Neta Chara

Episode 271: Operation Book Launch

※デルプリウス視点

銀色のクラゲから撃ち出される魔力弾から味方の黒龍族を守るために、攻撃を一身に受けていた。ベンダバールの力を取り込んだことで、鱗は分厚くなっており、他の黒龍族に比べれば魔力弾の影響を軽減できていた。

「父上、母上ぇええ!!!」

味方を守るために、銀色クラゲの群れに突っ込んでいった二人が、数体の銀色クラゲを切ったが、やがて一番高空にいた銀色クラゲに狙いを定め真っ二つに切り裂いた。そして、二人の力はそこで力尽きたようで、錐揉みしながら、銀色クラゲの残骸とともに落ちていき、眩しい閃光と爆発に巻き込まれて姿を消していた。

「……馬鹿なのじゃ……ケントは死ぬなと言っておったのじゃ……父上と母上は大バカ者なのじゃぁああ!!」

「デルプリウス様っ! 今は感情に流されている場合ではありませんっ!! クレイド様、ファブラノヴァ様の犠牲を無駄にしないで済むようにケント様達、地上軍の進撃路の確保をするのが、我等の務めですよ。悲しむのはこの戦に生き残ってからすればいい」

隣にいるロスヴィータが冷徹な声で、妾に作戦の継続をせよと伝えてきていた。

……両親を失っても悲しむ暇も与えられぬとは……。だが、ロスヴィータの言う通りなのじゃ。ここで、メソメソして好機を逃せば、あの世で父上と母上に何を言われるかわからぬ。魔大陸最強の夫婦の娘として歴史に名を残す戦いを見せてやるのじゃ。

妾はすぐさま、誘爆の余波で死に体の銀色クラゲの残党に全力で攻撃をしかけるように指示を出していく。

「黒龍族の英雄たちよ。先陣を切ったクレイドとファブラノヴァに続いて、我らが武勇を歴史に残すのだっ!! 全軍突撃っ!!」

「「「「おおぉ!!」」」」

妾によって守られていた黒龍族達は、二人の弔い合戦を仕掛けるように意気盛んに死に体の銀色クラゲ達に襲いかかり、彼らを切り裂き、蒸発させていくのにそれほどの時間はかからなかった。

その間に地上攻撃を行っていたユグノーが合流してきて、姉のファブラノヴァの死を知った。

「そうですか……姉はクレイドと一緒に逝きましたか……。最後に好きな旦那と一緒に逝けて喜べたことでしょう。残されたデルアロア様の養育はデルプリウス様にお任せすることにしましょう。幸いリュミドラもロスヴィータ殿もおられる。乳母には困りませぬであろう」

「妹には悪いことをした。だが、妾は両親に代わって妹が笑って過ごせる世界をつくるのじゃ。そのためにユグノーにはもうひと働きしてもらうぞ」

「御意」

一度、発進基地に帰還したユグノー達は、例の爆弾を補充してすぐさま戻ってくると、進撃路上に残っていた敵集団に対して、無慈悲に魔術爆弾を投下して消し炭にしていた。妾の率いた飛空隊は銀色クラゲの撃退と二度の地上攻撃により、枝作戦である『フェルアド航空作戦』の目標は完遂されて、フェルアド砦に向けて作戦完了の合図を送った。

