さて馬車も完成したし、宿を引き払う準備をしよう。と言うわけでギルドで買取も終わらせて宿に戻り、リリーさんを探す。

 いや、別に受付の人に言ってもいんだけど一番仲がいいのがリリーさんだから、どうしてもね。

 そんなわけでリリーさんは、と……いたいた。

「リリーさん」

「あ、レンさん。おかえりなさい」

「ただいまかえりました。あの、リリーさん。実は明日の朝に宿を出ようかと思いまして」

「えっと、もしかしてまたどこかへ行かれるんですか?」

「はい」

「どちらに行くのかお聞きしても?」

「北の村と、西の川を越えた先にある村ですね。牛乳と卵を買ってこようかと思いまして」

「えーっと、もしかして、料理の為に?」

「はい、料理の為に」

「……」

 ああん、黙り込んじゃった。呆れられた?

「あの、リリーさん?」

「レンさん、実は私、少し長めに休暇を頂いて暫く実家に帰省する予定なんです。実家は王都なんですけど……もしよかったらなんですけど、私と一緒に王都へ行きませんか?」

「え?」

「王都なら牛乳も卵も普通に買えますし、ハルーラの近場で買うよりも量も多く買えます。どうでしょう?」

「……王都、ですか」

 王都。いずれは行ってみるつもりではいたけど……それを抜きにしても卵も牛乳も沢山買える? なら、予定を繰り上げて王都に行くのもありかもしれない。

「その、凄く魅力的な提案なので、ご迷惑でなければご一緒したいんですが……」

「あの、何か問題でも?」

「幾つか確認したいことが。いいですか?」

「ええ、もちろん」

「そうですね……まず、同行するのは私とリリーさんだけですか? 帰省と言うのであればサレナさんもご一緒なのかな、と」

「えっと、一緒に行くのはアリサです。

 姉さんは急な仕事が入ってしまって……その、オーガロードの事があったでしょう? その事後処理が大変らしくて。

 本当は帰省も延期しようか、と言う話もあったんですが……」

「サレナさんではなく、アリサさん?」

「はい。アリサも実家が王都なんです。

 実は幼馴染と言うやつでして、一緒にこっちにきたんですよ」

「……なるほど。

 では次に、女の子三人だけでの移動になるんですか? 流石に少々危険ではないかと思うんですけど」

「あ、それは大丈夫です。こう見えても私もアリサもDランク冒険者なんです! 私、結構強いんですよ? ちなみにアリサは剣が使えます。それに、一応身を守るための切り札もありますから、大丈夫です!」

「切り札、ですか?」

「はい! どんなのかは秘密ですけど」

「なるほど……ちなみに移動は徒歩で?」

「いえ、馬車を借りる予定です」

 ふむー、軽く確認した限りでは問題はなさそう。それに、馬車か……よし。

「わかりました。私もご一緒させてください」

「本当ですか!? 嬉しいです!」

「あ、それと馬車ですが、私に当てがあるので借りなくても大丈夫です」

「そうなんですか? じゃあ其方はお願いしてもいいですか?」

「任せてください。それで移動はいつに?」

「そうですね、では明後日の朝でどうでしょう?」

「わかりました、ではそれで。あ、明後日以降の宿の連泊キャンセルの処理の方、お願いします」

「お任せください!」

 んー、急展開だけどなるようになるよね?

 その後はいつもどおりにお風呂とご飯を済ませて就寝。次の日は念の為に朝一で市場に行ってじゃが芋や野菜等を追加で買い込んでおいた。

 その後は宿に戻って料理の下拵え。備えあって憂い無し!

 沢山用意しておいても腐らないからへーきへーき! 【ストレージ】様様ですな!

 なんてやってるうちに出発当日。

 朝食は三人揃って宿で取って、そのまま私のチェックアウトを待って一緒に移動した。そして街を出る前にギルドに行ってサレナさんに挨拶。

 サレナさんには妹をよろしくお願いしますと何度も頭を下げられた。よろしくされました!

