Ore no Ongaeshi: High Spec Murazukuri (LN)

Episode 78: Knights and Spiritual Beasts

三体の霊獣に止めを刺したオレは、リーンハルトたちの援護に向かう。

残り二体の狼型の霊獣と、三人の騎士たちの戦いの場。

対霊獣戦に慣れていない彼らを、手助けする必要があると判断したのだ。

「オレ様たちの獲物だ! 手出し無用だぜ、ウルドのヤマト!」

だが駆け付けたオレの援護は、大剣使いバレスの雄叫びのような声で制される。

満身創痍(まんしんそうい)なバレスであるが、野獣のような雄たけびと共に霊獣に斬りかかっていた。

「ここで貴君の助けは借りぬ! ヤマトよ!」

大盾で霊獣の猛攻を防いでいる騎士リーンハルトも同様だった。

オルンの騎士の誇りにかけて霊獣を打ち倒すと宣言する。

「そういう訳じゃ、ヤマト。妾(わらわ)の力を、そこで見ているがよい!」

そして赤髪の乙女騎士(ヴァルキリー・ナイト)シルドリアも、口元に不敵な笑みをうかべていた。

剣舞のような自分の美しい剣技を見ておれと言い放つ。

これにより二国三人の騎士の意見は満場一致だ。

「ヤマトのダンナ……ヤバイっすよ。早く助けに入りましょう!」

そんな中、オレの後ろにいた遊び人ラックは、明らかに苦戦している三人の助太刀をするように助言してくる。

パッと見の戦況はリーンハルトたちが、霊獣に押されていた。

人物の目利きの才をもつラックから見ても、戦況は思わしくなく見えるのであろう。

「助太刀は無用だ」

だがオレは助け無用であると言い放つ。

自分の構えていた武器をすべて収納して、三人の激戦を見守ることにする。

「でも、このままならヤバイっすよ!?」

ラックが心配するように、客観的に戦況は思わしくない。

満身創痍(まんしんそうい)であり魔剣の力をすべて使い切ったバレス。

帝都に傭兵の変装してきたために、オルン近衛騎士の正式で強力な武具を身につけていないリーンハルト。

そして天賦(てんぶ)の剣の才を持ちながらも、まだ少女であるために体格で不利があるシルドリア。

そんなベストコンディションでない彼らに対して、相手の霊獣は無限のスタミナと精神力を有しているのだ。

ラックの言う通り明らかに状況は不利である。

「確かにラックの見立ては正しい。現時点では三人は霊獣に勝てない」

「そ、それなら……」

「だが苦境は時に人を大きく成長させる」

確かに霊獣の圧倒的な攻撃により、三人は体力どんどんを削られたいる。

だが、それと同時に精神は研ぎ澄まされ、身体と剣筋は鋭くなっていた。

恐らくは霊獣との激戦を通して、潜在的な武の才能が覚醒していってるのだ。

「そっすか……ダンナなそう言うのなら、オレっちも従うっす」

恐ろしい霊獣の前にして興奮していたラックも、オレの言葉に従い三人の戦いを見守る。

(勝て……)

