Needle Maiden

First queen and second queen.

ご飯は離乳食もどきを用意してもらえ、食べ終える頃にはトロトロと眠くなっていた。

「魔力切れという訳ではないな」

「どちらかと言えば、体力切れでしょう」

アージット様とロダン様の会話も、耳に入ってはいるが、どこか遠い。

でも、縫い物、途中・・・・・・・・

コトンとテーブルに突っ伏して、眠ってしまった見た目だけなら砂糖菓子のような、いっそ神秘的な容姿の少女に、アージットは苦笑した。

接したのは数時間だが、容姿とかけ離れた性格は分かった。

十五の娘的な、恋愛への憧れが欠片もない。

これは放置すれば、毒だ。

ロダンがアージットへと、話を持ってくるのも分かった。

たぐいまれな始祖級の加護縫い能力。沢山の精霊達に溺愛され、様々な恩恵を受ける様子。そして精霊の写し身のような、美貌。

たとえ見かけが幼げでも、いやむしろ幼げだからこそ、身分ある変態が山と目を付けそうだ。

彼女の針子としての才能、その魂を守るには、最高の権力がありながら、政略に巻き込まない存在の庇護が必要・・・・ロダンはそう考えたのだろう。

アージットはこの話を聞いた時、少女はロダンに心を寄せているだろうと思っていた。

虐待の日々から助け出してくれた、美丈夫な青年に恋をするのは、普通の流れだ。

しかし、ユイは

「ある種の天才だな。関心があるのは、針仕事を心のままに続けられるかどうか・・だ」

「この若さで、一級針子の腕を持つだけのことはありますよね」

魂から職人だ。

前王アージットにとっては、好ましかった。

最初の妃、現王アムナートの母の印象は薄い。

アージットは遅くに出来た王子だったので、十二で王となった。精霊の加護厚い王族といっても、ほとんどはただの人と変わらない。

老いや病からは、逃れられない。

当時若いアージットと釣り合って、子を作れる年頃の魔眼の持ち主が、彼女だけだったのだ。

二つ年上の彼女の口癖は「ばあや」で、思考すら放棄していて、万事乳母に任せ切りの少女だった。まともに会話した覚えも、ない。

乳母が支配的な老人で、姫のために姫のためにと、贅沢を求め、妃仕えの者達を害するような恥知らずだった。

ある意味あんな人間に、赤子の頃から育てられた妃が哀れだったと思う。

初夜の儀で、アムナートを宿したことが、彼女の一番の功績だろう。そして若くして、儚くなってくれたことも。

妃とばあやから当然取り上げた王子は、信頼厚い者達に任せたが、これまた老害がうるさくうんざりだった。妃自体は万事に関心が薄く、幼かったアムナートの母への憧れを、だった一度の面会で地に落とし見限らせるほど・・・・正直、他に妃候補がいて人としてまともだったら、絶対に選ばない存在だった。

二度目の妃は、隣国では珍しい魔眼持ちで、虐げられていた王女た。

これまた最初は大人しい女性だった、死んだ者のような目をしていた。

隣国のごり押しで、押し付けられたような始まりだった。

悲劇は、彼女が夫となったアージットに恋をし、それを依存へと歪めたことから始まった。

アージットに関わる、ありとあらゆる女性に嫉妬し、狂気に堕ちた。

アムナートの存在にも最初の妃の影を重ね、精霊ですら嫉妬の例外ではない。

気付いた時には、彼女は呪霊師・・・・精霊を害する者となって、国の守りの要である聖精霊を傷つけた。隣国との和議協定は、永久凍結。

結局、それが原因で彼女は罪人として、離縁・国外追放となったし、アージットも責任を取って王の座を降りたのだ。

アージットは、おのれを高めることより、他を害することを選ぶような人間を好いたりしないと、何度も忠告したのに、恋に狂った彼女には通じなかった。

産まれてこれまで、アージットは恋愛感情を抱いたことが、ない。

二人の妃で、うんざりだった。

しかし

哀れさでは二人の妃に、負けない境遇だったこの少女の、職人魂(つよさ)には見惚れた。

「このような娘もいるのだな」

「ちょうど眠ってしまいましたし、妻仕えの専属メイドは用意されてますか?家の医師に診察させるので、これまでの衰弱具合と回復具合、生活における注意事項を知らせておきたいので、同席させたいのですが」

「あ~・・」

アージットは、天を仰いだ。

「一応、候補は、連れてきたが・・・・ヤバいかもしれん」