それから五日後。
僕の下に偉い豪華な官服を着た人が来た。
「龍がこの王都に攻め込んで来るので、我らは退避いたします。リウイ様も御同行を」
有無を言わせない圧力を感じたが、僕が素直に「分かりました」と言うと、その人はホッとした顔をしだした。
恐らく、東部戦線の軍の総大将が僕の祖父だという事を知っているのだろう。
まぁ、準備は既に済ませているので、後はリリアンさん達と合流するだけどね。
持ち物と言える物は無いので、着替えなどは持たないで、身一つで部屋を出た。
着替えを持たないで出て来るので退避勧告をした人は僕を見るなり首を傾げたが、直ぐに身一つで来たから何も持っていない事を思い出して「では、わたしの後に付いて来て下さい」と言って先を歩き出した。
その後に付いて行き、少し歩くと王宮の中庭に出た。
中庭には既に重臣や騎士や兵士達が居た。
その中にリリアンさん達を見つけた。
リリアンさんが僕を見るなり頭を下げたので、僕も頭を下げる。
「では、これで」
ここまで案内してくれた人が一礼して離れて行った。
それを見送ると僕はリリアンさん達の下に行く。
「おはようございます」
「おはよう。いよいよね」
「はい」
リリアンさんが王宮を見る。
もう、此処に戻ってくるか分からないので、目に焼き付けているのだろう。
そうしていると、凄い豪華な飾りつけされた馬車がやって来た。
その馬車の周りには金ぴかの鎧を着ている騎士達が居た。
「あの鎧の所の紋章。あれは王室近衛騎士団の紋章ね」
リリアンさんがそう言うのでその金ぴかの騎士の胸元を見た。
其処には薔薇が刻まれていた。
何と言うか色々な意味で派手な騎士団はリリアンさんは衛騎士団と言ったので、その馬車に乗るのがスティードン一世か。
その馬車を見ていると、僕達の傍にも馬車が来た。
スティードン一世の馬車に比べると簡素で飾りつけもないシンプルな作りの馬車であった。
その馬車を操る御者が御者台から降りて頭を下げる。
「このような馬車しか用意できませんでした。どうか、お許しを」
「気にしなくていいわ」
リリアンさんは気にしなくても良いと手を振る。
まぁ、気にしなくても良いわな。
何せ直ぐにこの馬車から降りるのだから。
そう思っていると、角笛と思われるものから音が聞こえて来た。
「そろそろ、出発しますのでお乗りください」
御者がそう勧める所を見ると、どうやらこれは出発する合図の音の様だ。
「じゃあ、乗り込むわよ」
リリアンさんは僕と二コラさん達の顔を見て言う。
皆頷いた。
そして、僕達は馬車へと乗り込んだ。
馬車に乗り込むと直ぐに馬車が進んだ。
ゆっくりと進んでいく馬車。
王宮の外門を出て少し進み、王都の門に後少しで着くという所で、馬車が停まった。
「何事?」
リリアンさんが御者に訊ねた。
「分かりません。前の馬車が突然停まったので」
訳が分からない御者。
だが、直ぐに馬車が停まった理由が分かった。
「俺達を見捨てて、自分だけ安全な所に逃げるのかっ」
「ふざけるな!」
「この愚王がっ」
「俺達の怒りを知れ‼」
怒号が聞こえて来た。どうやら、王都で暮らしている人達が城塞に行く僕達を見て、今までの不満を込めて怒りをぶつけているようだな。
これで、逃げる準備は整った。