ラックの隣で見守りながら、オレは心の中で三人の騎士にエールを送るのであった。

永劫かと思われた激戦に、ついに幕が下りる時がきた。

三人の騎士が二体の霊獣に打ち勝ったのだ。

「ちっ、手こずったな」

「仕方があるまい、バレスよ。だが次はこうはいかぬ」

霊獣に止めを刺した大剣使いバレスは、自分の不甲斐なさに悪態をつく。

そして、もう一体に止めを刺した少女シルドリアは、戦いの中で掴んだ自分の進化の手ごたえに笑みうかべる。

「シルドリアの姫さん……それ以上腕を上げて、更に嫁の貰い手が無くなるぜい」

「妾(わらわ)を娶(めと)るには、『霊獣を退治した資格が必要』と今度から明記しておくのじゃ」

帝国の二人の騎士はそんな冗談を言い合いながらも、止めを刺した霊獣の死骸を確認している。

霊獣は既に肢体を斬り裂かれ、弱点である腹部の“核(コア)”を切断されていた。

だが人外の存在である霊獣に、生物の常識は通用しない。

オレの教えていた霊獣の全身風化が始まるまで、警戒は解いていなかった。

「騎士リーンハルトよ、流石は名高い《十剣(テン・ソード)》の一人じゃ」

「称号はあくまでも他人の決めたものだ」

「ふむ、謙虚な。お主が防いでくれなければ、もっと苦戦していたであろう。帝都に戻ったら褒美を取らせよう」

「オルンの誇りのために身を挺していただけ。霊獣退治の名誉はいらない」

圧倒的な騎士盾術を持つリーンハルトを、帝国の少女シルドリアは褒めている。

攻撃が主体である帝国剣術と一線を画す、リーンハルトの見事な盾術に興味を引かれていた。

「謙虚な優男(やさおとこ)は女にモテんぞ、リーンハルト。素直に手柄は貰っておけ!」

「なんだと……女性に!? なら仕方があるまい」

野獣のような大剣使いバレスも、リーンハルトの武を認めていた。

外見や性格が正反対である二人だが、霊獣との死線をくぐり抜けて何か共感できる部分があったのであろう。

霊獣の猛攻の前に、リーンハルトが持つ複合装甲(コンポジット・アーマー)大盾は半分以上破損していた。

それにもかかわらず死を恐れず霊獣に挑んでいたオルンの騎士の勇気と武勇を、蛮勇なバレスも認めているのであろう。

とにかく僅差ではあったがオレが見込んだ通り、三人の騎士は霊獣に打ち勝ったのだ。

「それにしてもヤマトよ……オヌシがまさか、そこまでの武勇を誇るとはな……」

ようやく風化し始めてた二体の霊獣から、シルドリアはこちらに顔を向けてくる。

その視線の先にはオレが打ち倒し、すでに風化している三体の霊獣の死骸あった。

「ふん。ウルドのヤマトか……“山犬(やまいぬ)団”のヤマトと互角か、それ以上といったところか」

大剣使いバレスもこちらに視線を向けてくる。

数か月前に実際に手合わせをした、謎の覆面腕利き戦士と見比べていた。

“山犬(やまいぬ)団のヤマト”の正体はオレなのだが、完璧な変装をしていたために別人物だとバレスは勘違いしているのだ。

帝国の騎士たちが驚愕するのも無理はない。

何しろ彼らが三人がかりで倒した霊獣より多い〝三体”もの霊獣を、オレは瞬殺していたからだ。

「大したことではない。オレは対霊獣用の色々と準備をしていた」

この言葉は本当である。

前回の岩塩鉱山の霊獣との激戦を経て、オレは様々な対策をしていた。

まずは霊獣の傀儡(くぐつ)効果がある“呪い”を防ぐ“核(コア)の護符”を開発し、この場にいる全員に持たせている。

これにより数名ではあるが、同時に霊獣に立ち向かうことができた。

また“火石神の怒り”と呼ばれる山穴族の秘石から作り出した炸裂弾も用意して使用した。

効果をだすために超接近する必要があり使い手を選ぶ武器だが、獣型の霊獣には効果抜群である。

「お前たちも今回の霊獣の動きを覚えておけ。次回に役立つ」

三人の騎士に今回の経験を焼き付けておくように、オレはアドバイスする。

なぜならばこれが一番の重要な対策。 

この対霊獣戦闘のシュミレーショを、オレはずっと欠かさずに鍛錬して結果をだしたのだ。

オレは前回の岩塩鉱山の霊獣の動きを全て脳内に焼き付け、村で自己鍛錬してきた。

霊獣の強さも何段階も想定してイメージして戦う、自分独自の武道の鍛錬方法。

この成果もあり三体の霊獣の同時攻撃に対して、オレは咄嗟の判断で反撃して撃退できたのだ。

「いやー、それにしても皆さん凄い強いっすね! あとはそれじゃ、こんな物騒な所は急いで離れましょう」

すべてが終わったのを確認してから、遊び人ラックが声をかけてくる。

危険であった五体の霊獣は打ち倒したので、小塔の中に避難している帝国の調査団と共に遺跡を離れようと提案してくる。

「ああ、そうじゃのう。バレスの阿呆を帝都に連れて帰らないと、兄上に面目が立たんのじゃ」

「ちっ、調査任務の途中だが仕方がねえな」

ラックの意見に、帝国の両騎士もしぶしぶ賛同する。

本来なら古代遺跡の調査で結果も出したいが、いつまた霊獣が降臨するとも限らない。

とにかく樹海を離れて帝都に戻り、みんなの怪我の治療を急ぎする必要もある。

風化してきた五体の霊獣から、破壊した“核(コア)”を収集しておく。

こうしてオレたちは遺跡を急ぎ離脱することにした。

「……!?」

だが、その時であった。

言葉にできない嫌な視線を感じたオレは、周囲に目を向ける。

視線の先には誰もない薄暗い樹海が広がっていた。

「ダンナ……どうしたんすか?」

「どうしたのじゃ、ヤマトよ」

オレの突然の反応に、他の四人も周囲を警戒する。

だが腕利きであり勘が鋭い彼らですら、その些細な視線を感じられずにいた。

(気のせいか? ……いや、確かに何ががいる……この嫌な気配は……なんだ……)

そんな中でオレ一人だけその視線を感じていた。

警戒を解かず、両目を閉じで意識と全神経に集中する。

視覚や聴覚に頼るのではなく、見えない何かを直感で掴みとるために視線の先を探る。

「……そこか」

オレは嫌悪感の居場所を突き止めた。

その言葉と同時に、腰のホルスターに固定していた弩(クロスボウ)を抜き狙撃する。

周りの四人はもちろん、相手に反応すらさせない予備動作の全くない射撃術だ。

「どうした、ヤマト!? いきなり!?」

「待ちな……オルンの優男……あれを見な」

「なんじゃと……矢が……」

オレに奇行に騎士たちは驚く。

だが次の瞬間に起こった更なる奇怪な現象を目にして、言葉を失っていた。

(まさか矢を止めるとはな……)

騎士たちが言葉を失うもの無理はない。

なにしろ矢は目標物に到達することなく、空中でピタリと静止していたのだ。

初速数百キロの破壊力を誇る弩(クロスボウ)の矢の運動エネルギーを、音も無く一気に無にされたのだ。

物理法則を無視したあり得ない現象であった。

『まさかボクの存在に気がつくとはね……』

突然、声が響きわたる。

誰もいないはずの空間に声だけが出現したのだ。

『それにボクの召喚した黒狼(フレキ)級を、五体も倒すなんてね……』

そして声の主が静かに姿を表す。

この者が嫌悪の視線の正体であり、矢を空中で止めた主(あるじ)なのであろう。

(人か……いや……何者だ……この少年は……)

明らかに人とは別次元の気配(オーラ)を発する存在。

この異世界に転移してからはじめて、オレは〝恐怖”を感じていた。