Nido Tensei Shita Shounen wa S Rank Boukensha Toshite Heion ni Sugosu ~ Zense ga Kenja de Eiyūdatta Boku wa Raisede wa Jimi ni Ikiru ~
Episode 153: The Temple of Sealing
「随分と古い建物ね」
小山の上に建てられた建物に近づくと、その詳細がはっきり見えてくる。
「これは、人が住む建物じゃあないですね」
どちらかというと、なんらかの儀式を行う為の神殿のようだ。
その建物はだいぶ劣化していて、いつ倒壊してもおかしくなさそうに見える。
多分腐蝕の大地の毒が建材の劣化を早めているのかもしれない。
「中に入ってみましょう」
「ええ」
建物に近づいたその時だった。
「ん?」
僕はある違和感を肌に感じた。
「これは……」
「どうしたのレクスさん?」
僕の様子を見たリリエラさんが何かあったのかと聞いてくる。
「いえ、なんでも……」
うん、気づかれるとマズイし、今はまだ口に出さない方が良さそうだね。
◆
建物の中はシンプルだった。
中に家具の類はなく、たったひとつボロボロの大きな祭壇があるだけだったからだ。
「あれは一体何かしら?」
リリエラさんもあからさまに鎮座している祭壇が気になる様で、首を傾げている。
祭壇の上には複雑な文字が書かれた大きな円盤が立っている。
後ろに展示用の支えがついた飾り物の絵皿を大きくした感じと言ったら通じるかな?
「うーん、これは何かの封印のようですね」
「えっ!? 見ただけで分かるの!?」
「ええ、見てください。この祭壇に刻まれた文章を」
「え? これって文字だったの!? 模様じゃなくて!?」
祭壇に刻まれた文字に気付かなかったと言われ、僕は少し驚いてしまった。
リリエラさんは冒険者ギルドの依頼ボードに貼られた文字を読める筈なんだけど……
「もしかしてこれが古代文字ってヤツなの? 初めて見るわ……」
ああ、そうか! この文字は僕の時代の文字だから、リリエラさんから見たら古代文字なんだ!
危ない危ない、うっかりしていたよ。
「ええと……リリエラさんはこれまでの冒険で古代文字に触れる機会はなかったんですか?」
「残念ながらなかったわね。私は故郷の皆の病を治すために、魔獣の森近辺で活動していたから、遺跡探索をする事はなかったわ。強いて言うなら天空人に出会った時と、レクスさんのサポートとして参加した鉱山内の地下遺跡くらいかしら。まぁどちらも遺跡そのものに触れる機会はなかったけど」
そういえばそうだなぁ。
天空人とのゴタゴタの時は遺跡である天空城よりも、森島や西の村にいた時間の方が長かったしなぁ。
鉱山内の地下遺跡でも、リリエラさん達はキャンプ地の護衛に回っていたから、遺跡の書庫には入っていなかったっけ。
「なら今度どこかの古代遺跡にでも冒険に行きませんか?」
「ぷっ」
と、急にリリエラさんが笑い出したので、僕は戸惑ってしまう。
「リ、リリエラさん?」
「ご、ごめんなさい。でも危険な古代遺跡なのに、まるでデートに誘うみたいな気軽さで言われたものだから」
「︎デ、デート⁉︎︎あ、いえそんなつもりで言ったわけじゃ……」
「分かってるわ。レクスさんにそんなつもりはないって事は。でも本当に気軽に言っちゃうんだもの」
びっくりしたなぁ。まさか古代遺跡探索をデート扱いされるとは思わなかったよ。
「ふふ、それならダンジョン探索とか面白そうよね」
ダンジョン探索かぁ。前世だとあんまり縁の無かった場所だなぁ。
基本的に英雄の仕事は魔人討伐だったから、魔人がいない場所は自然と縁遠くなっちゃったんだよね。
「それにしてもこの封印、ちょっと厄介な事になっていますね」
「厄介って……もしかしてコレが原因?」
リリエラさんは祭壇の上に鎮座している術式が刻まれた円盤に大きく刻まれた斜めの傷を指差す。
「ええ、これは明らかに後から付けられた傷ですね。この傷が原因で封印が弱まって腐蝕の大地の浸蝕が早まったみたいです。中心地の毒の濃度だけが異常に高いのもそれが原因ですね。しかもその余波で封印そのものも急速に劣化しています」
誰だか知らないけど、面倒な事をしてくれたなぁ。
お陰で周囲の村の人達が迷惑してるじゃないか。
「それってマズイんじゃないの?」
「マズイですね。このままだと封印が完全に壊れて、中に封じられているヤツが解放されてしまいます」
と言っても、これまでの出来事で何が封印されているのかは大体予想出来たんだけどね。
ただ気になるのは、なんでわざわざ封印なんて面倒な手段を取ったかなんだよなぁ。
何かに利用する為にワザと封印なんて手段を取ったのかなぁ?