※ケント視点

視線の先ではアイーダと俺の新規開発した魔術爆弾の光が押し寄せる異界生物(アナザーモンスター)達を飲み込み、その存在を消し飛ばしていた。

「……予想以上の威力だね……それにあの魔素(マナ)の濃さは、ここがしばらく立ち入り禁止区域になりそうだが、それは仕方あるまい」

「そうね。ケントとアイーダが危惧していた通りの凄い威力ね。あんなのが人同士の戦争で使われたら、国が滅びちゃうわ……」

「ああ、その通り。だから、アイーダには影護衛付けたし、資料は一遍も残さずに焼却処分した。今度の戦であの魔術爆弾は使い切る予定さ」

ミリィとともに砦の物見台で投下された魔術爆弾の威力を確認していると、慌てた様子の士官が物見台に昇ってきた。

「ケ、ケント閣下っ!! た、大変ですっ! 東部迦楼羅首長国軍がフェルアド砦に帰還して参りました」

「なに? ノーキン達が? 作戦ではフェーン川で遅滞戦術を展開する予定になっていたはずだが……なにゆえの帰還だ」

駆け登って報告してきた士官に質問をぶつける。

「作戦は成功するも、フェーン川の防衛線は移動不可と思われた険しい渓谷を抜けてきた新型の異界生物(アナザーモンスター)により、ノーキン殿、アロンザ殿討ち死にした模様。現在、レパルス殿が兵を率いていますが半数以上は脱落したとのこと」

「ノーキンとアロンザが討ち死に……マジか……あのノーキンが討たれるだなんて……」

武人としては最高クラスの実力を誇るノーキンが戦死したとの報告を受けて、茫然自失の状態に陥っていた。恐怖の代名詞であるあのノーキンがたやすく戦死をするはずもなく、フェーン川を突破した敵の強さが尋常でないことを示していた。

動揺する俺の元に新たに士官が物見台を駆け登ってきていた。息を切らした士官が更に衝撃的な言葉を連ねていく。

「デルプリウス様よりクレイド様、ファブラノヴァ様討ち死にとのご報告あり、多数の味方失うも作戦は成就されたとのこと!! 引き続き上空より敵勢力掃討を続け、本作戦発動を待つとのこと」

「なん……だ……と。クレイドが死んだ……それにファブラノヴァまで……」

あまりにも大きな犠牲に眩暈に襲われそうになったが、これくらいで倒れては皆に不安を与えてしまうため、グッと我慢して踏ん張ることにした。

「……ノーキン殿、アロンザ殿に続き、クレイド殿まで……それにファブラノヴァ様まで逝かれてしまうとは……けど、ケントさん。もう後に引くことはできませんよ。これは、私達が生き残るか、異界生物(アナザーモンスター)が生き残るかを賭けた生存競争なのだから……」

ミリィとともに物見台に居たライラも沈痛な面持ちだったが、拳を固めて悲しみに耐えていた。

……お義母さんの言う通りだな……ここで引いても彼らの死は無駄死になる。彼等の死を悲しむのはこの戦争を生き延びてからするべきだろうな……。

ライバルとして争った者達が唐突に世を去ったことで、湧き上がる寂寥感を感じていたが、それ以上にこの生存戦争に勝たねばならない決意が漲ってきていた。

「お義母さんの言う通りだな。よし、義父上と陛下に連絡しろ。今より『異界門(アビスゲート)攻略作戦』を発動する。南部辺境伯軍、眞魔王国、黒龍公国軍をまとめた地上軍を進発させる! 目標は異界門(アビスゲート)だ!!」

「「ははっ!」」

士官達が伝令を伝えに物見台を駆け足で降りていく。

「ケント……絶対に貴方だけは私が命を賭けて守り抜くわ……」

士官が降りていくのを見送ると、ミリィがこれから続くであろう、困難な作戦の行く末を案じて不安そうな顔をしている。その顔にそっと手を当ててミリィの不安を払拭するようにカラ元気を出してほほ笑む。

「俺はわがままだからね。護れるだけの人を守りきって、この困難な作戦をやり遂げるつもりさ。それに、ミリィ達とまだまだ子作りに励む気満々だから、早いところ異界生物(アナザーモンスター)を封じて、国を部下に任せてエッチ三昧してぇのさ」

