Neta Chara

There are dangerous creatures in the west garrison.

「西の駐屯地へ急行する。義父上にはそう伝えてくれ。アビスヴェーナの城壁と兵力それに義父上なら苦戦は無いと思う。西がやばそうだ」

「了解しました。主にはそのように伝えます。後、何か伝える事があれば伝言承りますが」

「もし、余力があれば援軍を回して欲しいと伝えてくれ。俺達もそんな大軍では行けないから」

「ハッ、伝言承りました」

俺は使者の男に直接西の駐屯地へ向かう事を伝えた。そして、彼はアーバレストへ報告をする為、居間を出て行った。使者が出て行くと、俺は居間に居たメンバーを集めた。

「さて、西の駐屯地まで十キロ程あるが、何名ぐらい出せそうだ」

俺の問いかけにジュリアーナが口火を切った。

「私の赤の乙女(レッドヴェルキリー)は即時対応デキル者は四十名ホドダ。軽傷だが休養を必要トスル者が多い」

「御館様、我が一族は二十名程が即時対応できます。我等も休養を必要とする者が多いですな。あれほどの激戦でしたからな」

「そうだな。六十名と俺、ミリィ、アナベラ、フェリア、イネス、ベアトリス、リナ、ラナ、タリア、マノン、ジュリアーナ、ナニー、オーレリアで総勢八十三名だな」

「お母さんはまだ病み上がりだから、ウルリーカ付けていい?」

「ああ、いいよ。それと、ヘルガ」

奥で書類の整理をしていたヘルガが駆け寄ってきた。今日も戦場だがタイトスカートとブラウスで仕事している。俺の趣味で着させているのもある。

今度、軍服作るか…超ミニでしゃがむとパンツ見えちゃってピッチリと身体のラインの出る奴

などと考えていると、目の前にヘルガが来た。

「はい、お呼びですか?」

「ああ、今度…軍服を…オホン! ゴホッ、ゴッホ」

「軍服? 発注ですか?」

「いや、なんでもない忘れてくれ」

ヘルガが訝しげな顔で俺を見てくる。危うく妄想が漏れるところだった。今は戦時中だ、欲しがりません勝つまでは! で、行こう。

「すまないがヘルガ、アクベスと共に住民防衛隊の面倒見てやってくれ」

「はい、兵站は私の仕事ですので大丈夫です」

「それとアイーダ達は魔力が回復したら弾薬の備蓄をするように伝えてくれ。あとヴェアリスは回復役で置いていくが余り酷使しないでくれ」

「わかっております。出来れば医薬品の方で対応いたします」

「じゃあ、こっちは頼むな。ヘルガ、アクベス。よし、人員を西門に集めるぞ」

「分かりました行ってらっしゃいませ」

「御意」

俺達は西の駐屯地へ向かう援軍を編制する為の人員集めに散った。

しばらくすると、完全装備のメンバー達が西門へ集まってきた。なるべく早めに着くため行軍も馬車で行なう予定だ。その為、西門前には狩猟馬車と物資運搬に使った荷馬車が八両止まっている。

「各車十名で頼む。ちと狭いが直ぐに西の駐屯地に着くから我慢してくれ」

「ケント様歩くのに比べたら断然楽ですよ」

荷馬車に乗ったゴダールの男性が笑い顔で答えてくれた。

「そうだな。皆なるべく休んでいてくれ」

「「「はい」」」

俺は先に集まってきた遠征隊を激励していく。皆疲れが溜まってきてるがまだ戦闘意欲は残っているようだ。

そうやって、激励している内に人員の点呼が終わり準備が整った。今回は兵員のみで援軍に行く。飯は西の責任者にたかろう。

俺は出発の号令を掛ける。

「これより西の駐屯地に援軍に出陣する。出発!」

ガタゴトと走り出した馬車に乗りこむ。後の荷馬車も動き始めた。

アビスヴェーナの内部を通らず北側の街道を使って、西の駐屯地へと馬車を走らせた。馬車を走らせていたら、駐屯地の目と鼻の先に行き倒れがいた。避難民だろうか? 脱走兵?

