Nigotta Hitomi no Lilianne

Months 122,9-11

オーベントの秋。

それはクリストフ家にとって誕生日ラッシュを意味する。

9の月と10の月と11の月に固まるようにして誕生日が集まっているので一緒にして祝うなどということがないお金持ちなクリストフ家では身内だけとはいえ、その身内の人数が使用人を合わせるととんでもない数になってしまうので毎回盛大になる。

そんなわけでまずは我らがお母様、クレアティルのお誕生日会が最初に来る。

去年は100万本の薔薇とはいかないまでも両手に抱えきれないほどの花束を最愛の夫であるアレクサンドルから受け取り2人だけのラブラブ空間を作り出していた。

今回はというと、アレクのプレゼントは彼が手作りした木彫りのネックレスだった。

去年の何気に格好をつけた態度からは一転なんとも初々しい感じでまたもやラブラブ空間を形成している我らが両親に生暖かい眼差しを送ったりした。

祖父母であるアンネーラお婆様とローランドお爺様からはイアリングを。

エナからは髪飾りを。

そして自分こと、リリアンヌ含む3人の子供達からは父アレクに倣い、我が侭券という自分発案の手作り白紙の小切手が贈られた。

お手伝い券や肩たたき券でもいいかと思ったが、お手伝いをしようにもクレア達が家事をすることはなく仕事の手伝いも無理だし、肩たたきとはいってもクレアはまだまだ若いし、魔力の流れ的にもものすごく健康だ。

薄幸の美少女然としてはいるが、その中身は健康優良児を爆発させたような健康具合なので肩の方も凝りはなさげ。

ならば肩が凝ってないなら全身マッサージ券、と思ったのだが生憎そのような知識もなく、せいぜいうつ伏せに寝てもらったところを足を押してあげるくらいしか思い浮かばなかったのでこの形に収まった。

普段からとても優しく、叱られた事もほとんどない。それに宮廷魔術師をしているためアレク並に忙しい彼女に少しでも子供達との触れ合いをと思って我が侭券としたのだ。

これなら色々なことに対応できるだろうし。

さすがに初めての物だったので贈った時には不思議そうに顔を傾けていたけれど、テオとエリーが一生懸命説明するとその表情はどんどん華やいでいって最後には魔力の発露全開での抱擁が待っていた。

一頻り抱擁を済ませるとさっそく1枚目の我が侭券を使うということで、今日1日ずっと一緒にいるという我が侭を発動。

我が侭のように聞こえないがクレアはそれでいいらしく、テオとエリーと自分はその日1日ずっとお風呂からベッドまで一緒にした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

9の月、2人目の誕生日は我らがお兄様、銀閃の貴公子ことテオドールである。

銀閃の貴公子とは中等部に通っているテオにつけられた二つ名で、銀の髪を閃かせ凄まじい速さで動き、相手を颯爽と制圧することから名づけられたらしい。

ちょっと背中が痒い。

というか颯爽と制圧って学園は殺伐としすぎている気がする。

いやきちんと理由は知っているのだが、絵面だけ見るとなんとも言えない世紀末な学園をイメージしそうだ。

もちろん理由は初等部から続く、テオによる喧嘩の仲裁業務のためだ。

すでに業務と化しているくらいテオが担当としている。

学園はそこそこ人がいるので喧嘩もそれなりに多いのだ。しかも冒険者志望の戦士見習いの子や騎士志望の子なんかは腕っぷしが強い子が多いので喧嘩っ早い子も非常に多い。

それを頼りに将来設計を立てているのだから当然といえばそうかもしれないが、まぁそんな理由でテオは毎日喧嘩の仲裁をしている。

とはいっても、ほとんど制圧しているだけなわけだが。

さて、誕生日会だがテオは11歳になる。

11歳といえばまだまだ子供だ。学園にいるときは王子様然とした貴公子なんだろうけど、うちにいるときは訓練の時以外はおこちゃまである。

もちろんお兄様なのでその辺はしっかりしているが、やはり両親の前や祖父母の前では素直な子供に戻る。

というかアレがテオの素なのだけどね。

どんなに貴公子とか王子様とか持て囃されてもテオはテオなのだ。

誕生日会は身内でも家族だけのささやかで暖かいものでその日は両親にべったりのテオに自分とエリーを両手に華にして終始ご満悦のご様子だった。

ちなみに自分からのプレゼントはそんなお兄様の1日メイドさんでした。

そんなメイドさんルックな自分を見たテオが完全に機能停止したのは言うまでもない。

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テオの次は10の月になってからエリーの番だ。

エリーも9歳になり、来年には魔術適性の検査がある。

でもそんなことは関係ないとばかりにエリーには誕生日の前からずっとお願いされていた事がある。

それはプレゼントの件だ。

メイドさんルックを見てテオ同様に完全停止していたエリーから他は何もいらないから是非といわれ続けていたのだ。

その真剣さは訓練の比ではなかった。

最初は特に異論もないので軽く了承しようと思っていたのだが、なんとなく悪戯心が芽生えてしまって返事を保留にしていたのだが、誕生日が近づくにつれてエリーのお願い攻勢がどんどん切迫し出し、焦りと共に凄まじい執念というべきか魔力の流れすら変動させるほどのナニカを見せ始めたのにはさすがにびっくりした。