この封印は一度かけたら壊れるまで解除できない使い切りみたいだから、何かに再利用する為って訳でもなさそうだし。
「ねぇ、封印が壊れたらどうなっちゃうの」
リリエラさんが不安そうな様子で封印が壊れたらどうなるのかと聞いてくる。
「そうですね封印によって内部で凝縮されていた毒素が一気に噴出し、腐蝕の大地に生息していた毒持ちの魔物達が全滅すると思います。そして腐蝕の大地が一気に広がって相当な範囲が毒の沼に沈むでしょう」
「毒持ちの魔物まで死んじゃうの!?」
「ええ、さらに逃げる間も無く町や村が腐蝕の大地に飲み込まれる為、多くの人々の命が失われます」
「そ、そんな!? 逃げる間も無いなんて……」
多くの命が失われると知り、リリエラさんの顔色が真っ青になる。
「ねぇレクスさん、封印はどのくらい保つの? 早く近くの町に戻って、冒険者ギルドに頼んで避難を要請するべきだわ! ギルドなら国に事態を報告することもできるし、レクスさんはSランク冒険者だから情報の信憑性も段違いよ!」
リリエラさんは最悪の状況を想定して青くなりながらも、すぐに次善の策を提案してきた。この判断力は流石Aランク冒険者だね。
ただその方法を取るにはちょっと時間が足りないんだ。
「リリエラさん、申し訳ないんですけど近隣の人々を避難させるには時間が足らないんです。封印が解けるまではもう3日を切ってる状況です。それも長くて3日です」
「そんなに!? で、でも荷物を捨ててすぐに逃げるように言えば命だけは助かるわ!」
「いえ、それでも間に合いません。封印の古さと中心地の毒の濃度を鑑みると、封印が破れた際の余波は最低でも王都まで届くと思います。全員が馬車に乗っても間に合いません」
「そ、そんな……」
「だからちゃちゃっと再封印しちゃいましょうか」
「……そんな、再封印しか無いなん……って、え?」
リリエラさんがキョトンとした目でこちらを見てくる。
「はい、封印が壊れる前に避難するのは無理なので、まずは再封印してから改めて対処するべきかなと」
「じゃなくて、再封印なんて出来たの?」
「はい、出来ますよ」
「何でっ!?」
「何でって、この封印を読み解けばどんな封印をしたか分かりますし」
「何でそんなに簡単に分かるの!?」
「古代語を読めれば誰でも分かりますよ」
「絶対嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉっ!」
嘘じゃ無いんだけどなぁ。
「はぁ、封印が壊れた時の事を真剣に考えてた私がバカみたいじゃない……っていうか、再封印なんて出来るのなら最初から教えてよもう!」
「あー、すみません。封印が解けたらどうなるのかって聞かれたので、てっきり封印が解けた後の対処法を考えていたのかなって思って」
「最初から前提にズレがあったって訳ね。今度からはレクスさんに対策があるか聞いてから考えることにするわ」
「あはは……じゃあまずは暫定の封印をつくっちゃいますね。その後改めて正式な再封印をします」
「暫定? すぐに正式な封印しないの?」
「壊れかけの古い封印が残ってますから、これがある状態で再封印をかけると後で何かトラブルが発生する危険性がありますから。だから仮の封印を外に作っておいて、元の封印が壊れたら仮の封印によって放出された毒素と封印されていたモノを閉じ込めます。その後改めて本封印をします」
「手間がかかるのね」
「代わりに新しい本封印は解除しなくても新しい封印の上から被せることが出来るようにするつもりです」
「成程、未来の人達が困らないよう敢えて面倒な作業をするって訳ね」
リリエラさんがそういう事かと納得する。
「そういう事です!」
「……ただ問題は、未来の人達がレクスさんの封印をちゃんと理解出来るかって事よね」
「何か言いましたかリリエラさん?」
「ううん、何でも無いわ」
「じゃあ仮の封印をしちゃいましょうか……っとその前に、そろそろ出てきたらどうだい?」
僕は出口に隠れている人物に向かって声をかける。
「え?」
リリエラさんがなんの話? とキョトンとした声をあげる。
「気付いていたか……」
空っぽの神殿に第三の声が響くと同時に、入り口の近くの柱から一つの影が現れる。
「嘘っ!? こんな所に人が!?」
リリエラさんが驚くのも無理はない。
ここは高濃度の衝魔毒に侵された文字通り呪われた土地だからね。
「リリエラさん、思い出してください。封印は何者かによって傷つけられた事で弱まってしまったんですよ」
「じゃあアイツが犯人な……の?」
姿を現した犯人の全容を見たリリエラさんが緊迫した声で呟……けなかった。
何しろ僕も犯人の姿に何が起きているのかと困惑してしまったからだ。
「そうとも、私が腐蝕の大地の封印を破壊した張本にゲホゴホガホッッ!!」
犯人は最後まで言い切る事なく盛大にむせた。
そう、姿を現した犯人……いや魔人は全身から血を噴出しながら死にかけていたからだ。
「「……って、なんで犯人が死にかけてるの!?」」
一体どうなってるの⁉︎