気になった俺は部隊をミリィ任せて駐屯地向かわせて、俺は食料を持ちアナベラ、フェリア、イネスを連れて行き倒れの元に駆け寄ってみた。

行き倒れていたのは、女性らしい。らしいというのは眼鏡せいだ。俺には褐色の肌をした群青色の短髪で瑠璃色の瞳をした少年だった。そして、ダブダブで背中の大きく空いた服からは小さな黒い鱗が生えていた。

「おい、大丈夫か? 死んでるのか?」

俺は少年を揺さぶるが反応が無い。息はしているので、返事をする気力が無いのかと思い。食料袋から、アナベラの焼き菓子を取り出して鼻先に近づけた。

「あ、クンクンしてますー。生きてる」

「よかった。ボクはもうダメかと思いましたよ」

みんなが行き倒れた少女の生存を確認し、安堵して俺は油断していた。

ガブッ!

「ギャオオオウウウゥウウ!!」

「ケント様!」

少女の口が俺の手ごと焼き菓子をほうばっていたのだ。反対の手で口をこじ開けて引き抜くと、俺の手は血だらけになっていた。

すぐさま、癒しの光(ヒール)を唱えることにした。

「集めし魔素(マナ)よ! 癒しと成りて傷を癒せ! 癒しの光(ヒール)!」

癒しの光(ヒール)の光が手に付いた歯型を埋めて行ってくれた。

ふぅ、危うく手ごと食われる所だったぜ…口が小さいから油断しすぎた。

俺は今だ目覚めずに、焼き菓子をモグモグしている少女にフェリアが焼き菓子を鼻先に近づけた。

「ほらほら、起きる時間ですよー。きゃああっ」

少女が、鼻先で焼き菓子をぶら下げていたフェリアを押し倒した。そして、フェリアから焼き菓子を奪い取ると、鋼鉄の鎧と同じ強度のメイドスーツを紙を破るように引き裂いた。

「お饅頭みっけ…これは妾のじゃ……ほかほかでプニョンプニョンじゃ…」

「こらぁ! それはフェリアのおっぱいですー! これはケントさんのなんですー」

頭では女の子同士だと分っているが、ヴィジュアルがイカン…俺以外の青年がフェリアのおっぱいを揉んでいる。なんだか猛烈に嫉妬心が湧いてくる。

フェリアのおっぱいは俺専用だぞ…その二つのほかほかでプニョンプニョンは俺だけが堪能するんだ。

俺が少女をフェリアから引き剥がそうと近づくと、イネスが焼き菓子を持って無防備に近づいていく。

まてっ! その危険生物に食い物をもって近づいたら……

「こっちに焼き菓子まだあるよ。ほら、こっちにおいでボクと…きゃあああっ」

フェリアの胸を揉んでいた少女が、焼き菓子の匂いを認識したようでイネスに飛び掛る。イネスが手に持っていた焼き菓子はものの見事に消え去っていた。

「……足らぬ……もっと…んっ? 饅頭二つ…何やらこの饅頭は甘い匂いがするのう…」

少女はイネスのメイドスーツも紙を引き裂くように、いとも簡単に破壊し、おっぱいを露出させた。

「ああっ、嘘。ボクのメイドスーツ壊れちゃった! ああっ、ちょっと舐めちゃダメ。揉んでもダメだって! 今日は搾ってないから出ちゃうっ」

「んくっ、んくっ、んくっ…甘露じゃ。この饅頭からは甘露が滴っておるのじゃ」

「ああっ、だ、め。ケントさんのなのに…」

俺の大事なメイドに襲い掛かり、鋼鉄の鎧並みの強度を持つメイドスーツを簡単に引き裂く危険生物をいい加減引き離す事にする。

「悪いけど、食い物ならこっちを食えって。その娘の乳液は俺が飲むんだけど」

焼き菓子の詰った袋を、イネスのおっぱいを吸っている少女の目の前にぶら下げてやる。

「…クンクン……」

少女はイネスを解放し、ひったくるようにして俺から袋を奪った。メイドスーツを壊されて乳液を吸われた放心状態のイネスを抱え上げた。

「イネス。大丈夫か?」

「ケント様。ボクは…大丈夫でもメイドスーツが…」

「ゴーレグが血の涙をながしそうだな…」

無残に引き裂かれ胸の部分が無くなったメイドスーツが俺の目の前にあった。

「ケント様……この女性はその…保護しますか?」

アナベラが一心不乱に袋の焼き菓子を食い散らかす少女を保護するか聞いてきた。俺としてはメイド二人を押し倒して胸を揉んでいるので、保護したくない気持ちが強い。

「保護か……」

俺が保護を渋っているのを見たフェリアがトンデモ発言をする。

「ケントさんこの娘、飼っていい? というか飼いたいですー」

飼うってなんですかっ! そんな不穏な言葉を口にするとは……フェリアさん不潔ですっ!

