「おらぁぁぁ!」

俺は襲ってくる敵を片っ端から返り討ちにする。

「くっ、コイツ等強いぞ!? どうすればいいんですか隊長!?」

弱気になった敵が、自分達のボスに助けを求める。

チャンスだ! ボスが誰か分かれば後はソイツを倒すだけだ。

修行の時に兄貴も言っていたかんな。ボスさえ倒せばどんな大軍も総崩れになるってよ!

だが、状況は俺だけでなく、敵にも予想外の方向に転がる事になる。

なんと後ろの敵が味方を巻き込む事をお構いなしに魔法を撃ってきやがったんだ。

「って、マジかよ!?」

本気かコイツ等!?

「くそっ! 皆、俺の後ろに隠れろ! バーストブレイクッ!!」

俺は龍帝派の連中を守る為に、魔法を放って相手の攻撃を相殺する。

「た、助かりました!」

「おう! 下がって身を守れ!」

つっても、パニックになってる上に、この乱戦状態じゃ下がるのも難しいか。

「うわぁぁぁっ!」

声に振り返れば、味方の攻撃を受けた敵の戦士達が悲鳴を上げていた。

「ちっ! 胸糞悪いぜ! バーストブレイク!」

俺は思わず敵の前に飛び出すと、向かってくる魔法を相殺する。

「な、何故我々を!?」

助けた敵が呆然とした顔で俺を見て来る。

「分かんねえよ! けどな、仲間を攻撃する様な奴は許せねぇ、それだけだ!」

奥に居る連中、絶対碌でもない奴等だな。

こんな奴らはさっさと倒すに限るぜ!

「うぉぉぉっ!!」

俺は飛行魔法で敵を飛び越えると、一気に最後尾を目指す。

だが敵もそれを察していたのか、一番後ろに居たヤツが俺に魔法を放ってくる。

それはさっきの味方を巻き添えにする事を構わず使ってきた無差別な攻撃じゃなかった。

ありゃあ、最初に俺を狙ってきた魔法だ!

「何度も同じ手が通じると思うなよ!」

俺は剣に魔力を込めると、敵が放った魔法を切り捨てる。

「おおっ!? 魔法を剣で切った!」

「流石は竜騎士!」

いやだから竜騎士じゃねぇっての。

ともあれ相手の攻撃をしのいだ俺は、後ろでふんぞり返ってたヤツに向かって突撃する。

「今度はこっちの番だ! 喰らいやがれ!」

まずは一人だ!

「そうはさせん!」

攻撃が決まったと思ったその時、突然横から邪魔が入った。

「うぉっと!?」

慌てて不意打ちを回避すると、俺は飛行魔法の出力を片側だけ強くして急反転、更に武器の刀身の半分からも高出力の炎を噴出し、回避の勢いを利用して反撃に出る。

「ぬぅっ!?」

だが相手も俺の攻撃をギリギリで躱す。

そしてお互いに飛び退って距離をあける。

「ダルジン、この小僧なかなかやるぞ」

「そのようだな」

あっちの魔法を撃ってきたヤツはダルジンっていうのか。

「おいおっさん達。素直に降伏するなら命までは取らねぇぜ」

……この二人は厄介だぜ。

味方を巻き添えにする事も躊躇わないヤバイ魔法使いと、兄貴に作ってもらった装備を使った攻撃を避ける事が出来る戦士。

戦いを長引かせたら駄目だって俺の勘が警告してきやがる。

「くっ……はははっ! 降伏しろだと!? 我々にか!?」

ダルジンがいきなり笑い出す。

まるでそんな事を言われるとは思っても居なかったと言わんばかりの笑い声だ。

「ふっ、くくくっ、俺達も侮られたものだ。たかが人間の小僧に降伏を促されるとはな」

「人間? なんだそりゃ、まるでお前らは人間じゃないみたいじゃねぇか」

俺がそう突っ込むと、ダルジンは軽く目を見開く。

「おっと、これはしまった」

「ふむ、だがどのみちこの姿ではあの小僧の相手は難しいぞ。本来の姿で戦うべきだろう」

「そうだな。こちらの兵もあの小僧の攻撃で大分減ってしまった……この程度の数では、もはや居るだけ邪魔だな」

そう言ったダルジンが手を上に掲げると、赤黒い魔力を放出し始める。

攻撃が来る、そう思うと同時に俺はヤツの魔力から感じる悪寒に身を震わせた。

「何だありゃ!?」

いや、俺は知っている。

あの赤黒く光る邪悪な魔力を……俺は見た事がある!

あれは……兄貴と出会って間もない時に運悪く遭遇したアイツの魔力にそっくりだ。

「まさか……」

それだけじゃない。

ダルジン達の姿がみるみる間に変わってゆく。

肌の色は赤黒く変色していき、背中からは服を破って蝙蝠みたいな羽根が、そして頭からは禍々しい角が生えてくる。

「な、何事だ!? 連中のあの姿は一体!?」

「た、隊長……!?」

敵も味方も連中の突然の変貌に何が起きているのか分からなくて混乱する。

間違いない、俺はアイツらの正体を知っている!

