第10番隊の隊員たちのあいだで突如として始まった、『帰りの会』。
議題は『防毒マスクについて』。
論議は紛糾したが、結局は『マスクを外す』側が勝利し、その場にいる隊員20名全員で、一斉にマスクを外すことになった。
反対派が『自分だけは外さない』という行動に出ればよいのでは、と思われるかもしれないが、そういうわけにはいかない。
もし拒否などすれば、吊し上げの口実を与えてしまい……。
「コイツは10番隊のみんなで決定したことを守らない、悪いヤツだ! ひとりのスタンドプレーが隊全体に悪影響を及ぼす! 猛省を促すため、この任務が終わるまで縛り上げておくんだ!」
そんなことになってしまっては、このデス・ゲームに脱落したも同然となってしまうからだ。
そのため、反対派も外さざるを得ない状況にあるのだが……。
さらなる問題が持ち上がる。
誰がいちばん最初に、マスクを外すのか……!?
そう……!
隊員たちは全員、警戒していたのだ……!
『毒ガスの散布』を……!
第10番隊が撒いていた毒ガスは紫色をしているので、今そこに散布されているか目視しやすい。
しかし無色の毒ガスというのも、この世には存在する。
もしそれが、プレゼントの中にあった場合……。
撒くのはタイミングは、いつが最適だろうか……?
そう、今っ……!
19匹もの獲物を一網打尽にできる、この『帰りの会』……!
自分だけマスクを外しておいて息を止めておけば、数秒後には……。
ゴキブリの巣を燻製にしたかのような、死体の山ができあがる……!
それから『帰りの会』はさらに続いた。
もう誰も、本来の任務である野良犬のことなど気にも止めず、口角泡を飛ばす激論を繰り広げた。
その議題は……。
誰を鉱山のカナリアにするのか……!?
本件は、マスクを外そうと言い出した12(ワインツー)が槍玉に挙げられてしまう。
言い出しっぺなのだから、お前が外せと……!
12は抵抗したのだが、いよいよ裏切り者の烙印を押されかけたところで、やむなく従う。
結果は、セーフ……!
毒ガスの脅威は、そこにはなかった……!
傍から見れば茶番も茶番、スーパークソ茶番なのだが、当人たちは真剣そのもの。
なにせ、うまくやれば立身出世、やれなければ死という、天国と地獄の狭間に立たされているのだから。
カナリア役の12がマスクを外してもなんともなかったので、他の隊員もマスクを外した。
すると、メイク途中のピエロのような、不気味な顔が一斉に現れる。
隊長のスキュラの命令で、彼らは任務中は白塗りメイクをしなくてはならないのだ。
そしてその額には、コールサインと同じ数字が、黒い文字で書かれている。
いまここにいる野良犬追跡隊のメンバーは、01~25まで。
うち死亡した02、11、16、18、24の5名を除いた20名。
それ以外の26~29は現在、野良犬の巫女のほうを追っている。
30はスキュラをホテルまで送ったあと、野良犬追跡隊に合流する手筈になっている。
特別任務がある以上、この神々が住まうとされる山、シンイトムラウから生きて戻れるのは1人だけ……!
神に愛されるのは、いったい誰なのか……!?
その幕開けを告げるように、12は叫んだ。
「よし、今回はマスクなしでの任務となるので、誤使用を防ぐため、各員、ガスタンクに中和剤を入れよ!」
なんと、第10番隊のアインデンティティである、毒ガスを無効化。
これは、抜け駆けして使う者を封じるためである。
「よぉし、それでは今から野良犬包囲網へと移る! 各員は散開し、付近一帯を捜索、野良犬を見つけ次第、仕留めよ!」
彼らはまさに自分たちの手で、デス・ゲームのシチュエーションをつくりあげてしまったのだ……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから1時間後。
第10番隊では散開任務の場合、目的を達成した時や緊急事態があった場合は、マスクに内蔵されている呼び子を鳴らす決まりになっている。
『神の指(ゴッド・フィンガー)』とも称される彼らにかかれば、どんな任務でも30分もかからずに、その音が鳴り渡るのが恒例なのだが……。
今回の任務に関しては、その限りではなかった。
「ぐっ……! き、貴様っ……! だ、騙していたのか……! ぐはあっ!」
残ったひとりを両断した08(ジュエルエイト)は、足元に倒れたふたつの死体を見下ろす。
無念としか言いようがない苦悶の表情を浮かべる彼らに向かって、こうつぶやいた。
「これで、お前らで2組目。あわせて4人目、っと……」
彼はすでに、04(ジュエルフォー)、15(ワインファイブ)、21(トゥインクルワン)、25(トゥインクルファイブ)の4名を始末していた。
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名もなき戦勇者(せんゆうしゃ) 175名 ⇒ 179名
名もなき創勇者(そうゆうしゃ) 61名
名もなき調勇者(ちょうゆうしゃ) 113名
名もなき導勇者(どうゆうしゃ) 167名
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第10番隊、のこり21名……!
08は懐から取り出した『プレゼント』を、改めて見やる。
「……最初見た時は、何だこりゃ、って思ったが……。この俺にかかれば、最強の武器になる……! コイツがありゃ、俺は何の苦労もなく副隊長になれるぜ……!」
ニタリ笑って、それを再びしまう。
「さぁて、次はどのカップルにしましょうかねぇ……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「09(ジュエルナイン)、ここにいたのか」
「どうした、08(ジュエルエイト)? なにかあったのか?」
「いや、お前に話しておきたいことがあって」
「なんだ? 任務中だってのに、妙にあらたまって……」
「いや、こんな時だからこそなんだ。俺とお前は友達だろう?」
「そ、そりゃまぁ……。でも、どうしたんだよ急に?」
「友達になったキッカケは08と09っていう、ナンバーが近かったって理由だが、俺たちは意気投合して仲良くなった。そして今や、親友と呼べる仲だ。違うか?」
「まぁ、そうだけど……」
「だから悩んだんだ。言おうかどうしようか、ずっとな……。でも親友だから、教えとかなくちゃダメだと思ったんだ」
「教える……? なにをだよ?」
「これを見てくれ」
08が懐から取り出したのは、一枚の真写(しんしゃ)。
ふたりの男女が馬車から降り、連れ込み宿に入るところであった。
男女は後ろ姿のシルエットだけで、顔や服装はわからない。
それを目にした途端、09は眉をひそめた。
「これは、もしかして……!?」
予想どおりの反応に、心の中だけでほくそ笑む08。
――そうよ……!
これはおそらく、不貞の密会をおさめた真写……!
だが、写っているのは誰だかわからねぇ……!
しかし、意味ありげに見せてやったら、この通り……!
自分の妻と、間男の現場だって勝手に勘違いしやがる……!
あとは俺が、さもその場に偶然居合わせたかのような作り話をして、浮気をデッチあげる……!
そのお相手は、もちろん……!
第10番隊の、誰かだ……!
あとは、間男を一緒に制裁しよう! とかなんとか言って焚きつければ……!
勝手に、殺し合う……!
第10番隊の実力は伯仲しているから、どっちもタダではすまねぇ。
負けたほうは当然死ぬが、勝ったほうも瀕死状態になるから……。
あとはソイツを、ごっつあんってわけよ……!
さぁ、勘違いしろ! 我が友、09よ……!
そうすればこの親友サマが、間男への制裁を手伝ってやるぜ……!
「今からいっしょに、アイツを殺しにいこうか」ってな……!
09は神妙な面持ちで、真写を見つめていた。
そしてふと、顔をあげると……。
08に向かって、思いも寄らぬ一言を、言い放ったのだ……!