「ふふ、改めて自己紹介を。わたしは『義死鬼八束脛』の五番隊隊長のアオイだ。よろしく」

挨拶しながらウインクするアオイさん。

「は、初めまして」

僕はちょっと距離をとりながら挨拶する。

下手に近付いたら、また何かされそうだからだ。

「ふふふ、さぁて、どう料理しようかしら?」

横に居るカーミラが何か、微笑みながら今にもと飛び掛かりそうな殺気をだしていた。

「すいません。昨日の夜に突然来ましてね。で、流石にこんなに夜遅くに訊ねたら失礼だからと思い、その日はそのまま寝たのですが、朝起きて、こいつが居る部屋に来てみると、蛻の空でして、それで昨日、若が此処で店をしている事を話した事を思い出して、慌てて来たのです」

「お疲れ様。じゃあ、これで。僕は開店準備があるので」

僕がその場を離れようとしたら。

「そんな冷たい事を言わないで欲しいな。姉様の子供なのだから、わたしも親しくなりたいのだけど」

何時の間にか、僕の背後に回り込み抱き付いてきた。

「「なぁ⁉」」

速い! 目で追えない速度を出すとは。

「ふふふ、なかなかどうして素晴らしい抱き心地だ。リウ君。どうだい? 店の準備は他の人達に任せて、これからこの都市を回らないかい? 君はこの都市に来たばかりだから、何があるか分からないだろう。わたしは何度もこの都市に来ているから、案内ぐらいなら朝飯前だよ」

「いえ、結構です」

一緒に行動したら、何か別の意味で食われそうだ。

此処は逃げるとしよう。

「まぁ、そう言わずに。取って喰う訳じゃないから」

アオイさんが僕を抱きしめたまま持ち上げて頬ずりしてきた。

「ちょっと、わたくしの婚約者に何をするつもりかしら?」

ひいぃ、カーミラの爪が伸びて、何か背後から黒い瘴気が漏れている。

「婚約者? ふむ。別に婚約者だからと言って、リウ君が何をするのに口を出して良いとは思えないのだけど」

「だからと言って、幾らリウイの母上様の部下がリウイの商売の邪魔をする権利も無いでしょう」

「ふむ。確かにそうだね。では、此処はリウ君に決めてもらおうか」

「えっ、そんなの、店の」

言葉の続きを言おうとしたら、アオイさんが指を鳴らした瞬間。

声が出なくなった。

口は動くのだけど、何故か声が出ない。

僕の言葉が続かない事に不審に思ったのか。カーミラが眉をひそめていると。

「ああ、店の準備はカーミラ達に任せるよ。僕はアオイさんと一緒にこの都市を見て回るよ」

何か、声が出てないのに、何故か僕の声が聞こえて来た!

「ちょっ、リウイ‼」

驚くカーミラ。

「ふふん。どうやら、君よりも、わたしと居る方が良いと思うようだね。ねぇ、リウ君」

笑顔で訊ねるアオイさん。

そんな事は一言も言ってないと言おうにも、声が出てこない。

そしている間に。

「うん。僕もアオイさんの事が知りたいし」

そんな事は言ってない‼

これは、もしかして声真似か? そして、僕の声が出ないのは、魔法で声が出ないようにしたようだ。

まずい。このままでは。

「そうか。そんなにわたしの事が知りたいか、では、都市の案内しながら、わたしの事を色々と教えてあげよう」

アオイさんが僕の腕を取って、外に出ようとしたら。

「ごめ~ん。寝坊しちゃったっ」

今日の店番のティナが寝坊して慌ててきたようだ。

ドアを開けて、謝りながら入る。

「・・・・・・ごめん。寝坊しちゃって、って、誰、この人?」

ティナはアオイさんを不思議そうな顔で見て、首を傾げる。

「……おお、天使(エンジェル)だ」

「「はぁ⁉」」

何を言っているの。この人?

「あたし、魔人族なんだけど?」

「素晴らしいっ。健康的に日焼けした肌。成熟していない肢体。愛らしい眼。おお、まさに天使だっ」

鼻息荒げでティナに近付くアオイさん。

「ちょっ、何よ、この人っ⁉」

「え、えっと、母さんの部下だった人かな?」

あっ、声が出た。そうだ、此処はこうしよう。

「ティナ。寝坊した事は許すから、アオイさんと一緒にこの都市を見て回って、何がこの都市に売られているか調べてきて」

「はあぁ⁉ いきなり何を」

「それは良い考えね。アルティナ。今日、初めて、貴女の事を認めてあげるわっ」

「ちょっ、話がついてこれないのだけど⁈」

「アオイさん。僕の代理としてティナを連れて。この都市を回ってくれませんか」

「ふむ。わたしとしては、リウ君も連れて都市を回りたかったが、流石に二人も連れて行けば、店も回らなくなるかもしれないからね。此処は我慢するとしよう」

変な所で良識があるな。

「では、ティナ君。僭越ながらエスコートをしてあげよう。はっはは」

「えっ、だから、話が全く分からないのだけどっ⁉」

ティナの腕を掴み、笑いながら扉の方に向かうアオイさん。

「いってらっしゃーい」

僕は手を振って見送った。

「ちょっと、帰ったら、こうなったか教えなさいよっ」

その言葉と共に、店を出たティナ。

二人が店を出て行くと、一気に静かになった。

溜め息を吐いた僕は、ダイゴクを見る。

「ねぇ、ダイゴク。あの人って」

「はい。御察しの通り、小さい子だったら、男女構わず口説く所謂タラシです」

「何というか、濃い人だったね」

「あれで、有能ですから質が悪いんですよ」

重い溜め息を吐くダイゴク。