フェリアの飼う発言に乗せられてなのか、イネスもトンデモ発言してきた。

「あ、あの。ボクもあの娘を飼いたいかなって…カワイイし。ケント様。ボクからもお願いします」

イネスー! 俺は君をそんな娘に育てた覚えはないのですがっ! イネスさんも不潔ですっ!

二人の部下の発言を受けたアナベラまでもが保護を申し出てくる。

「ケント様、戦場が近いのでここは保護するべきかと」

確かに、ここは戦場に近く何時魔物に襲われるか分らない為、俺は渋々ながら保護することにした。

「ああ、しょうがないウチの部隊で保護しよう。ここに捨て置くわけにはいかないからね。フェリア、イネスちゃんと世話をするように」

「フェリアが頑張ってお世話係しますー。」

「ボクもお世話します」

保護される当の本人は、焼き菓子の袋を綺麗に平らげていた。メンバー分の数が袋に入っていたので、焼き菓子とはいえかなりの量を食べた。食べ終わるとキョロキョロと周りを見渡していた。

俺は少女に話しかけた。

「お嬢さん。お嬢さんはウチで保護する事にしました。ここは危険ですので、俺達についてきて下さい」

少女は寝起きのような大きなあくびをして伸びをしている。 

「ふぁぁあ…よく寝たのう。今日の夢は面白かったのう。大きて柔らかな饅頭が四つあって、その内二つからは甘露が滴るいい夢じゃった」

少女は何と先程の事を夢だと寝ぼけていたのだ。俺を見た瑠璃色の瞳に疑問符が浮かび上がったようだ。

「…そなたは誰じゃ?」

「おはようございます。ケント・ブラックダガーと申します」

「そうか…ケントと申したな、ここはどこじゃ?」

「アビスヴェーナの西の駐屯地近くですが」

「…父上とはぐれてしもうたの…魔物どもが群れておったせいで…そして腹が減って行き倒れてしもうたようじゃ」

少女は父親からはぐれて行き倒れていたと話してきた。

「あの、君。名前は?」

「んっ? 妾の名前か? 本来なら、父上より身分を隠せと言われておるが、ケント達は命の恩人だ。名ぐらいは明かそう。デルプリウスじゃ。恩人のそなた達は特別にディーと呼んでよいぞ」

「デルプリウス…変わった名前だね。言いにくいからディーって呼ばせてもらうよ」

「うむ、よかろう」

ディーが頷くと、彼女のお腹が盛大になった。

「ケント…すまぬが腹が空いておる。助けたついでに食事を恵んでくれぬか…お礼は必ずするのじゃ…父上より受けた恩は返せと言われておる」

「元より、保護する予定だったから、御飯も出すよ。一緒に駐屯地に行こうか」

「おお、ありがたい。では、急いで行こう」

「良かったね。ディーちゃん」

イネスがディーに近づくと胸にクンクンと鼻を近づけた。

「夢で味わった甘露の匂いじゃ! そなた名は何と申す」

「イ、イネスだけど」

「イネスと申すのか…後生じゃ…あの甘露を少しだけ飲ませて欲しいのじゃ…もう妾はアレ無しでは生きていけないのじゃ」

「アレは…ケントさんのですから…ごめんねディーちゃん」

ディーはショックを受けたようで、地面に手を着いてうなだれてしまった。

「そ、そうなのか…あの甘露は…ケントの物なのか…」

あまりに落ち込んだ姿がかわいそうだったので、あとで俺がイネスから搾った奴を分けてあげよう。乳液は譲ってもいいが、イネスの朝の乳搾りだけは絶対に譲れない。

「ディー…そんなに落ち込まなくても、少しなら分けてあげるからさ」

「ほ、本当か?」

「ああ」

「本当の本当にか?」

「ああ、いいよ」

「本当の本当の本当になのだなっ! 約束を違えると妾は怒りのあまり街ごとぶっ壊してしまうかもしれぬぞ。それでもいいのか?」

どんだけ、イネスの乳液が好きなんだよ。乳液ひとつで街を破壊されては困るぞ。

「これから出る食事の後に搾りたてをつけよう。これでいいか?」

「ケントは何と心の広い男じゃ。惚れてしまいそうじゃ」

ディーの言葉に一瞬ギクッとして眼鏡を触る。大丈夫。ちゃんとしていた。

「じゃあ、駐屯地へ行こう」

そう言うと俺達は駐屯地へ歩き出した。

駐屯地へ到着すると、ミリィを見つけて部隊に合流した。ミリィに戦況を聞くと膠着状態だと聞かされた。とりあえず、俺達は遊撃隊として待機しているそうだ。隣でアナベラとフェリアがディーの食事準備をしている。