俺のカラ元気を受け取ったミリィの顔が少し緩む。

「もう、絶対に帰ってきたらケントを何日も独占しちゃうんだからね」

「あら、それはダメよ。ケントさんはみんなのものよ。無事に帰ってきたら一週間は乱痴気騒ぎね。国を挙げての大祭を行わないと」

サキュバスの母娘は悲壮感を漂わせることなく、作戦完了後の未来に行うであろうエッチなことへ向けてやる気満々だったようだ。

「分かった。全部終わって帰ってきたら、みんなでエロ三昧だ!」

近くにいた南部辺境伯国の兵士達がドッと笑い声が上がる。

「我が御大将はもう勝利を確信しておられるぞ。兵どもよ。怖じることはないな。ケント王について戦えば必ず奴等を絶滅させて、帰還して、褒美もらって家で嫁とイチャイチャできるから、全力を出して生きて帰るぞっ!」

近くに控えていたガーベイが士気を盛り上げるために、兵を鼓舞していく。

「なに、敵はすでに半数を失っておるのだ。我等、南部辺境伯軍が鍛え上げた戦法を持ってすれば、奴らの掃討など容易きこと! 皆、これはボーナスチャンスだ! 精々、我らが王から有り余る金を毟り取ってやろうぞ!」

同じく近くに控えていたコンドラトも兵のやる気を引き出す演説をぶちかましていた。

「「「南部辺境伯王ケント・ブラックダガー万歳!! 万歳!! 万歳!!」」」

「よし!! 皆の者! 出陣の用意をせよっ! これより、異界生物(アナザーモンスター)達をこの地から追い出す戦を始めていく!!」

出陣を告げる鐘が乱打されると、砦の中は俄かに慌ただしくなっていく。

※シファ視点

フェルアド砦の作戦本部で各国の王の戦死の報に触れていた。すでに開始された枝作戦は各国の提案であり、その結果は完勝に近い戦果をあげているが、大きな犠牲も払っていた。

「ノーキンとファブラノヴァが堕ちたか……」

「はっ、今後はケント殿が両国を仕切っていくと思われます。黒龍公国は側室に当たるデルプリウス様が公位継承者に指定されておりますし、東部迦楼羅首長国は獣王巫女のエルキス殿の影響力を駆使して治められると思います」

戦を起こす際に多大な損失が出るとは予想されていたが、王達の戦死までは予想されていなかった。なので、戦後処理を考えると頭が痛くなってくる。だが、今は目の前の課題である異界生物(アナザーモンスター)を討伐せねば、明日という未来はやってこないので、これらの問題を考えるのは無事に帰ってきてから考えることにした。

「クゥネルア、陛下にいらん報告をするな。どうせケントのことだ。面倒くさいからといって、そのまま誰かに任せるはずだ。そいつらが暴走しないようにしておけばいい」

鎧を着込んで愛刀を携えたアーバレストが嫁であるエクレールを伴って作戦会議室に入ってきた。すでに出陣の下知を出しており、戦支度が終えたことを伝えにきたのであろう。

「陛下。今はそのような些末なことに関わっておるべき時ではありません。ケントも兵を整え終え、出立の準備ができております。すぐにでも作戦の発動を命じられますように」

王都では常に平服を纏っていたアーバレストであったが、本来は生粋の武人であり、武によって南部辺境伯を任されて、その後に智を磨いた男であるため、久しぶりの大戦に血が騒いでしょうがないのであろうと思われる。

「余もケントのことだから、多分そのように面倒臭がる姿が想像できるぞ。別にケントであれば、魔王の座を譲ってもいいのであるがな」

「口をお控えられるように。そのようなことを重臣達の前で言えば、またいらぬ火種が燃え上がりますゆえ」

「そうだったな。すべてはこの戦を勝ち越えてから頭を悩ますことにしよう。此度は余も魔王の装備を持ち出してきたゆえに少しは役に立てるはずだ。お飾りとは言わせんよ」

王城から持ち出した魔王の装備を身に纏い、これから始まる決死の突破行を前に身体に震えが走った。

余も一〇年の悪政を行った魔王として民を救い、悪行を清算せねば……そのために命を賭して異界生物(アナザーモンスター)を討ち取らねばならぬ。

今一度、勇気を奮い起こし、剣を手に取ると、部屋にいた士官達を引き連れて、出陣を待つ兵達の元へ向い歩き出した。