Nido Tensei Shita Shounen wa S Rank Boukensha Toshite Heion ni Sugosu ~ Zense ga Kenja de Eiyūdatta Boku wa Raisede wa Jimi ni Ikiru ~
Episode 119: Those Looking for the Dragon Emperor
◆リリエラ◆
「龍姫様ですね」
「いえ違います」
町を歩いていたら突然目の前に立ちふさがった人にそんな事を言われたので、私は即座に否定した。
「……」
まさか秒で否定されるとは思わなかったらしく、その人はあからさまに困惑の表情を浮かべる。
まぁでも龍姫じゃない私には関係ないわね。
私は無言でその横を通り過ぎると、宿へと向かう。
「ちょ、ちょっとお待ちください龍姫様!」
「だから私は龍姫じゃありません」
振り返る事もせずに私は切り捨てる。
「我々は王都より、反龍帝派の貴族より龍帝陛下をお守りする為に来た者です。どうか龍帝陛下へのお目通りをお願いいたします!」
この人達は何を言っているんだろう?
反龍帝派? 龍帝を守る?
正直言って面倒事の臭いしかしないわね。
「だったら龍帝陛下に直接言えばいいんじゃないですか?」
「それが龍帝陛下が何処にいらっしゃるのか我々には分からないのです。ですから龍姫様に謁見の仲介をお願いしたいのです」
どうしようコレ。
街中でドラゴンを倒した私は完全に龍姫としてマークされてるっぽいし、逃げても宿を探し出して押しかけてきそうだわ。
まったく、あんな目立つ場所で単独ドラゴン退治なんてさせたレクスさんを恨み言を言いたい気分だわ。
なんて言っても、問題は解決しないか。
しょうがない、とりあえず時間を稼ぐしかないわね。そして皆で相談しましょう。
覚悟を決めた私は足を止めると、後ろからついてきていた男の人に振り返る。
「私の一存ではお答えできません。仲間達と相談する必要がありますので、後日改めてお越しください」
「おお、ありがとうございます!」
いや、会わせるとは一言も言ってないんだけどね。
「じゃ、そういうことで」
とりあえず相手を待たせる事に成功した私は、これ以上の面倒事に巻き込まれないために走りだした。
「あっ、お待ちください龍姫様!」
だから龍姫じゃないっての!
◆
「という訳で、王都の貴族が龍帝に会いたいみたい」
宿に戻った私は、皆を集めて事情を説明する。
「反龍帝派の貴族ねぇ。この国の貴族にも色々事情がありそうね」
とミナが呆れた様子で溜息を吐く。
ホント、勘弁してほしいわ。
「でも巻き込まれたら迷惑」
「メグリさんの言うとおりですね。貴族のトラブルに巻き込まれるのは正直危険です。最悪の場合は棄権してこの国を離れる事も考えないといけないのでは?」
ノルブ君の言うとおりね。
これまでは町の人間の勘違い程度だったけど、貴族まで絡んでくると厄介だわ。
「そもそも……」
とそこでメグリが口を開く。
「その人達が龍帝と思っているのはレクス。でもレクスを護衛できる人間なんてどこにも居ない」
「ぷっ……確かにね」
「兄貴を護衛できる奴なんている訳ねぇよな」
「ですね、むしろレクスさんに護衛してもらった方が安全ですからね」
まぁそうよね。
レクスさんの護衛なんてそもそも無意味だし、更に言えばレクスさんが龍帝というのも大きな勘違いだわ。
「でも相手は龍帝が居るって思い込んでるのよね」
「「「「「「うーん」」」」」」
本当にこれは厄介だわ。
私達が龍帝なんて居ないと言っても、相手は居ると信じているから、私達が嘘を言っていると思うんでしょうね。
そもそも居ない龍帝、厄介な貴族のゴタゴタ、龍姫の儀と龍帝の儀への参加要請。
うーん、これはいっそ何もかも放り投げてこの国を出た方が良いかもしれないわね。
事情を話せばギルド長も儀式への参加を強要はしないでしょうし。
儀式への参加を諦めようと言おうとしたその時、今まで黙っていたリューネが手を挙げた。
「あの、それでしたら龍帝陛下は私達にも姿を隠しているという設定にしてはどうでしょう?」
「どういう事?」
「はい、王都から来た方は、龍帝陛下に仇なす貴族から龍帝陛下をお守りするつもりだとおっしゃっています」
「ええそうね」
