タカトーラル城を後にした僕達は、一路魔人族の首都『オレバーツビムア』へと向かった。

行軍の最中、小城や村が目に着いたので調べてみたら、無人であった。

「ふぅむ、敵は徹底した焦土作戦を行うつもりなのか?」

「前回の侵攻では、首都に行くまでは防備を厚くした城で時間稼ぎをさせていたが、今回はそれとは違うようだ」

行軍中、傍で話していたレオン騎士団長とアルベルト将軍との会話を耳で聞きながら、僕は敵が何を考えいるのか考える。

(最初は焦土作戦だと思っていたけど、もう補給線は伸び切っているからそこを奇襲すれば、こちらの軍も各方面軍も撤退するはずだ。なのにしないのは、どうゆう事だ? それにこっちの補給線を攻撃するなら村の住民を残しておけばそれなりにダメージになる筈だ)

某スペースオペラの英雄伝アニメでも、帝国支配下にある星の食料だけ持って行き、その星に住んでいる住民をそのまま残して、その星を占領した軍に食料を分けて貰う。そうしてから、後方の補給線を叩いて食料不足なり現地民と占領軍で諍いが起こり、しまいには暴動になった。

そこを帝国軍が占領軍と戦い占領軍は自軍の領地に撤退した。

それと同じように、村の住人をそのままにして食料だけ奪えば、こっちの軍の兵糧を分け与えないといけないので、補給線が痛手を被る。

だが、敵はそんな事をせず、寧ろ食料と共に敵の首都へと向かっている。

(敵の意図が分からないと、首都に着いても作戦が立てずらいな)

変に作戦を立てて、それが敵の想定通りであればこちらの被害は甚大だ。

なので、敵の意図を考えている。

「どうした? そんな眉間に皺を寄せて」

そう話し掛けて来たのは、ユエだった。

僕が乗っているのはグリフォンだが、ユエが乗っているのはヒポグリフだ。

この魔物はグリフォンと馬を交配する事で生まれる魔物だ。

因みにそのグリフォンは僕が乗っているグリフォンだ。

「いや、ちょっとした考え事をね」

「当ててやろうか。敵が何を考えているか分からず、どうしたら良いか考えているのだろう?」

「・・・・・・よく、分かったね」

「ふっ、小さい頃から見ているのだ。それぐらい分かる」

「そっか。ユエはどう思う?」

「ふむ。わたしには分からん。ただ」

「ただ?」

「敵は首都に戦力を集中させているのかと思えるのだ」

「? じゃないと首都が占領されるだろう?」

「別に首都を奪われても、何処かを城塞を拠点にして攻めればよかろう」

「成程。そうゆう考えもあるか」

「それに」

ユエは誰にも聞かれないように、顔を僕の方に寄せた。

「お前トロイア戦争を知っているか?」

「うん。トロイの木馬の由来になった神話だろう」

「なら、話が早い。トロイの木馬作戦でトロイアが滅んだが、その時トロイアの王族の中でアイネイアスという者が家族と民衆を連れて、都を脱出してイタリアを目指したそうだ」

「それで?」

「アイネイアスはそこで都市を築き、その子孫が代々王になった。時が巡り、アイネイアスの子孫で双子の兄弟が幾つかの冒険を経て、都市を建てた。その都市の名はローマ」

「それって、もしかして⁉」

「後にそのローマは発展して帝国と名乗った。これがローマ帝国の成り立ちだそうだ」

「・・・・・・ユエは魔人族は自分達の土地を捨てて、何処かの土地で新しく国を作るって言いたいのかい?」

「そうゆう可能性もあると言いたいだけだ」

まさかと思うが、有り得なくわないな。

でも、まだそうと決まった訳ではないから、口に出して言う事ではないな。

それからは僕達は一言も交わさず、ただ行軍し続けた。

行軍してから十日。

僕達は敵の首都から百キロ程離れた所にある平原で陣を構えていた。

ここが各方面軍を集結する合流ポイントなので、陣を構えている。

「そろそろ来てもいい頃ですけどね」

「少しの誤差はあるでしょう。それよりも、子豚」

「はい、何でしょうか?」

「ここまで行程で妨害がなかったけど、子豚はどう考えるの?」

「う~ん。分かりません」

「まったく。駄目じゃない。その頭の回転の速さが売りなのだから、訊かれたらパッと応えなさいよ」

「すいません。それに関しては、相手が何を考えているか分からないので、答える事ができません」

「そっ、じゃあ、仕方が無いわね」

エリザさんは何も言わなかった。だが、僕の右手の小指を突っついてきた。

「何か?」

「えっと、そのね」

「申し上げます!」

エリザさんが言葉を続けようとしたら、伝令らしい人が僕達の前に来た。

「何かありましたか?」

「はっ、間もなく、各方面から軍が到着するとの事です。到着次第軍議を行うと、総大将閣下からのご命令です」

「分かりました」

「では、これにて」

伝令の人が一礼して、その場を後にした。

「・・・・・・・・・・・」

エリザさんが何故か身体を震わせていた。

「あの、何かありました?」

「知らない‼」

そう言って、怒り心頭で何処かに行ってしまった。

(僕、何かしたかな?)

考えたが、何かした覚えがない。