エリーさんや……そこまでしてメイドさんしてほしいのかい……。

まぁ確かにテオの1日メイドさんをしてあげたときのエリーの悔しそうな顔は近年稀に見るほどのものだった。

というかあのレベルの顔は初めてみたかもしれない。

というわけで、誕生日の前日についに押し切られて……というかさすがに悪戯心が出ただけで最終的にはやってあげようと思っていたので1日メイドさんを了承すると、なんとエリーは涙を流してまで喜んでくれた。

妹にメイドさんをしてもらうことに感動して涙を流す姉。

テオも相当だと思っていたが、エリーも負けないレベルで同類だったと思い知った。

ちなみに、1日メイドさんのお仕事はお茶を淹れてあげたり――成長が遅いみたいなので腕力は普通の平均以下なのでかなり大変。しかも物が見えないのでお世話される方のエリーのサポート必須――。

食事をあーんしてあげたり――やはり見えないのでエリーのサポートというか、エリーが導いて食べ物をフォークに刺してからが本番――。

お風呂で体を洗ってあげたり――体力は幼女の平均を逸脱しているので時間はかかるがなんとかなる。ちなみにテオの時にもやってあげた――。

一緒のベッドで抱き枕になってあげたり――メイドさんのお仕事じゃない気がする――。

等など、割と大変なのであった。

その甲斐あってか最高の誕生日だったとエリーから花丸を頂いている。

ちなみにテオの時も花丸を頂いた。

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さて11の月にはエナの誕生日がある。

クレア、テオ、エリーときて最後がエナだ。

だがまぁ分かりきっていたのだが、どうにも1日メイドさんというのがテオの時からエリーと続いてエナの番らしい。

誕生日目前のエナのご機嫌っぷりといったら今ならどこでも行かせてくれるのではないかと思えるほどだった。

さて自分は1日メイドさんの予定なのだったが、テオとエリーの発案によるクレアとアレクの賛同を得て、それは急遽変更となった。

そして誕生日。

今日は11の月の1順目(週)、1日で緑の日である。

お忘れだと思うが1順(週)は緑、赤、青、黄、白、黒、無の順だ。

月は4順(週)で1月なので1日は必ず緑の日になる。

閑話休題《まぁそんなことはいいとして》。

今回も自分の1日メイドさんという予定があったので――今は変更されているがエナには内緒――家族だけのささやかな誕生日となっている。

いつもの部屋を飾り付けて、いつものメンバーだけでの誕生日会。

いつもより甘味成分多めのご馳走と共に誕生日会が始まり、両親と祖父母から誕生日プレゼントを受け取るエナは心の底から嬉しそうだ。

魔力の発露も少ないエナだけど滲み出るように暖かい物が発露している。

両親達のプレゼント贈呈が終わり、自分達の番になった。

エナは自分が1日メイドさんをしてくれるとばかり思っている。

そのニコニコの魔力の発露が滲み出ている笑顔からはとても楽しみにしていたのがよくわかる。

まぁでもある意味期待を裏切る結果になるだろうことは想像に難くない。

良い方に、だろうけど。

家族だけの誕生日会なのでドレスコードは必要なく、普段着でそのままなのだが1日メイドさんはもちろんクリストフ家のメイド達に支給されているヴィクトリアンメイドの服装をして行ったのでエナは笑顔ながら不思議そうにしている。

そんなエナに向かってやっぱり代表して我らがお兄様が一歩前に出るとサプライズプレゼントの発表だ。

「エナ、お誕生日おめでとう! 今日は僕ら3人がエナの子供だよ!

改めて」

「「「お誕生日おめでとう、お母様!」」」

3人声を揃えて大きな声でそう言うと、口元に手を当てたエナはその凛々しい顔を笑顔のまま3人まとめて抱きしめてきた。

「ありがとう……最高のプレゼントよ!」

3人を豪快に抱きしめたまま、飛び切りの笑顔でそういったエナからはぽたぽたと人肌の滴が何度も滴り落ちてきていたのは言うまでもない。