「・・・・・・・さて、材料はこんな物かな」

僕は屋敷の厨房で用意した材料を見る。

材料は、仔牛のような姿をした魔物一頭。塩。胡椒。ニンジンもどき。玉ねぎもどき。ニンニクのような物。これで材料は全部だ。

本当にこれでいいのかと思うが、でもエリザさんがそう言うのだから、間違いではないだろう。

僕は昨日言われた事を思い出す。

『いっその事、子豚の頭の中で一番インパクトが大きい料理を作って、それで目を惹けば良いと思うわ』

『それでいいのでしょうか?』

『まずは、美味しい物を食べさせて、そして心に余裕を与えてから、魔法を教える。そうしたら、簡単に自信を取り戻すと思うわ』

『成程。そう上手くいくといいけど』

『いくように頑張りなさい。それぐらい出来るでしょう』

そう言われて、僕は頷くしかなかった。

さて、頑張りますか。

「まずは、」

市場にある肉屋に、皮を剥ぎ頭と内臓を切り取った仔牛みたいな魔物の肉を届けてくれと頼んだら、これが来た。

僕は切り開かれた腹に玉ねぎもどきとニンジンもどきを入れる。

それを裏返して、背中にナイフで刺してそこにニンニクのような物を入れる。

最後に塩と胡椒を満遍なく振る。

これで、オーブンに入れる。

一番弱い弱火に設定して、オーブンの中に入れた。

三時間じっくりと時間を掛けて焼く。

僕は焼けるまで待つ。 

*********

僕はオーブンから取り出した肉を大皿に盛った。

香りを嗅いでみたが、なかなか良い匂いをしていた。

「さてと、切り分けるか」

今回の試作はあくまで試作だ。

味付けも、使った食材も全て適当だ。

なので、試食して何を加えて作るか考える。

僕は包丁を持って肉を切り分けていく。

ジーッ。

うん? 何だろう。視線を感じる。

ジーーーッ。

視線の圧力が増した気がする。

後ろを振り向くと、この屋敷の使用人の人達が居た。

何人か口から涎を垂らしている。

「・・・・・・・・・・良かったら、食べますか」

「「「是非、お願いしますっ」」」

僕は肉を人数分に切り分けた。

食べてみると美味しいと思ったが、あくまで僕の好みであるから、他の人達は分からない。

一応、味つけについて使用人の人達に聞こうとしたら。

「「「ガルルルルルルッ‼」」」

・・・・・・・・・。

うん、僕は何も見ていない。

使用人の人達が、何かもの凄い肉の取り合いをしているように見えるのは、幻視だね。多分。

このまま取り合いの被害が増せば、厨房は大変な事になるだろう。

僕は自分の身の危険を感じて、厨房を後にした。

其の後、厨房では凄まじい戦いが起こったそうだ。エリザさんが暴れた使用人の人達を叱ったそうだ。