Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga
Hey, that scream again.
★
決闘当日。
王都。
バトルアリーナ会場には、すさまじいまでの観客が集まっていた。
「こりゃ……すごいな」
三万……いや、四万人はいるのではないか。
まあ剣聖リオンの目的が《汚名返上》であることを考えれば、これも道理だよな。なるべく多くの人に力の差を見せつけたいだろうし。
そして観客の多くが、剣聖候補の味方のようだった。
「ダドリー様! 頑張ってくださいー!」
「外れスキル野郎なんかに負けないでくださいー!」
「キャー! ダドリー様ぁー!」
「アリオスなんかぶっ飛ばしてー!」
……まあ、仕方ない。
ラスタール村の住人なら僕に理解を示してくれるけれど、まだ大多数の人が僕を腫れ物のように扱う。
この場で声援を求めるのが間違いだ。僕は、僕のできることをやるのみ。
「アリオスさぁーん! 負けないでー!」
「アリオス頑張れーっ!」
たまに聞こえる僕への声援は、カヤかレイあたりかな。ダドリーの応援をかき消すがごとくに叫んでいる。
その威勢の良さに苦笑を浮かべながら、僕は控え室を出て、会場に足を踏み入れるのだった。
会場から差し込む光が、妙に眩しかった。
「ようアリオス。一週間ぶりだな」
僕を出迎えたのは、あのとき《白銀の剣聖》スキルを授かった因縁の相手――ダドリー・クレイス。
あいつもそこそこ修行してきたようだな。
身体の周囲に白銀の煌めきを身にまとっており、剣聖っぽい雰囲気を放っている。見た目だけな。
内面の嫌らしさは相変わらず。
いまも僕を指さしながらニヤニヤ笑っている。
「クク。誉めてやるよ。惨敗がわかってる戦いに応じたことはな」
「キャー! ダドリー様!」
「そんなクズぶっ飛ばしてー!」
いまの発言のどこに魅力を感じたのか、女性陣が黄色い声をあげている。耳障りなことこの上ない。
ちらりと観客席に目を向けると、上座(かみざ)にあたる席にレイファー第一王子が腰掛けている。その隣には剣聖リオンもいるな。
レイはあそこにはいない。
ラスタール村の住人に紛れ込んで、あくまで一般人として応援するつもりのようだ。
「おい、無視か? なんか言えよクズ」
「…………」
なおも煽ってくるダドリーに、僕は呆れ半分に答える。
「余計な問答はいい。剣を持たば雑念は捨てよ――そうリオンから教わらなかったか」
「ふん……。面白くねえ奴」
ダドリーは鼻を鳴らすと、つまらなそうに構えの体勢を取る。
あんな奴でも、一応は《白銀の剣聖》。
なかなかサマになっていることもあり、またしても観客たちが声援をあげる。
……さて、僕もいくか。
全意識を研ぎ澄ませて柄に手を添えると、ダドリーが「ぷぷぷっ」と笑った。
「なんだその構えは。おまえ、まさか最強のマクバ流をなにもかも忘れたのかよ?」
「……言ったろう。余計な問答はいらん」
「けっ、ここまでザコだと張り合いねぇな」
双方構えたところで、審判が片手をあげる。
「これより、ダドリー・クレイス、アリオス・マクバの決闘を始めたいと思います。準備はよろしいですか?」
その問いに、僕もダドリーもこくりと頷く。
一瞬の間。
そして。
「始めぇーーーーー!!」
かけ声と同時に、僕とダドリーは走り出す。
「マクバ流、一の型、神速ノ一閃!」
初手の攻撃はそれか。
なら僕も同じ技でぶつかるまでだ!
「淵源流、一の型――真・神速ノ一閃!」
「な……んだとッ!」
ダドリーが目を見開く。
その怯みが命取りだ。
〇・五秒後。
ダドリーが神速で剣を横薙ぎに切り払う。
たしかにさすがのスピードだ。
だが、同じくマクバ流を習った者として、その動きは熟知している。
〇・七秒後。
王国最強の剣技を繰り出すダドリーを、さらに上回る速度で僕は剣を振るう。下方からの振り上げ攻撃だ。
「な、ちょ――っ! ウボァァァァァア!!!」
ダドリーはまたしても奇妙な悲鳴をあげながら、空高く吹き飛ばされていった。
「……え?」
「……へ?」
「……屁?」
さっきまでダドリーを応援していた観客たちが、急に静まりかえる。
「ば、馬鹿なっ……!」
そのなかにおいて、急に椅子から立ち上がる者がいた。
「う、嘘だろう……? あの動き、まさか、まさかッ……!!!」
あの剣聖リオンが、激しく動揺していた。