「うーん、面倒くさいな」

途中まではイヴァンさんのアドバイスに従って魔物を無視して進み、定期的に森の外へと離脱していた僕だったけど、途中から面倒くさくなってきた。

というのも、トラッププラントやキラープラントは確かに面倒だけど、わざわざ森の外に出るのは効率が悪すぎると思ったんだ。

それに、ミリシャさんも「自分に出来る事と都合と相談して」って言ってたしね。

そして僕に出来る事といったら!

「周囲の魔物が全て襲ってきて危ないなら、こうした方が楽だよね」

探査魔法で周囲に人間が居ないかを確認した僕は、念のため声を出して周囲に避難を呼びかけておく。

「これからこのあたりの木を燃やしまーす! 近くに居る人は避難してくださいねー!」

よし、警告も終わったし、燃やすか!

「フレイムインフェルノ!!」

僕は正面の森に向かって獄炎魔法を放つ。

するとあっという間に、トラッププラントやキラープラントが悲鳴も上げずに燃え尽きてゆく。

そして目の前には幅7m、長さ100mほどの広さの大きな道が出来上がった。

うん、こんなもんかな。あんまり長すぎると、うっかり探知魔法を使った後に範囲内に入ってきた人を燃やしちゃうからね。

「こうやって進んでいけば、周囲を魔物に襲われる危険も無いよね!」

それにこれならあとからここを通る人も、魔物に襲われる事を考えなくていいから便利だよね!