「それはつまり、龍帝陛下もご自分に害をなす存在について感づいていると考えらえませんか?」
ああ成程、そういう事。
「龍帝は敵対派閥に自分の存在がバレない様に身を隠しているから、私達も龍帝がどこにいるのか分からないと言い張ってしまえば良いって事ね」
「はい、その通りです。そして龍帝様、いえレクス師匠達は敵対する者達から本物の龍帝陛下をお守りする為の影武者として大会に参加しているという設定にしておくのです」
確かにそれなら存在しない龍帝に合わせる事が出来ない理由が出来るわね。
「分かったわ、それで行きましょう」
後は儀式が終わるまで上手く誤魔化せばOKね。
◆王都の貴族◆
「龍帝派の者が龍姫と思われる娘と接触したようだ」
幾度か目の報告で、遂に龍帝派がタツトロンの町へたどり着いたとの報告が入った。
「それでどうなった?」
「監視していた部下の話では、龍帝は龍姫達にも自分の素性を明かしていないらしい。その為護衛をしようにも誰が龍帝なのか分からないそうだ」
それはまた、随分と思い切った事をするな。
「それだけ信頼できる部下が居ないという事だろうな」
この国の貴族は龍帝が居ない事で利益を得ている者が多い。
そして利益を十分に享受できない者は、大した力を持たない下級貴族でもある。
つまり龍帝が味方として信頼するにはいささか頼りないという事だ。
「だがそれでは結局のところ、龍帝の正体は分からないままではないか」
「いや、龍姫に近しい者は皆龍帝の影武者らしい。龍帝候補が減る事は今後の調査に役立つ」
「やれやれ、結局地道に調べるしかないという事か」
「だがそれは龍帝派の連中も同じ事だ」
振り出しに戻った事で、溜息を吐く同志達。
「しかし、それは本当なのかな?」
「何がだ?」
同胞の一人が疑わしげに眉をひそめている。
「龍姫が龍帝の正体を知らないという話だ」
「龍帝派に嘘をついていると?」
「貴公も先ほど言っていたではないか。信頼できる部下が居ないと。龍姫は龍帝派が信用できなかったからこそ、自分達は龍帝の正体を知らないとシラを切った可能性がある」
成程、大した力のない龍帝派の貴族では、むしろ足手まといになりかねないと判断したという事か。
「だが本人に聞いたところで教えてはくれんだろう?」
「ああ、だから龍帝本人に姿を現してもらうのだ」
「龍帝本人に?」
それはどういう意味だ?
「そうだ。龍姫を人質にとって龍帝を呼び出すのだ。さすれば龍帝とて姿を現すしかあるまい」
「成程な。確かにそれなら龍帝も動かざるを得まい」
卑怯ではあるが、貴族の世界では日常茶飯事だ。
むしろ貴族としてはそんな手に引っかかる方が悪いとすら言える。
「よし、その策を採用しよう!」
◆
「部下から報告があった」
数日後、龍姫捕獲の命令を受けた部下から報告が返ってきた。
「おお、どうだった!」
「……うむ、全滅した」
「……何?」
「全滅した。予選で敗退した部下達を総動員して龍姫を襲わせたが、返り討ちに遭ったそうだ」
「そ、それは敵も龍姫を狙われると考えて兵を配置していたという事か?」
だとすれば龍帝はこちらの動きを読んでいるという事か!?
「いや、龍姫一人にボコボコにされたそうだ」
「なに?」
いや、部下達を騒動員したのだろう?
あの者達は我等の裏工作の為に働く腕利きだぞ?
それを数十人送ったのだぞ?
「……それは、本当に人間なのか?」
「多分人間だとは思うのだが……」
しかし現実として部下達は全滅してしまったらしい。
「くっ、どうする? これでは龍帝の正体を探る事は出来んぞ!?」
「諦めるな! まだ手段はある! そうだ! 龍姫の関係者を狙うのだ! いかに龍姫が化け物だろうとも、龍姫の関係者全員が化け物とは限らんだろう! 誰か一人でも龍帝の仲間を捕らえれば、龍帝をおびき出せるはずだ!」
「そ、そうだな。いくらなんでも全員が化け物な訳あるまい」
何故だろう、皆とてもやる気になっているのだが、凄く嫌な予感がする。
◆
「全員に返り討ちに遭った……」
「「「「全員化け物だったのかっ!!」」」
龍帝の部下は一体どれほどの手練れだと言うのだ!?
まさか逆に我々の方が誘い出されたとでも言うのか!?
「それと、部下達が自信を無くして辞表を提出してきた」
こうして、龍姫とその関係者を使って龍帝をおびき出す作戦は失敗に終わってしまったのだった……