「心配したんだから〜」

 アオイはジャジャを受け取ると、その慎ましい胸にジャジャの頭を押し付けて、グリグリと頬擦りをした。

「キャッ、キャッ」

 何を勘違いしてるのか、ジャジャは嬉しそうに身をよじる。

「よかったぁ〜」

「に、兄ちゃん」

 安堵の涙を浮かべるアオイの隣で、翔平が俯いている。

「ゴメン……僕がスマホなんて見てないでちゃんとジャジャの相手をしてたら」

「もういいよ。怪我も無いんだ。次から次から」

 左手で翔平の頭をを撫でる。

 責任感が強い翔平にとって、今回の事は重くのしかかる筈だ。

「これからもっと色んな事が起こるかも知れないんだ。いちいち気を落としてたら、なんも出来ないぞ。同じ事しなきゃ良いんだし、もっと気をつければいいって分かったんだから良しとしよう」

「で、でも」

 やはり、翔平は納得しない。

 このお利口さんめ。

 本当ならこの程度で終わらしてはいけないのかも知れないが、いかんせん俺は新米パパである。

 偉そうな事言えない。

「つか、アオイ」

「はい」

 ジャジャと戯れてたアオイが、顔を上げる。

「飛ぶなら、飛ぶって言ってくれよ……」

 びっくりしたんだからな!

「そんな!だって!私だってこんな早く飛べるようになるなんて思わなかったんですよぅ!」

「え?」

「母さんが昔、私は大体1歳ぐらいから飛び始めたって言ってたから、考えても居なかったんです……」

 じゃあ、ジャジャは龍の赤ん坊の中でも、かなり早く飛べる様になったってことか?

 そりゃあ、ハイハイも立つ事もまだ出来ないから、変だなとは思ったけど。

 何?ウチの子天才?

「な、ナナは?」

「見た限りだと、飛ぶ気配はないですね。明日、二人をおじさまに見せないと……」

 ベビーカーの中で、不思議そうな顔をしているナナ。

 お前は平和そうで何よりだよ。

 そうだ、アルバ・ジェルマンのネズ公め。

 龍の医者を名乗るなら、こういう事を注意しろぐらい言えなかったのか。

 とかなんとか責任転嫁してみても、俺たちがジャジャから目を離した事が一番悪い。反省しよう。

「ところで薫平さん。こちらの方達はどちら様ですか?」

「あ、ああ。前の学校の同級生で、まあ、小学校から一緒だから幼馴染……でいいのか?」

「なんでそこでアタシたちに聞くのさ。別に幼馴染でも構わないって」

「は、はい。三隈《みくま》 夕乃《ゆうの》です。隣がいちかちゃん。佐伯《さえき》 いちか・ニャーティです」

 肩に三つ編みで一つにまとめてるのが、三隈。

 ショートカットの無駄に元気な猫族が、佐伯。

 頭を下げて挨拶する三隈と、ふてぶてしい顔で不敵に笑うのが佐伯だ。

 昔からよく二人一緒にいて、意外と男子に人気のある二人。

 三隈は大人しく賢くて、佐伯は騒がしくて人の中心に良くいる。

 こうも性格の違う二人が、どうしてこんなに仲が良いのか不思議に思った事もある。

「へー」

 ジャジャを抱きながら三隈、佐伯と顔を見比べ、最後に三隈の顔を凝視するアオイ。

 続いてその視線は、立派に盛り上がった胸元に移り、目を細めた。

「え、えーっと」

 その視線に気づいた三隈が、困った様に微笑んだ。

「あ、申し遅れました。私はアオイノウン・ドラゴライン・風待です」

 三隈の困惑の表情を見たアオイは、深々と頭を下げて挨拶をする。

 ん?風待?

「薫平さんの、妻です」

 高威力の、爆弾を投下しやがった。