ゴージャスマートは、新たなるキャンペーンの開催を告知した。
スラムドッグマートのキャンペーンに、カウンターを喰らわせる形となったそれは、なんと……!
『ゼピュロス様と行く、不死王の国』キャンペーン
ご好評につき、キャンペーン第2弾! いま新製品の『キッシング』シリーズの装備をお買い上げになると、1点につき抽選券を1枚差し上げます。
特賞:ゼピュロス様に付き従える、不死王の国ツアー(30名様)
1等:ゼピュロス様からのウインク(1,000名様)※1
2等:ゼピュロス様の手形入り直筆サイン(10,000名様)
3等:ゼピュロス様のスペシャルライヴ(100,000名様)※2
残念賞:ゼピュロス男子とのディープキス(1,000,000名様)
前回のキャンペーンから、当選者数を10倍に増やしました!
この機会に是非、『キッシング』装備をお買い求めください!
※1 ゼピュロス様の判断により、『瞬(まばた)き』になる場合があります。
※2 ハールバリー小国『グレープパレス』での開催となります。
……完全なる、丸パクリ(リップ・オフ)っ……!
しかし後出しではあったものの、そのインパクトは超絶であった。
なにせ規模は10倍。
そのうえ最近はアイドル活動ばかりだったライドボーイ・ゼピュロスが、『不死王の国』という地下迷宮(ダンジョン)に出かける……!
『不死王の国』といえば、彼の弟分であるアイドルグループ『ライトボーイズ』が消息を絶った地でもある。
先輩であるゼピュロスがそこに乗り込むというのは、仇討ちに向かうも同然……!
話題にならないわけがない……!
これは、新聞各紙の片隅にあった『オヤジの最果て支店生活』を消し飛ばしてしまうほどのビッグニュースになった。
そして、アルカトラズのように奪還される……!
スラムドッグマートの女性客たちが、軒並み……!
無理もない。
あの力天(りきてん)級の戦勇者(せんゆうしゃ)である、ライドボーイ・ゼピュロスに従えられて、冒険ができるのだ。
これは少女たちにとって、千載一遇のハーレム入りチャンス。
いま風に言うなら、『ハー活』チャンスであろうか。
彼女たちは米騒動のように、血眼になってゴージャスマートに押しかけた。
そしてとうとう全財産を投げ打ち、それどころか借金までして、キャンペーン対象商品を爆買いしたのだ。
スラムドッグマートの売り場は、再び閑古鳥(クックー・バード)に……!
嗚呼、栄枯盛衰……!
奢れる者、久しからずや……!
プリムラをはじめとする店員たちは、みんな真っ青になった。
彼らはなんとか客を呼び戻そうと、右往左往しはじめる。
しかしオッサンは、顔色ひとつ変えなかった。
そして彼らに向かって、こんな指示を出す。
「全店の買い取りカウンターを、一時的に増設します。同時に、中古装備の買い取りもはじめてください」
スラムドッグマート各店にある買い取りカウンターを、会計カウンターを削ってまで増やした。
そのうえ、今までは素材のみだった買い取り対象を、中古の装備にまで拡大したのだ。
オッサンはかつて、ジェノサイドファング扮する骨董商に向かってこう言っていた。
「お客様からの希望もありまして、スラムドッグマートでも中古品の扱いを検討しているところでした。ですが、骨董品の扱いは予定にありません。鑑定が難しいためです」
今回それを、解禁したというわけだ。
しかしオッサンが狙っていたのは、歴史の荒波にもまれ、価値を高めていった伝説の武器などではない。
おそらくは先週くらいに誕生し、昨日くらいに店先に並び……つい今しがた買われていったもの……。
そう……!
キャンペーンで無駄に買われてしまった、『ゴージャスマート』の装備を狙っていたのだ……!
握手券を抜いたCDというのは、二束三文以下……カラスよけにぶら下げるくらいの価値しかない。
その多くが、燃えないゴミとして破棄される。
しかし装備品はそんなことはない。
しかも既製品(プレタポルテ)とはいえ、良い素材を使っているブランド品なら、なおさら……!
ここに、世にも不思議なループが誕生する。
女性客たちは朝いちばんからゴージャスマートに並び、バーゲン会場で奪い合うようにして装備を購入。
そして抽選券を抜き取ったあと、そのままスラムドッグマートへと走る。
つい数分前に買ったばかりの装備をスラムドッグマートですべて売り払い、その金を握りしめて、ふたたびゴージャスマートへ……!
その様は、地獄の亡者さながらであった。
彼女たちは、ゼピュロスという名のお釈迦様が垂らす一本の細い糸を、必死になって求めたのだ。
まるで自分だけが、人間に生まれ変われればいいと、いわんばかりに……。
ゴージャスマートとスラムドッグマートという、輪廻の渦を、グルグル、グルグルと……!
もちろんオッサンにとって、これは本意ではなかった。
しかし狼としての彼はずっと、したたかだったのだ。
ライバル店の装備とはいえ、良質の材質……。
燃えないゴミになるのであれば、自分がもらっていくと……!
三途の河原にいたのは、装備という名の石を積み上げる女性たち。
そしてもっと買えとせき立てる、ゼピュロスという名の鬼。
その様子を眺め、積み上がった頃に、すべてをかすめ取っていくのは……。
川のほとりにいる、懸衣翁(けんえおう)のオッサン……!
だがそれすらも、彼の仮の姿でしかないのだ。
しかして、その正体とは……!?
そう……!
川を渡った先におすわす獄天、閻魔大王……!
しかし鬼たちは、まだ知らない。
いまリングで、再び追い詰めたと思っていた相手が、閻王だということに……!
なおもクールな表情で、猛ラッシュを繰り広げるジェノサイドロアー。
セコンドであるゼピュロスは、勝利を確信したのかもはや試合を見てすらいない。
詰めかけた女性客の声援に対して、優雅に手を振り返すばかり……。
しかし……! しかしであるっ……!
これこそが、オッサンの狙い……!
挑戦者であるオッサンが、チャンピオンめがけて放った新必殺パンチ《あたらしいキャンペーン》……。
その正体は、トリプルクロスカウンターという、超高等テクニック。
『ゼピュロス様とキッス』へのカウンターとして、『マザー&ビッグバン・ラヴと行く、不死王の国』というパンチを放ち……。
さらに相手が『ゼピュロス様と行く、不死王の国』というダブルクロスカウンターを放ってくるのを、誘ったものだったのだ……!
そう……!
これはあの(●●)ゼピュロスを、『不死王の国』へと追いやるための……。
完全なる、陽動作戦(ダイバージェンス)っ……!!
しかもそのフィニッシュとなる一撃は、対戦相手であるジェノサイドロアーだけでなく、セコンドのゼピュロスまでもを……!
マウスピースとともに、天高く舞い上がらせるための、恐るべきアッパーカット……!
しかも……しかもである。
その拳を放つのは、オッサンではないのだ……!
それは誰かというと……。
なななっ、なんと……!