『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 エヴァンタイユ諸国代表選抜』。
様々な者たちの思惑入り乱れるこの大会は、のっけから波乱含みの幕開けとなる。
なにせシード校ではない、勇者の代表校である4校に……。
あの(●●)、『厄災四天王』と呼ばれた勇者たちが、『指揮官』として参戦していたのだ……!
深紅の鎧に、逆巻くような兜を身につけ、炎の大剣技を操る、あの戦勇者(せんゆうしゃ)が……!
得意の大剣技『ファイヤーブレード』は、ひと太刀ですべてを燃やし尽くしてしまうという。
どんな大悪党でも名前を聞くだけで震えあがるという、至高の勇者、『ファイヤーヘッド』が……!
白銀の鎧に、逆巻くような兜を身につけ、雷の大剣技を操る、あの(以下略)。
豪華なサプライズゲストの登場に、会場は大いに沸いた。
先日、全裸姿をスクープされた彼らであったが、伝説の装備に身を包む彼らは、まぎれもなく『伝説の勇者』だったのだ。
しかしその伝説が段ボール製であることは、もはや言うまでもないだろう。
小学生相手に、伝説の装備で固めるというのもアレだというのに、
「我が内なる炎よっ! 神の微笑みをもって、大いなる力となりて……って、ぎゃああああっ!?」
……バキィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
長々とした大剣技の発動準備の最中に打ち込まれ、一発KO……!
しかも美食で肥えた身体を、辛うじて押さえ込んできた鎧は衝撃でバラバラに弾け飛ぶ。
そして、祭り再び……!
「ひぎいいっ!? 見るなっ!? 見るな見るな見るなっ!? 見るなぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?」
ぶよぶよの身体を、アザラシのように這いつくばらせて逃げるその様は、皮肉にも新聞記事の裏付けをしてしまっていた。
剣術大会というのはマナシールドが破壊されたあと、もう一撃受けたら負けとなる。
そのため、全裸になってもまだ勝つチャンスはあるのだが、アザラシ勇者たちは真っ先に場外に逃げ出していた。
なんともみっともない、『身ぐるみ剥がされ敵前逃亡』……!
新聞の真写(しんしゃ)ごしではなく、リアルでの醜態はこのうえなく無様であった。
例の新聞記事を『ウソであってくれ』と願っていた層の期待を、粉々に打ち砕く。
「ふ……ふざけんなっ! なにが『厄災四天王』だっ!」
「小学生相手に、伝説の装備を持ち出しやがって!」
「それなのに、一撃で負けるだとぉ!?」
「それでも潔く散ればいいものを、逃げ出すだなんて……!」
「お前らがいままでしてきた活躍は、ぜんぶウソだったんだな!?」
「ふざけんなっ! 俺はあんたらに憧れて、ゴージャスマートで廉価版の装備を買ってたってのに!」
「死ねっ! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
会場内にはのっけから、罵声とゴミが投げ込まれる。
『おいっ、貴様ら、いい加減にせんか! いくらゴミのようなニセ勇者といはいえ、ゴミを投げ込むんじゃない!』
ステンテッドが拡声魔法ごしに怒鳴りつけても、
「うるせえっ! このラクガキ勇者っ!」
「てめぇも同罪なんだから、引っ込んでろ!」
「てめぇの醜いケツのおかげで、俺はしばらくメシが食えなくなったんだ!」
場内と客席は、勇者の主催の大会とは思えないほどに険悪なムードとなる。
ほうほうの体で控室まで逃げていった『厄災四天王』。
各校ごとに用意されたその場所で、待ち構えていたのは……。
彼らの息子であった……!
「おいっ、燃えるゴミ野郎っ!」
「なっ……!? なんじゃ、ジュニア!? パパに向かってそんな口を利くだなんて……!」
「お前はもう父親でもなんでもねぇよ! 父親が大天(だいてん)級の勇者なんて、恥ずかしくてもう学校に行けねぇよ! ママと話して、お前は『切る』ことにしたから!」
「ゆ……勇者であるパパを『切る』だとぉ!? それは従者に使う言葉ではないか!」
「いまのお前は、従者に毛が……いや、贅肉が付いたようなモンじゃねぇか!」
「きっ……きっさまぁぁぁぁぁぁ~~~~~! パパはお前をそんな子に育てた覚えは……! ワシはいまから勇者として、父親として、お前を殴ぶはあっ!?」
「気やすく触んじゃねぇ、この燃えるゴミっ! 俺はなぁ、ボンクラーノ様のチームで活躍すれば、取りなしてもらえることになってるんだ!」
「なっ……なんじゃと!?」
「そうなれば、お前がいなくてもママとふたりで生きていけるんだよ! それに、お前は今回の醜態がバレたら、また降格だろ! 堕天してもおかしくないよなぁ? あぁん?」
「わ……ワシが悪かった! ジュニア! な……なんでもする、なんでもするから、ワシを見捨てないでおくれ!」
「じゃあ、俺の言うことを聞くか?」
「き……きくきく! なんでも聞きます!」
「じゃあまず、その剣をよこせ!」
「えっ、こ、この剣は、我が一族の長のみが持つことを許される……。い、いや、よ、喜んで差し上げます! ジュニア様! あなた様が今日から、わが一族の長ですっ!」
「よぉーし、この剣がありゃ、もう怖いモンなしだぜ」
「こ、これで……ワシを助けてくださいますか?」
「ああ、いいぜ、俺ん家の従者として使ってやるよ」
「じゅ……従者!? そ、そんな! 実の父親を、従者だなんてぐはあっ!?」
「うるせえっ! 今度父親ヅラしてみろっ! その脂肪を外から燃やしてやっからな!」
「はっ……! はひっ!」
「へへ……。この剣がありゃ、野良犬だってヤキトリみてぇに黒焦げにしてやれるぜ。じゃあそのまま這いつくばってついてこいっ、ゴミ野郎!」
「はっ……はひっ! はひぃぃーーーーーーーーーーーーっ!!」
いったんはハケた『全裸四天王』だったが、再び同じ恰好のままで、会場に戻ってくる。
今度は息子の足元を犬のようについてまわる、『全裸従者』として……!
そして揃いぶみする、『新・厄災四天王』。
最低の父親を踏みにじり、最高の武器を手にし、最後の敵として……。
他校に全勝した野良犬たちの前に、立ちはだかったのだ……!