 その後は何事も無く街の外へ。子供達へは馬車が完成した日のうちに挨拶は済ませておいたので問題ない。

「あれ? 街の外に出ちゃいましたけど、いいんですか? 馬車は……」

「大丈夫です、ちゃんと用意してますから。

 でもここだとちょっと目立つので、少し移動しましょうか」

「はい? 目立つ? えっと、とにかく移動する、ということですね?」

「リリー、流石にここから王都まで徒歩は無理だよー」

「だ、大丈夫だよ! レンさんもそう言ってるし! きっと、多分、うん」

 お二人さん、聞こえてますよー

 門から出てお散歩気分で歩く。私の左右にはノルンとベル。うーん、日差しが気持ちいいね。

 そのまま暫く移動すると、丁度いい感じの小さい林を発見。ここでいいかな?

「それじゃ、馬車を出しますね」

「え? 出す?」

 困惑する二人をそのままに【ストレージ】から馬車を取り出すことにする。地面に光の円陣が描かれると、そこに馬車が現れる。この円陣は【ストレージ】から大きいものや大量のものを一度に取り出すときに現れる、範囲指定のようなものだ。ちなみに指定範囲に大きい障害物があると取り出せない場合がある。以前自宅を取り出そうとした時に判明した。

 現れた馬車は馬二頭付き。更に御者も座ってる。

 うん、この御者もゴーレムなんだ。すまない。いや、一人で移動する時に中でゆっくりしたいじゃない? だからダミーに作ってみた。

 ついでにゴーレム3体のコントロールは結局分割思考にぶん投げるのが一番楽だと言うことに気づいたんだよね。実はこれ、寝てても制御が切れたりしなかったんだよ。我ながら意味が分からない。

 ちなみに馬車の外観に関してはアレから色々手を入れて偽装してあったりする。

 外装部分は貴族が乗る馬車のような装飾等は無く、頑強さ重視の実用一辺倒なデザイン。それなりに使い込んでる風にわざと汚しもつけてみた。

 サスペンション等の足回りの内側部分は外から見えないように覆いがつけてある。これで車体下部の他のアブソーバー機構も隠れて見えない。車輪に関しても見た目は普通の木製に見えるように偽装済み。

 ゴーレム馬に関してもより本物の馬に見えるように改良を加えた。つぶらな瞳がかわいいよ?

 御者に関しては人のよさそうな好青年風の顔つきをした男性型。麦藁帽子が似合ってる。

 うーん、我ながら完璧じゃね? うんうん。

 振り返って二人を見てみると、固まってた。うん、そうなるよね。

「馬車です」

「あ、はい」

「馬車ですねー」

「じゃ、乗りましょうか」

「いやいやいや、待って待って待って! ちょっと待って! ごめん、意味分からない! え? どういうこと? 馬車だよ? 収納スキル? いやいや、大きいから! これ、大きいから! あと馬! なんで馬!? それに御者? 御者なんで!? 怖い!」

 わぁい、リリーさん言葉乱れてるよー

 アリサさんは遠い目で虚空を見てる。思考を放棄したか。

「作ってみました」

「いやいやいやいや、作ったって。え? 作った? これを? レンさんが?」

「はい」

「馬は?」

「ゴーレムです」

「御者は?」

「ゴーレムです」

「なんでゴーレム?」

「いえ、本物の馬だと食事とか場所とか、色々とお金がかかって維持が大変ですよね? でもゴーレムなら使わないときは仕舞って置けるし、邪魔になりません。壊れたら直せばいいですし」

「御者は?」

「一人旅だと言っても、出来れば馬車の中でゆっくりしたいじゃないですか? 折角の箱馬車ですし。だからダミーとして作ってみました」

「もう、どこからつっこめばいいのか……」

「ゆっくり飲み込んでからでもいいですよ?」

「……そうさせていただきます」

 リリーさんも考えるのを止めたようだ。私の勝ちだね。