Ore no Ongaeshi: High Spec Murazukuri (LN)

Episode 36: The City of the Other World

ウルドの村を出発して荷馬車に揺られること数日。

オレたちはオルンの街に到着した。

「これがオルンの街並みか」

「はい、ヤマトさま。交易都市として名高いオルンです」

街外壁の城門で手続きを終えてから、オレたちウルドの荷馬車隊は街の中に入っていく。

御者台の隣に座る少女リーシャから、大通りを進みながらのオルンの説明を聞く。

「大きな街の部類なのか、ここは?」

「はい、大陸北部でも有数の都市の一つです」

三つの街道が交差するここオルンは、交易で栄えてきた都市国家だ。王制ではなく、世襲制で太守が街を治めている。

ウルドからは一番近い都市ということもあり、村長の孫娘であるリーシャはオルンを何度も訪れたことがあるという。

街内でのことは彼女に任せておくことにする。

「まずは馬屋付きの宿に向かいましょう、ヤマトさま」

「村長の推薦状が効く常宿か」

「はい、あそこなら面倒な手続きが不要です」

街の大通りを荷馬車で進みながら、オレたちは一件の安宿に向かう。

出発前の村長の話では、そこは昔からウルドの民がこの街を訪れた時に滞在していた宿だという。

北方の異民族であるウルドの民にも親切な主人が経営しているのだ。

その宿で宿泊の手続きをしてから、オルンの街の中心街にある大広場の市場(バザール)に向かう予定だ。

目的は荷馬車に積んである村の特産を売ることであり、オレの市場調査も兼ねている。

「よし。では行くぞ」

「はい、ヤマト兄(あに)さま!」

「うん、ヤマト兄ちゃん」

ウルドとハン族の子どもたちは、長旅の疲れも全くない。

相変わらず元気な子供たちと共に、まずは宿を目指すのであった。

常宿で無事に手続きをしてから、オレたちはオルンの街の大広場にやって来た。

「ここがオルンの市場(バザール)か」

「はい、場所代を払えば、誰でも売買ができる自由市です」

「なるほどな」

オルンの市場(バザール)は活気に満ちていた。

広場の各地には所狭しと個人店が敷かれ、さまざま商品が並べられている。

南方の珍しい果物や東方の光沢のある布地。珍しい陶器や雑貨が高く積まれ、元気な売り子の声と共に賑わっている。

「私たちの今日の売り場はここです、ヤマトさま」

「ずいぶんと広場の端(はし)だな」

「到着の時間が遅かったので、明日はもう少しいい場所を狙います」

「ああ」

やはり売れる場所は人気があるのであろう。

今日のところは他の売り手と同じように、荷馬車ごと市場(バザール)に横付けして準備する。

引き馬は近くの馬屋に預け、敷き布を広げウルドの特産の商品を並べていく。

「商品を並べてあとは頼む、リーシャさん。少し視察をしてくる」

「はい、ヤマトさま。あとはお任せください」

商品準備や接客物販の方はリーシャや子供たちに任せておく。オレは人付き合いが得意ではない。

彼女たちに任せておくのが賢明な判断だろう。

(さて、どんなものか……) 

オレは一人で広場の市場調査に向かう。

なにしろ現代日本から転移してきたオレは、この世界の政治・経済の状況を知らない。

実際に自分の目で、市場(バザール)や異世界の街の様子を確認する。

異世界であるオルンの街と市場(バザール)を散策する。

「まさに中世風な文明度だな」

街の様子を視察しながら一人つぶやく。もちろん誰にも聞かれないように声を抑えて発している。

"中世ヨーロッパ風な世界”

オルンの街は地球のそんな文明に似ているところがある。

石造りやカラフルな塗り壁の建物が建ち並び、待ち行く人の衣類や並んでいる食材も洋風なものが多い。

リーシャの話では大陸の北部はこの様な雰囲気だという。

「売買は統一硬貨による貨幣経済。言語は大陸共通語で統一か」

村長の話では、大陸の通貨や言語はずっと昔から統一されているという。。

これは古代に大陸全土を統一した“超帝国”の時代の名残だという。

超帝国の支配者層は特殊な能力(ちから)を持った民族で、圧倒的な武力で大陸を支配していた。

言語や宗教・通貨・単位などを全て強制的に共通化。

超帝国の時代が長年に渡っために、今でも共通化がされているという。

「人種は本当にさまざまだな。だが“亜人”は、いなそうだな……」

オルンは交易都市という事もあり、さまざま肌や髪の色・顔立ちの人種が行き交っている。

だが属に言う"亜人”……獣や爬虫類などの混合人種は、今のところは見ていない。

ガトンたち山穴族も人とは違う人種。だが見た目は人族と似ており親しみやすい

「それにしても……並んでいる商品は随分と品質が低いな」

これは市場(バザール)に並んでいる商品に対する、オレの正直な感想だ。

具体的にはウルドの村の民芸・加工品に比べて、明らかに素材や作りのレベルが低い。

「『ウルドの民の技術は優れている』……なるほど、このことか」

リーシャや老鍛冶師ガトンの話では、ウルドの村の加工・工芸品は昔から街では高値で取引されていたという。

革製品や生地織物・鉄製品や毛皮などは行商人たちにも人気があったという。

「なるほど……これは交易のチャンスだな」

市場(バザール)を見て回ってオレはオルンの街の経済状況を把握した。

想像以上にウルドの価値(ブランド)は高い。

辺境にあり文明度が低いと思っていたウルドの品が、実は高品質で希少価値がありは売り物になるのだ。

それを踏まえて交易の再開により、今後の村の暮らしは良くなっていくと確信がもてた。

「よし……そろそろ、みんなの所に戻るとするか」

大まかな市場調査も終わり、ウルドの商品が売られている場所まで戻ることにする。

開店したから時間が経っているので、売れ行きも気になるところだ

(……ん?)

だが何やら様子がおかしい。

ウルド商店の前には人だかりができ、何やら騒がしいのだ。

「ヤマトさま、お助けください!」

少女リーシャが戻ってきたオレの助けを求めてくる。

オレが離れている間に、村の子供たちが何かのトラブルに巻き込まれていたのであった。