Ore no Ongaeshi: High Spec Murazukuri (LN)

Episode 144: The Village of Nanban

オレたちは南蛮族の村に立ち寄ることになった。

「ここが私たちのタクスの村だ」

レイランの案内で、ウルド荷馬車隊は南蛮族の村にやってきた。

「大きな村だな」

「ここは樹海東部でも最大の村だ、ヤマト」

タクスは樹海が開けた場所にある大きな村であった。

規模はウルドの数倍はあるであろうか。村の周囲は頑丈な木の柵で囲われている。

「ここは砦としての機能もある。霊獣が現れても大丈夫だ」

レイランの案内で村の中を進んでいく。

そんな中、荷馬車隊に村人たちの注目が集まる。

外の世界からの来訪者に対する奇異の視線。

その中には敵意の視線も含まれていた。

「聞け、皆の者よ! この者たちは北のウルド村のヤマトたち。私の命の恩人だ。丁重にもてなせ!」

「レイランさまの命の恩人⁉ はっ! 了解しました!」

そんな村人たちを、レイランの一声で態度を改める。

オレたちを出迎えるために準備を始めていく。

「たいした統率力だな、レイラン」

「我ら南蛮の部族は義理を重んじる」

レイランは柔らかい表情で答えてくる。

最初の印象では美しいが、どこか近寄り難い女戦士であった。

だが今は年頃の少女に相応しい表情であった。

そんな彼女の案内でタクスの村を進んでいく。

「着いたぞ、ヤマト。村にいる間はこの館を使ってくれ」

たどり着いたのは村外れにある建物であった。

質素な造りだが広さは十分にある。これなら荷馬車隊の全員が寝泊まり可能であろう。

「南海諸島に行くには、この先の大河を舟で渡る必要がある。準備まで二日待ってくれ」

レイランが南海諸島まで、最短ルートで案内くれることになった。

これは命を助けてもらったお礼だという。

先ほどの彼女の言葉にあったとおり、南蛮の者はかなり義理に厚い民である。

「そうか、レイラン。ここまでの対応、感謝する」

「な、なにを急に改まっているんだ、ヤマト⁉ だが“感謝”か……悪くない言葉だな」

レイランは顔を赤くして言葉に詰まっていた。

もしかしたら“感謝”という言葉は、南蛮部族はあまり使わないのかもしれない。

彼女は嬉しそうに何度も呟いている。

「ねえ、みんな! あれを見て!」

その時、荷馬車隊の子どもから声があがる。

寝泊まりする建物の向こう側に、何かを発見したようである。

「なに、あれ……凄いよ!」

「本当だ! 大きくて、大きい湖だ!」

すぐさま他の子どもたちにも伝わり、大きな歓声へと広がっていく。

どうやら村の奥に海を発見したようである。

海を見たことのない子どもたちは、その光景に大興奮していた。

「あれは湖ではない。海だ」

「なるほど、ヤマト兄ちゃん……あれが噂の海なんだね!」

「青くて緑でキレイな色!」

「それに砂が白いよ!」

村の奥に広がっていたのは美しい海であった。

人の手の入っていない天然の砂浜は、白く輝いている。

まるで絵葉書のように美しいエメラルドグリーンの海が、どこまでも広がっていた。

「ねえ、レイランお姉ちゃん。この海は泳げるの?」

「ああ。村の周りなら大丈夫だぞ」

村の砂浜は危険が無く、村人たちもいつも水浴びをしてという。

レイランのその話を聞き、子どもたちがピクリと反応する。

「ねえ、ヤマト兄ちゃん……?」

「ああ。ほどほどにだぞ」

「やったー!」

「よし、みんな海まで競争だ!」

「ねえ、置いていかないでよー!」

オレの許可を聞いた瞬間、子どもたちは砂浜まで一気に駆け出す。

走りながら服を脱いで、そのまま海に次々と飛び込んでいく。

「見て、ヤマト兄ちゃん! カラフルな魚がいっぱいいるよ!」

「水が透き通っていて、遠くまで見えるね!」

下着のまま海に飛び込んだ子どもたちは興奮していた。初めて見る熱帯魚や珊瑚礁。その美しさに目を輝かせている。

子どもたちの賑やかな遊び声が砂浜に響いていく。

「どこの部族でも子どもは元気なのだな」

「そうだな、レイラン」

オレはあえて子どもたちを自由に遊ばせていた。

南方樹海に入ってからは、緊張の連続の日々であった。そんな中で不平不満も言わずに頑張っていた子どもたち。

それに対するご褒美といったところだ。

「くらえ、必殺の水鉄砲!」

「ねえ、僕にも貸してよー」

「次はこっちの舟のおもちゃで遊ぼうよ!」

子どもたちは水遊びのおもちゃで、更に盛り上がる。

オレとガトンがウルド村で作ってやった、子ども用のおもちゃ。いつの間にか荷馬車に積み込んでいたのであろう。

「レイランさま……あの子たちは?」

そんな時である。

南蛮族の子どもたちが集まってきた。

「あの道具はなんだろう……?」

「すごく……楽しそう……」

砂浜で遊んでいるウルドの子どもたち。その楽しそうな声に釣られて、彼らは集まってきたのである。

「おもちゃは、まだ沢山あるぞ」

「えっ……いいの?」

「ああ。これは、こう使う」

「なるほど!」

「ありがとう! 外界のお兄ちゃん!」

オレは水遊びのおもちゃを説明して、貸し出す。

南蛮族の子どもたちは満面の笑みで、砂浜に駆けていく。

「あれ、君たちは? 僕たちは北のウルド村から来たんだよ!」

「ねえ、一緒に遊ぼうよ!」

「そうだね! よし、泳ぎで競争しようぜ!」

両部族の子どもたち一瞬で打ち解けていた。

エメラルドグリーンの海ではしゃぎながら遊びだす。純真無垢な彼らにとって、部族の違いなど関係ないのであろう。

元気な子どもたちの笑い声が響き渡り、タクスの村の空気を和やかにする。

「さて、リーシャさん。オレたちは夕食の準備をするか」

「そうですね、ヤマトさま」

子どもたちが遊んでいる間に、大人たちで荷馬車から荷物を降ろす。

夕食は保存食の在庫があったはずだ。

「待て、ヤマト。今宵は村で歓迎の宴をやる。ぜひ参加してくれ」

「宴だと? それならレイランの好意に甘えよう」

レイランの誘いを受けることにした。

あの様子だと、子どもたちも問題ないであろう。

むしろ南蛮部族の料理に、大喜びする光景が目に浮かぶ。

「もちろん料理だけではなく、村自慢の酒も出そう」

「ふん。酒か。楽しみだのう」

「そうっすね! この村はキレイな女性も多いので、楽しみっすね!」

レイランの言葉に、ガトンたち大人も顔を緩める。

こうしてオレたちは南蛮族の宴に招かれるのであった。