俺はイネスを呼ぶと、二人で馬車に入りディーの為、乳液を念入りに搾ってあげた。

フェリアとイネス達にディーを任せて、俺はミリィを引き連れて西の駐屯地の指揮官に面会に向かった。

大きな邸宅の居間に入ると、指揮官らしき人物がこちらへ歩いてきた。司令官はアーバレストの副官の男だった。

「ああ、ケント殿助かりました」

そういえば、名を聞いていなかった…

「えっと…」

「フリストです。名乗ってませんでしたね」

フリストが握手を求めてきたので、握り返した。

「ミリアリア様が我が主の養女となられたので、ケント殿は主の娘婿ですね。私はアーバレスト様のヘイドウ男爵家に近侍しておりますから、駐屯地の指揮権はミリアリア様にお譲りします」

「えっ? フリストって義父上の家人だったの? 部下の軍人か官僚かと思ってた」

「ケント殿。私はアーバレスト様の奥様の遠縁でして…実は父がゴダール族だったのです。十年前は王都で軍人をしていて難を逃れました。その後アーバレスト様が辺境伯になられた時に近侍するようになったのです」

へぇー。フリストがゴダール族の血を引いているのか。

俺は目の前の三十代後半で精悍な顔の男性を見ていた。ふと、一つ気になったので質問してみた。

「そういえば、フリスト殿は独身ですか?」

「え? あ、はい。アーバレスト様に扱き使われたおかげで時機を逸しましたので、独身ですが」

「あ、いえ気になったので聞いただけです」

フリストは首を傾げていた。俺は今回の援軍の褒美に義父上から、フリストを譲ってもらおうと考えた。戦後に始まる領地開発には有能な部下が大量に必要となる。少しでも俺の負担が減るように有能な人材は何としてでも引き抜く事にしている。

なので、西の駐屯地を切り盛りしているフリストは是非にでも欲しい人材だ。

ゴダール族の父を持ち独身だと聞いたので、最悪、義父上が断ったら、アクベスからフリストへ例の掟を使って。無理やり婚姻させて篭絡しようとも考えている。

「では、私は一部隊長になりますので、ミリアリア様ご指示を」

「そう……じゃあ、私の指揮権はケントに全て委譲します」

「了解しました。ケント殿ご指示を」

「じゃあ、現在の戦況の報告を頼む」

「はい、現在西の駐屯地は千名の兵士、これは先日壊滅した駐屯軍の生き残りです。と住民防衛隊五百。そしてケント殿の援軍八十三名。その内、今日までの防衛戦で死者が百二十名、重軽傷者が四百三十名出ており、戦闘可能な兵員は千三十三名です」

「魔物はどれぐらいいる?」

「千二百ほどは討ち取りましたが、何分こちらは魔術士や治療士が少なく、苦戦しております。西の防壁には、まだ五千以上の魔物が蠢いています。現在は防壁からの射撃にのみにしております」

