「……ふむ」

アルセウス救済党のひとりが、もうひとりに目配せする。

「アリオス・マクバに、力を自在に操れるようになったエムか。……さすがに分が悪いな」

「ああ。同感だ。こちらはアリオスひとりにさえ手が余るというのに」

「……仕方あるまい。さっき入党したばかりの新人(・・)を呼ぶとしようか」

構成員は、懐から漆黒の宝石――もとい影石――を取り出す。

なにかくる……!

僕が構えたのも束の間、影石は漆黒の波動を放ち始める。そしてそれがおさまった頃には、新たな人物が姿を現していた。

例によって、さっきまでこの人物の気配を感じなかった。影石の《転移能力》で呼び寄せたということか。

「やはり……あんただったか……」

そしてその人物に、僕は嫌というほど見覚えがあった。

さっきダドリーが乱入してきた時点で、なんとなくそんな予感はしていたけれど。

仮にも自分の父親が――テロ組織に身を置いているなんて、思いたくもなかったんだ。

「……久々だな。アリオスよ」

リオン・マクバ。

僕の父にして、かつて剣聖と呼ばれていた男だ。

「……ふ、その様子だと、私が入党していることを察していたようだな」

「確証まではなかったけどね。……でも、可能性は高いと思っていた」

レイファー第一王子に見切りをつけられ、リオンとダドリーは完全に道を失った。

マクバ家の資産は莫大だ。

王族との関係が切れたからといって、それだけで路頭に迷うことはない。

だけど。

あのリオン・マクバは、対面を必要以上に気にする男だ。

だから、耐えられなかったんだろうな。世間からの冷たい目線に。

王都から逃げて、世間からも逃げて……行き着く先は、テロ組織だったということか。

言うまでもなく、剣の実力だけは世界最強クラス。アルセウス救済党にとっても、彼の入党は願ったり叶ったりだったんだろう。

剣聖から一転してテロ組織の構成員。

すさまじい転落っぷりだ。

「あんた……ダドリーはどうした。ずっと一緒だったんじゃないのかよ」

「ああ。あの恩知らずか」

リオンは腕を組むなり、大きく息を吐いた。

「あいつとは袂(たもと)を分かった。あろうことか、アルセウス救済党への入党を拒否したのでな」

「拒否……」

「ああ。外部に頼らずとも、自分の力だけで強くなりたいと言い出しおってな。……あいつも、おまえとの決闘を経て、だいぶ生意気になってしまったようだ」

「……あんたは……」

僕を追放し。

それだけに飽きたらず、今度はダドリーまで追い出したか。

あのダドリーに同情する気にはなれないが……このクズっぷり、変わってないな。とことん突き抜けている。

「そういえば……アリオスよ。実家を抜けてから、おまえとはまともに戦ったことがなかったな」

リオンはニヤリと笑うと、鞘から剣を抜く。

その剣は――かつて剣聖が握っていたものとはまるで別物だった。

黒と紅が禍々しく混ざり合った刀身、柄の部分には大きな眼球と思わしき物体がひとつ。しかも影石と同様、ほのかに漆黒の波動を放っている。

「影石から授かった剣でな。その名も魔剣アングダス。使用者のステータス大幅アップと、闇属性の魔法がすべて使用できるようになる」

「…………」

漆黒の霊気に包まれ、明らかに闇の雰囲気を放つリオンに。

僕はこみ上げるなにかを押し殺し、改めて戦闘の構えを取った。

「さあ、かかってくるがいいアリオスよ! おまえを殺し、アルセウス救済党としての名をあげてやるわ!」

「アリオス様! 私はあっちの構成員を相手します! ……どうか、どうかご武運を!」

「ああ。互いに乗り越えよう……!」

これは、ある意味で本当の縁切りか……

僕は改めて元剣聖と対峙し、気合いを込めるのだった。