On the Way Home I Got a Bride and Twin Daughters, Who Were Dragons
Princess Nana is in a good mood, Nana. ②
「びやぁあああ!」」
「ナナー?どうしたの?」
アオイの腕の中でナナが大泣きをしている。
「おしめならさっき替えたばっかりだよ」
キッチンで皿を洗っていた翔平が、お気に入りの黄色いエプロンのすそで手を拭きながらダイニングに戻ってきた
晩御飯を済ませた後、俺達は大体ダイニングにいる。
俺はソファでジャジャと遊びながらテレビを見ていた。
明日も仕事で朝が早い親父は風呂だ。
特に決まっている訳じゃないが、親父の後に翔平、アオイ、俺の順番で風呂に入る事が多い。
双子は俺かアオイで交互に風呂に入れていて、最後に俺が風呂を洗うのが日課だ。
「お腹すいてたり?」
俺はアオイに問いかける。
アオイは俺の足元、ソファの下のカーペットに座って、ナナを遊ばせていた。
「わかんないんですよう。おっぱいならさっき済ませたんです。猫さんのぬいぐるみを渡したら急に」
「んにゃああああああ!」
小さな腕をブンブンと振り、ナナは何かを抗議してくる。
「だぁ」
俺の膝の上で親指を咥えていたジャジャが不思議そうに頭を傾けた。
「んー?」
なんとなく、ソファ脇に置いてある双子用のおもちゃ箱から、ジャジャのお気に入りである犬のぬいぐるみを取った。
手を伸ばして、ナナの顔の前で揺らしてみる。
「……う」
ピタリと動きが止まった。
やはりか。
「うー!」
満足そうに、ナナはぬいぐるみを両手で掴んだ。
俺にはなんとなく、ナナの癇癪の理由がわかる。
この一ヶ月。双子の成長が著しかった。
鼠の賢者曰く、『人間の因子が成長を促進している』との事で、どうやら幼児としてのある程度まで成長を急速化しているらしい。
もともと龍の子供は成長が早いが、ジャジャとナナはもっと早い。
普通の龍の幼児期間はほぼ人間と同じで、十歳頃から成長が遅くなるらしい。
身体が丈夫になるまでは駆け足。
丈夫になったらじっくり育つ、それが龍の子供の育ち方だ。
最近急に寝返りを打ち始め、お腹を床につけての移動などが出来るようになった。
もう少し頑張ればハイハイも行けるんじゃないかと思っている。
背中の小さな翼をパタパタと動かし、短い尻尾で地面を蹴りながら反則っぽい移動をする双子は異常に可愛い。
ほんとにかわいい。
そんな愛らしい姿に勝てるヤツなど存在しない。
親父なんて毎回機敏にスマホを構え、アングルにこだわりつつ動画を撮り溜めている。
今のヤツのスマホの容量は、ジャジャとナナと翔平で埋め尽くされているはずだ。
どっちかと言えば、ジャジャの方が成長が早い。
そういえば飛び始めたのもジャジャが最初だった。
お姉ちゃんとしての矜持《きょうじ》だろうか。
さて、問題は少しだけ成長の遅いナナだ。
何をするにもジャジャに一足及ばないナナは、ジャジャに嫉妬しているのだろう。
もちろん喋れないナナがそんなこと言った訳じゃない。これは俺の勝手な妄想なのだが、あながち間違ってはいない気がする。
朝、ジャジャが先に目覚めていたら『ナナよりはやくおきてズルイ!』と言わんばかりに泣く。
ジャジャが先に授乳を終えると『ナナよりはやくおっぱいおわってズルイ!』とアピールするかのように泣く。
お昼寝だって『ナナよりさきにおねむするのズルイ!』と眠たそうな目で泣く。
とにかくナナはジャジャと同じ事をしたがる。
お姉ちゃんが嫌いなわけじゃなく、お姉ちゃんが好きだから同じ事を同じタイミングでしたいのだろう。
二人で遊んでいると顔を真っ赤にして必死にジャジャにくっつきたがるからな。
さっきだって、自分のお気に入りの猫さんより、その少し前にジャジャが遊んでいた犬さんが欲しくて泣いていたのだ。
と、ここまで偉そうにナナの気持ちを代弁しているが、本当の事など分かるはずもない。
なにせ双子はどこからどう見ても赤ん坊。
自分の意思を本当に持ってるのかすら確かめようがない。
俺自身は、二人ともしっかり考えていると思っている。
今までそんな場面が幾つかあったからな。
「だー」
「おう、ナナに犬さん貸してやろうな?」
「んにゅ」
俺の言葉に、なんとなくジャジャが頷いた気がする。
「よかったねーナナ?お姉ちゃんが貸してくれるって」
「あー!」
アオイがナナの頭を撫でる。
珍しくナナが大きな声で笑った。
ナナ・ドラゴライン・風待はけっこうクールな子だ。
親父や俺が機嫌を取ろうとしても、『なにやってるんだろう?』と不思議そうな顔でスルーされる事はしょっちゅう。
ママっ子だからアオイに対しては良く笑うが、ふんわり口を開いて目を細める程度で、ジャジャほど大げさに笑わない。
ヘニャリと笑うナナもすんごい可愛いのだが、たまには全身で喜びを表現するナナも見てみたいもんだ。
「兄ちゃん明日の準備できてる?」
「ん、さっき鞄に詰め終わった」
エプロンを脱いだ翔平が俺の横に座った。
「楽しみですね!天気予報は晴れでしたよ!」
嬉しそうな顔でアオイが俺を見上げてくる。
「お弁当の下拵えも終わってるから、明日は夕乃お姉ちゃん達が来たらすぐに出るようにしないとね」
「佐伯と浩二も来るんだろ?」
浩二とは、小悪魔猫でお馴染みの佐伯いちかの弟だ。
翔平の同級生で幼馴染で親友、昔から仲が良く前の家にもちょくちょく遊びに来ていた。
「こうちゃん、学校うまくやってんのかな」
「あー……どうだろうな」
浩二は、俺とは違った意味でぼっちだ。
というか、翔平以外が浩二と絡んでいるところはちょっと想像できない。
ヤツは、翔平にしか御しきれない……。
俺達は明日、ピクニックに出かける。
土曜日なのでシッターのユリーさんはお休み。
いつも家の中でしか遊んでない双子に、外の空気を吸わせに行こうという算段である。
これは実は、アオイの為でもある。
双子の世話を朝から晩まで見ているアオイは、滅多に外に出れない。
ここ一ヶ月のアオイの外出は、近所の肉屋へのお使いぐらいでとても不憫だ。
俺が翔平に企画をプレゼンし、翔平がGOサインを出し、親父というスポンサーの協力を得て実現した。
本当は親父も行くはずだったのだが、職場にインフルエンザが蔓延してしまった為に急遽休日出勤を余儀なくされてしまったのだ。
南無。
じつは親父が結構楽しみにしていたのを知っている。
ヤツの代わりにチビ達と大自然の触れ合いは俺がしっかりと堪能しよう。
「楽しみだなジャジャ」
「あぅ」
お、また頷いた気がする。
ナナを見ると、犬のぬいぐるみをハムハムと咥えて涎まみれにしていた。
犬さん、今日もまた洗濯機へと旅立つのだね……。
明日は雄大な大自然で気分転換をするといいさ。
大丈夫、俺がしっかり乾かしてやるから。
なんだかんだで、俺も明日を楽しみにしているのだった。