五千か…東に比べれば少ないが、こちらは千名いるが戦意の怪しい王国軍の敗残兵は戦力にならなそうだ。

「わかった。この後対策会議を行なうから、戦闘中以外の各部隊長を集めてくれ」

「了解しました」

フリストが出て行くと、代わりにディーを連れたナニーがイネス、フェリアを連れて飛び込んできた。

「ケ、ケ、ケント君! トンデモ無い事をしてくれたわねっ! どうするつもりなのっ!」

眼鏡がずり落ちそうなほど、ナニーがキレまくっていた。俺はナニーのキレている理由が分らない。

「ナニーどうしたのさ?」

ナニーがディーを俺の前にドンと置いた。食事を済ませたディーは満足そうな顔で寝ていた。

立ったまま寝るなんて、ディーは器用だな。

「この娘、道端で倒れていた娘ね。ケントが保護したのよね? ただの女の子よね」

「ミリアリア様! これを見てもまだそれを言えますか?」

ナニーがクルリとディーの背中を見せた。背中には小さな黒い鱗が生えていた。それを見たミリィの顔が蒼白に染まっていく。そして、ワナワナと震え始めた。

ミリィは俺を掴むと慌てて聞いてきた。

「ケントっ! この娘キャリアにしてないわよねっ! お願いしてないって言って!」

「え? ああ。してないよ。ただ、イネスの乳液がいたく気に入ったようだけど」

「ディーちゃんは、フェリアとイネスのペットになってくれるって言ってくれましたー」

「ボクの乳液が毎日飲めるならって条件ですけど…一応、ケント様に許可をもらわないといけないと思いまして」

我が家のメイド戦士様二人が行き倒れ少女をペット化してしまいました…けしからんですぞ、女の子同士でそんなプレイは…

俺はディーを飼う気満々の二人の言葉を聞いたナニーが更にキレた。

「ケント君! この二人を怒ってくださいっ! 仮にもこのディー様は黒竜族のドラゴニア種の方ですよっ! それをペットにしたいなどと言われるのですよっ! こんな事が黒竜公国に住むドラゴニュート種の耳に入ったら、この駐屯地はもちろんの事。アビスヴェーナまで跡形も無く消え去りますよっ!」

ディーはとんでもない種族だったらしい。てっきり俺は魔人族かと思っていた。それにしても街が壊滅するって大げさだろ。

ミリィもナニーと同じように俺を諭してくる。

「ケント…この娘だけは絶対にキャリアにしちゃダメ…ダメよ…したら消し炭にされちゃうから」

すると、寝ていたディーが目覚めた。

「うるさいのう。妾はお腹いっぱいの食事とイネスの甘露で幸せいっぱいに寝ておったのに…」

「ごめんよ。ディー、とりあえず君は黒竜族なんだってね」

「ああ、そうじゃ。妾は黒竜王ファブラノヴァの娘じゃ……しもうた。父上にも母上に秘密にせよと言われておったな…まぁ、ケント達なら教えてもよかろう。ちなみに父上は眞魔族クレイドだぞ。おかげで妾は【赤】なのじゃ」

ぎゃああっ、なんだかとっても聞いてはいけない秘密の匂いがプンプンスルーーー。

「黒竜族の王女で【赤】だなんて……」

話を聞いたナニーとミリィの顔色が白くなる。そして、ナニーが卒倒した。

「ナニーさん大丈夫ー」

フェリアが倒れたナニーに駆け寄る。

「なんじゃ…妾が黒竜族の王女だとなんぞまずいのか?」

我が家のメイド戦士様は黒竜公国の王女様を餌付けして、手懐けて、監禁して、ペット化……言い訳できねえぇええ!

「ケント……もう、滅ぼされちゃう…もうダメよー……この辺り一帯が焼け野原にされちゃうう」

冷静なミリィも事態の大きさに錯乱しているようだ。俺だってディーが黒竜公国の王女なら、それなりの対応もしたはずだ。

「ケント…妾は邪魔か? 父上はなるべく人に関わるなと言っておったのを思い出したのじゃ…イネスを譲ってくれるなら妾は立ち去るのじゃ」

イネスを譲れだって……それは死んでも、殺されても無理だ。俺の女は絶対に譲らない。

「ケント様…ディーちゃん」

イネスが困った顔で両方を見ている。俺はイネスを取られる位なら、黒竜族に滅ぼされる選択を選ぶ。眼鏡を外すと、ディーを見据えた。

「ケント! ダメ!」

ミリィは制止しようとしたが一足遅かった。

「なんじゃケント……うぅ。どうしたのじゃ…ケントが格好良い男子に見えるぞ…」

>イケメンスキル発動【デルプリウス】友好度大幅上昇

>【デルプリウス】状態:好意に変化

俺は破滅のボタンを押した。

その時フリストが居間へ駆け込んできた。

「ケント殿、敗残兵達が逃亡を始めました。今住民防衛隊から部隊を抽出して送りこみましたが、兵が足りません。魔物も反撃の薄い西側に集まってきており、このままでは突破されてしまいます」

