Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga
Hey, what's this weapon?
「こりゃ……すごい」
戦場に到着した僕は思わずため息をつく。
ホワイトウルフの大量発生。
エリサも言っていたが、本当にとんでもない数だ。
五十、百……いや、もっといるのではなかろうか。
「くそ……!」
「面倒な……!」
応戦中の冒険者たちも苦戦を強いられているようだ。なかには一時撤退し、傷を癒している者までいる。
無理もない。
彼らがいかに中級の冒険者とはいえ、この数では分が悪い。
事によると、Bランク冒険者ですら厳しいのではなかろうか。
「君は……アリオス君!」
ふいに声をかけられた。
ユウヤ。
先日会ったばかりの、Bランク冒険者だ。
「よかった……。君が来てくれると心強い!」
かなりほっとしている様子だ。
昨日の一件を経て、僕を頼ってくれるようになったらしい。
実際にも、ユウヤは身体の各所を痛めているようだ。まだ戦うことはできそうだが、そろそろ限界も近いはず。
「レイ。聖魔法を」
「うん!」
僕が言うと、レイはすぐさま聖魔法を発動する。するとユウヤの身体を優しげな輝きが包み込み、すこしずつ傷を癒していく。
「き、君は……聖魔法の使い手……?」
「うん。まだ全快には時間かかるから、大人しくしててね」
「り、了解。でも君、なんか見たことあるような……」
「ふふ、気のせいよ気のせい」
二人の掛け合いを聞き流しながら、僕は戦場を観察する。
――押されているな。
百体以上のホワイトウルフに対して、冒険者はざっと20名程度。個々の戦闘力では冒険者のほうが上だが、前述の通り、ホワイトウルフは連携を得意とする。
「ワォォォォォォオオン!」
「ワォォォォォォオオオン!」
この遠吠えには、互いの攻撃力と防御力を高める能力がついている。それだけでも厄介だが、死にかけた仲間を咄嗟に見抜き、他のホワイトウルフが駆けつける場面も見られる。これでは埒が明かない。
「くぅ……これは……」
「辛いな……」
実際、冒険者たちもかなり辛そうだった。このままでは負けてしまう。
……ふむ。
であれば、こちらも本気で戦うまでだ。
スキル《チートコード操作》発動。
―――――――
使用可能なチートコード一覧
・攻撃力アップ(小)
・火属性魔法の全使用
・対象の体力の可視化
――――――
選ぶ能力は《体力の可視化》。
弱っているホワイトウルフから先に始末するのが最も効果的な戦法だろう。
連携さえ崩せれば、ホワイトウルフはさしたる難易度ではないはず。
「…………」
スキルを発動した瞬間、僕の視界に見覚えのあるゲージがいくつも浮かび上がる。
ふむ。
残り体力は個々によってだいぶ差があるな。
赤いゲージ――残り体力わずか――となっている魔物も一定数存在する。
まずはそいつから始末するか。
僕は腰をやや低く落とし、宝剣レバーティの柄に触れる。
ビリリ、と。
先ほどと同じく、冷たい衝撃が全身を走る。
「……おおお」
すごい。
まるで剣そのものが意志を持っているようだ。
この圧力、尋常ではない。
「そうだ、アリオス君。あのホワイトウルフたち、遠吠えによってかなり能力が強化されているから気をつ――」
背後でユウヤが何事かを呟いていたが、もはやそれすら気にならない。
意識を研ぎ澄まし。
僕は一気に駆け出す。
――淵源(えんげん)流。
一の型。
真・神速ノ一閃。
「おおおおおおおっ!!」
僕は近くにいた瀕死のホワイトウルフに斬りかかると、すぐさま次の標的に向けて走り出す。
「…………!」
斬られたホワイトウルフは悲鳴さえあげぬまま倒れていく。
一秒間でニ体ものホワイトウルフを斬っていく。
それぞれ一撃しか与えていないが、狙っているのは瀕死の魔物のみ。これだけで充分なはず。
あとは元気なホワイトウルフさえ倒せばいい。
――と思っていた時期が、僕にもありました。
「……あれ?」
おい。
おいおい。
ちょっと待て。
僕がまだ斬りつけていないはずのホワイトウルフが、氷漬けになっているんですが。
「……まさか」
剣を振ったときに感じた、わずかな冷気。
もしかしてこの剣、攻撃対象の周囲にいる魔物をまとめて凍らせているのか――?
いつの間にか、生き残っていたのは数匹のホワイトウルフのみ。
比較的元気だった奴らは、宝剣レバーティによって氷漬け状態。
「やばすぎだろ……これ」
この強さに、僕も驚かざるをえないのだった。