「さーてそれじゃあ気を取り直して、フォレストウルフを探すぞー!」

「居た」

森を燃やしながら進んでいた僕は、遠くから狼の鳴き声が響いてくるのを聞いた。

「どっちからだろう?」

僕は飛行魔法で上昇して森を360度ぐるりと見回す。

「あ、あんなところに村が……」

僕はヘシキの町から森を挟んで北西の位置に村がある事を確認した。

そして村から小さな点が森に向かって行くのを確認する。

更にその後ろを小さな点より大きな点が追っている。

「小さいほうがフォレストウルフで大きいのが村の護衛をしている冒険者さんかな?」

フォレストウルフを見つけた僕は、そのまま空を飛んでフォレストウルフ達と森の間に降り立つ。

フォレストウルフ達は突然現れた僕に警戒して速度を緩めるが、先頭の一頭が吼えると、また速度を上げる。

「あれが群れのボスだね」

僕はまずボスから狙う事にした。

ボスさえ倒せば後は烏合の衆だからね。

腰の剣を抜いてフォレストウルフに切りかかる。

フォレストウルフのボスがこちらを噛み付こうと飛び掛ってくるけど、身体強化魔法で肉体を強化している僕には遅すぎる。

「はっ!」

気合一閃、フォレストウルフのボスの首を刎ねる。

依頼はBランクだけど、フォレストウルフ自体はCランクの魔物だからそこまで強くない。

森の中に逃げ込むから面倒なだけだ。

「ウォォン!?」

ボスがやられた事に他のフォレストウルフ達が動揺する。

なかには仲間を放って逃げ出そうとするヤツまで居た。

「逃がさないよ!」

僕は逃げようとうするフォレストウルフ達をまとめて魔法で攻撃する。

「スパークミスト!!」

「ギャン!?」

広範囲に弱い雷の霧を放つスパークミストを放ち、フォレストウルフ達の体を麻痺させる。

「あとは止めを刺すだけっと」

これは討伐依頼だから、ちゃんと形が残ってないとね。

前回の魔人の時の様な失敗はしないよ。

「おーい!」

と、僕が麻痺させたフォレストウルフに止めをさしていると、遠くから冒険者さんと思しき人達がやって来た。

たぶんさっきフォレストウルフを追いかけていた人達だろう。

「き、君がそいつ等を倒したのか!?」

必死で走って追いかけて来たんだろう。

冒険者さん達は皆、息も絶え絶えといった様子だ。

まぁ相手は狼だもんねぇ。

フル装備で追いかけるとかムチャにも程があるよ。

「はい、丁度こっちに向かってきたので、魔法で一網打尽にさせて貰いました」

「す、凄いんだな君は。これだけの数のフォレストウルフを倒すなんて」

「いえいえ、たいした事はありませんよ」

「森の近くに居た事といい、もしかしてBランクの冒険者なのかい!?」

「ええ、と言ってもまだBランクになりたてですが」

「いやそれでも凄いよ! 見たところまだ若いのにたいしたもんだ!」

そんなに褒められるとなんだか照れるなぁ。

「あっ、でも、もしかして貴方達の仕事の邪魔をしちゃいましたか?」

この人達はフォレストウルフを追いかけていた。

となれば村からフォレストウルフの討伐を依頼された人達かもしれない。

「ああその心配はしなくて良いよ。俺達が受けた依頼はフォレストウルフを牧場に近づけない事だから。森に逃げ込むフォレストウルフに追いつけないのは依頼主達も分かっているからね」

「そうですか」

良かった、依頼の横取りにならずに済んだみたいだ。

「じゃあ俺達は依頼主にフォレストウルフが討伐された事を報告してくるよ。村の人達も一安心だろうしな。ああ、手柄を横取りしたりなんてしないから安心してくれ」

そういって冒険者さん達は村の方向に戻っていった。

それに気さくな人達でよかったなぁ。

「じゃあ僕も帰ろうかな」

「な、なんですかこれはぁぁぁぁ!!」

私の名はミリシャ。

ヘキシの町の冒険者ギルドのギルド長補佐をしてます。

私達は日々広がり続ける魔獣の森の存在に頭を悩ませていました。

冒険者にとって危険な場所の探索は飯の種ですが、拡大する危険領域など飯の種以前の問題です。

実際、数百年前にはこの森に飲まれて町人が逃げ出すしかなかった町もあったのですから。

そんな私達に一つの転機が訪れます。

それこそが新たにこの町に来たBランク冒険者レクスさんです。

なんと彼は高位の炎魔法で森の一部をあっさりと焼き払ってしまったのです。

我々が冒険者数十人を雇って何日もかけておこなう作業をです。

もちろん即座に私達は彼にコンタクトを取り、森の拡大阻止を依頼しました。

幸いにも彼は善良な性格だったようで、二つ返事で我々の依頼を受けてくれました。

そしてさっそく彼から森の焼却報告があったので、部下が見に行ったのですが、その部下が慌てた様子で私に来て欲しいとやってきたのです。

私も忙しいんですけどね。

そして部下に連れられてやってきた私は信じられないものを見ました。

「森に道が出来ている?」

そう、道です。馬車が通れるほど広い道が出来ているではないですか。

小さい馬車なら二列で通れるほど広いですよコレ!?

「一体誰がこんな……!」

考えるまでもありません。

そんな事が出来るのは彼しかいません。

「ちょっといいですかレクスさん!」

急いで町に戻った私達は、レクスさんを探し出して彼に問いました。

森に道を作ったのは貴方ですかと。

「はい、あれなら森に入る冒険者さんも安全に奥までいけるかなーと」

あっけらかんとした様子で肯定されてしまいました。

もしかしたら怒ったほうが良かったかもしれません。

ちょっとこの子の将来が心配になります。

ですが彼の人生を心配するのと同時に、私の脳内にある計画が湧き上がりました。

本来なら上役や国に相談するレベルの計画です。

ですが私はこれでも最短でギルド長補佐に上り詰めた女。

この好機に時間を無駄にする選択肢などありません。

老人達の無駄な会議をしている間に、彼という選択肢がどこかに行ってしまうのだけは避けねばなりません。

「レクスさん、森の外周を焼く依頼ですが、それをちょっと後回しにしても良いので頼みたい仕事があるのですが。ええとですね、地図のこのへんとこのへんを……ああ、もちろん報酬は別途お出ししますので……」

これが後に、魔獣の森を横断して近隣の村や隣国へ最短で行き来できる一大交易路、通称『レクスロード』が誕生した瞬間でした。

やったー、実家に帰りやすくなりましたー!