「あれは……魔人だ!」

「ま、魔人!? あの伝説の!?」

ダルジン達の正体が魔人だと言われ、バキンのオッサンが驚きの声を上げる。

分かるぜ、俺も初めて知った時は同じ反応をしたかんな。

「皆下がれ! あいつ等はマジでヤベェぞ!」

「「「「う、うわぁぁぁぁぁっ」」」」

味方だけでなく、敵の戦士達も慌てて魔人達から離れていく。

正直それが正解だぜ。アイツ等はお前等が居ても平気で魔法をぶっ放してきやがったんだからな。

けどどうする? まさかこんな所で魔人が出るとは思わなかったぜ。

兄貴が居ればともかく、俺一人じゃコイツ等二人を相手にするのは……

「くくくっ、驚いたようだな」

「無理もあるまい。人間共が俺達の姿を見るなど、じつに数百年ぶりなのだからな。むしろ俺達の姿を見て魔人だと気付いた事を褒めてやらねば」

「ウ、ウチの隊長が魔人?」

「ど、どうなってるんだ? 誰か教えてくれよ?」

「俺にだって分かんねぇよ!」

突然自分達の隊長が魔人になって、敵にも動揺が走る。

どうやら仲間の正体が魔人だとは知らなかったみたいだな。

「それでは、改めて……死ねぇいっ!!」

魔人の片割れが爆ぜる様に俺に襲い掛かってくる。

「くおぉっ!!」

俺は身体強化魔法で全身を強化すると、魔人の攻撃を真正面から受け止めた。

「なにっ!?」

まさか正面から攻撃を受け止められるとは思っていなかったらしく、魔人が驚きの声を上げる。

へへっ、驚いたかよ! 伊達に兄貴に修行を付けられてないぜ!

「おりゃあ!」

俺は受け止めた相手の武器を弾くと、片手に持った剣で連続のラッシュを叩き込む。

剣の柄頭から高速噴き出した炎が、突きの威力とスピードをアップさせる。

更に突きを出した直後は切っ先から炎が噴出して即座に腕を戻す。

これを連続して行う事で、俺は腕を疲れさせることなく無限に高速の突きを繰り出す事が出来る。

「名付けて、フレイムラッシュ!」

まぁ考えたのは兄貴なんだけどな。

「ぐぁぁぁぁぁっ!?」

俺のスピードについてこれなくなった魔人が、何発か突きを貰って体中から血を噴出させる。

うーん、この攻撃、スピードは出るんだけど、その分狙いが甘くなるんだよな。

兄貴は俺の倍以上の速さで全く同じ場所を突き続けていたけどな……

「ぬぅん!」

「おっと」

このまま魔人にトドメを刺してやろうと思ったんだが、ダルジンの邪魔が入って逃げられちまった。

「ダルジン、この小僧手練れだぞ」

「うむ、まさかこれほどの使い手を配置していたとはな。さすがは龍帝といったところか」

あー、何か連中も変な勘違いしてんなぁ。

って、あっこら手前ぇ! ポーション使ってんじゃねーよ!

せっかく付けた傷が治っちまったじゃねーか!

くっそ、魔人もポーション使うのかよ。

そういや兄貴達が受けたSランクの依頼で戦った魔人も、マジックアイテムかなんか使ってたって言ってたな。

「くくくっ、それなりに腕に自信があるようだが、俺達二人を相手にどこまで保つかな?」

二手に分かれたダルジン達が、左右から俺に襲い掛かる。

飛行魔法を利用した高速機動で敵の攻撃を避け、それでも避けきれなかった攻撃は身体強化魔法で防御力を上げて受ける。

兄貴の作ってくれた鎧のお陰で今の所ダメージは大してねぇけど、相手は魔人だ。

いつまで保つ?

くっ、一人なら何とかなったかもしれねぇけど、魔人が二人も相手じゃさすがに荷が重いぜ……

「あら、それならもう一人足せば二対二ね」

そんな時だった。

ふと聞き覚えのある声が荒野に響いたと思ったら、突然俺の周囲に炎の壁が吹き上がったんだ。

「「うおおっ!?」」

壁の向こうから魔人達の驚きの声が上がる。

「危なかったわねジャイロ」

その声に振り向けば、当然のようにそこには見覚えのあるヤツの姿があった。

「お、お前!? 何で!?」

そこに居たのは、俺の仲間の……ミナだった。

「アンタの事だから、どうせ拗ねて家出したんだろうと思ったのよ。まぁまさか、こんな事になってるとは思っても居なかったけどね」

「家出じゃねーし! ちょっと修行に行こうと思ってただけだっつーの!」

「はいはい、ところで良く分かんないんだけど、とりあえず倒せば良いのよね? あれって魔人でしょ?」

俺の抗議の声なんて聞こえなかったかのように、ミナが魔人を見据えて睨む。

軽い口調だがミナの顔は真剣だ。アイツ等を本気で警戒してる。

「ああ、よく分かんねぇけどいきなり襲ってきやがった」

「なら敵ね。遠慮はいらないわ」

コイツ切り替えって言うか、状況判断が早いよなぁ。

「皆さん、私達があの魔人の相手をしますから、皆さんは他の敵をお願いします!」

「わ、分かりました!」

ミナの指示を受けて、バキンのオッサン達が俺達から離れて敵の戦士達の相手に向かう。

つっても、向こうも仲間が魔人だった事がショックらしく、動きが鈍い。

「それじゃあ、行くわよジャイロ!」

「命令すんなっつーの! 戦ってたのは俺だぞ!」

「なら指示は任せるわリーダー」

「おうよ!」

へっ、我ながら現金なモンだぜ!

味方が来てくれただけでこんなにも負ける気がしなくなるなんてな!