「くっそ、こんな時に逃げ出すなんて…ミリィ、俺等も西側に行くぞ。ディーはここでお留守番してくれ」

「なんじゃ? 魔物の襲来か? ケントが困っておるなら食事の礼を返さねばならんのう。妾が蹴散らしてくれるわ」

ディーが部屋を飛び出していく。

「ディー。無茶しちゃだめだ。遊びじゃないぞ。戻れ!」

「ケント、妾は戻ったらイネスの乳液を所望するぞ」

「ディーちゃん待ってえ」

ディーはそれだけ言い残して部屋から出た。その後をイネスが追いかけていった。

「くっ、ミリィ部隊を全員に西側集めてくれ。フリストは住民防衛隊だけでも掌握してくれ。俺はこのまま西側に向かう」

「わかったわ。直ぐにみんな集めて向かうわ」

「ケント殿、敗残兵の内一部はまだ戦意を残しております、住民防衛隊に組み込んでよろしいか?」

「わかった。ただし敗残兵はバラバラにして吸収しろっ!また集団で脱走されては困るからな」

「了解です」

ミリィとフリストは部屋から駆け出していた。俺も気絶したナニーの世話をフェリアに頼み、ディーを追って西側の防壁へ向かった。

俺が西の防壁に着くと、辺りには味方の姿が全く見えなかった。俺はイネスを見つけると彼女が指差す先に視線を向けた。

見ると、ディーが大量の魔物に囲まれていた。周りには大猪(ビッグボア)や猛毒蜘蛛(ヴェノムスパイダー)、大角羊(ビックホーン)も混じっている。俺達の方に押し寄せた魔物より、強いのが集まってきていた。

「ディー、逃げろっ! 殺されるぞ!」

俺は大声でディーに呼びかけたが、ディーは笑って手を振るだけだった。

そこへ、興奮した大猪(ビッグボア)が突進してきた。俺が戦った岩猪(ストーンボア)もでかかったが、大猪(ビッグボア)はそれをもっとでかくした猪だった。

いやもう象と言っていいクラスのでかさだ。そんな奴がディーに向かって突進してきた。

ドン! ボフッ!

ディーが大猪(ビッグボア)の突進を正拳突きを顔に打ち込み受け止める。大猪(ビッグボア)は頭が膨らんで、全身が弾け飛んだ。それが合図になったように、魔物達が一斉にディーへ襲い掛かった。

ディーは襲い掛かる魔物の攻撃を避けて蹴りやパンチを繰り出す度に、花火のように魔物が弾け飛んでいく。背後にいた猛毒蜘蛛(ヴェノムスパイダー)がディーへ毒針を突きたてた。突き立ったように見えた毒針が折れ曲がった。

図鑑では猛毒蜘蛛(ヴェノムスパイダー)の毒針は、鋼鉄すら突き通すと書かれていたのに、ディーの身体はその毒針すら折れ曲がるほどの硬さだった。

マジか…ミリィやナニーが心配してたのは、黒竜族と揉めるとディークラスの方々がアビスヴェーナに来られることを懸念してか。

俺は改めて、自分が押した破滅のボタンが本当の破滅のボタンだった事を知る。

目の前で魔物を撲殺し続ける少女を、俺は事もあろうにキャリアにしてしまったのだ。

やっちまった…俺に出来る事はディーを虜にして、黒竜族と揉めないように話を進めるだけだ。

燃え尽きて崩れ落ちそうになる俺を支えてくれたのは、イネスだった。

「ケント様…ボクがきっちりディーちゃんのお世話いたしますからっ!」

イネスが世話係の決意に目覚めたようだった。その後、駆けつけたミリィ達と共にディーに群がる魔物を駆逐していった。その戦いの中でもディーは攻撃は常に一撃必殺だった。

一発で魔物が必ず弾け飛ぶのだ。ディーに狙われて二撃目を受けた魔物は皆無だった。駆けつけた部隊のメンバー達も皆一様に驚いていた。数時間に及ぶ戦闘を終えた戦場には素体になった猪や羊が散乱していた。

「ケント、これで食事の礼は返せられたな。そして、新たに食事をたかろうと妾は考えたのだ。晩御飯は猪肉と羊肉で焼肉がいいのじゃ。もちろんイネスの甘露付きでじゃぞ」

「あ、ああそうだね。ありがとう助かったよ」

「イネスとケントの為じゃ。堅苦しい事を申すな」

俺は目の前でニコニコしている、引き締まった褐色の肉体と群青色のショートカットで瑠璃色の瞳をした少女型危険生物を何としても虜にしなければならなかった。

そうしなければ、俺の未来は永遠に閉ざされてしまうだろう。

そもそも猛毒蜘蛛(ヴェノムスパイダー)の毒針すら通さない身体のディーの処女膜は破れるのであろうか?

などと考えてしまった。戦場の後処理をフリストに頼むと、俺はディーとイネスを連れて士官用宿舎にもぐりこむ為、二人を連れ出した。

その時、ディーの秘密を知るミリィとナニーから、祈るような視線を感じていた。

男ケント・ブラックダガーヤルだけの事はヤッテやります!