと思う。後世の歴史家はこの城が要害堅固だったことが歴史の転換点だったと語るだろう。

好きなようにやれ、か。覇王のお墨付きをいただいたことだし、最後までわがままにやらせてもらうか。

「二つの意見、どちらも面白いと思う。俺は決めかねる、そこでだ」俺は一同を見まわして、こう言った。

「マウスト城を解放した勢いに乗って、王都に迫る」