しかし、不思議に思うことはないだろうか?

マザー・リインカーネーションが陰で『おっ○いモンスター』などと呼ばれているのに対し……。

プリムラは『やさしさモンスター』と呼ばれているほどの、スーパーお人好し。

困っている人を見つけたら放っておかないどころか、救助犬のように見つけ出して助けに行く。

なにせゴミの山の中に埋もれているホームレスですら捨て置かぬほどなのだ。

その性分のおかげで、ゴルドウルフも助かったようなものなのだが……。

それほどまでにやさしい彼女が、いくらゲームとはいえ、いくら姉を助けるためとはいえ……。

なんのためらいもなく勇者ボタンを押し続けていることに、違和感はないだろうか。

実は彼女は、今回の『聖心披露会』に臨むにあたって、ある人物に相談を持ちかけていた。

「あの、わたしは多くの方たちが見ている前で、何かをするというのがあまり得意ではなくて……」

「緊張してしまうというわけですね。なら、これを使ってみてはどうですか?」

「まぁ、かわいい……! これは、いったい……?」

「今度新製品として売り出そうと思っていた『耳栓』ですよ」

「えっ? 冒険者さんたちは、耳栓をすることがあるんですか?」

「ええ。キャンプなどで野外で就寝する際、安全が確保されている場合などですね。より深く眠るためと、耳に虫などが入らないようにするために耳栓をします。あとは、マンドラゴラなどの魔草を引き抜くときに起こる絶叫から耳を保護したり、人魚などの歌声で惑わすモンスターから身を守るための用途として使われます」

「なるほど、そんなに多くの用途があるのですね。でも、耳栓をしても、緊張はなくならないのではないのですか?」

「いえ、耳を塞ぐと自分の血流の音が聴こえるようになります。この川の流れのような音は気持ちを落ちつかせる効果があるんです。それに、まわりの声も耳に入らなくなりますから、集中できるようになります」

「な、なるほどぉ……!」

「この耳栓を、緊張する場面になったらしてみるといいですよ。あとコツとしては、練習だと思うことです」

「練習だと思う……ですか?」

「ええ。静かな場所で練習をしていると思えばいいんです。まわりの音がなければ、そう思い込みやすいでしょう? そして練習しているつもりで本番に臨めば、いつの間にか終わっていると思いますよ」

「あ……ありがとうございます! はいっ、是非そうしてみます!」

プリムラは最初の第1ゲームでは、庶民とのコミュニケーションが必要だと思ったので耳栓はしなかった。

しかし今回の第2ゲームは、誰とも話す必要はない。

よしんば、姉が何かを言ってきたとしても、プリムラは意思を変えるつもりはなかった。

たとえば姉が、

「プリムラちゃん! ママのことはいいから、ママのボタンを押してっ! ママを犠牲にしてっ……!」

と懇願されても、彼女は勇者ボタンを押し続けるつもりでいたのだ。

そして彼女は最初のカードを選んだあと、それからは耳栓を着用。

ホーリードール家の挑戦のときはなぜかセッティングにやたらと時間がかかったので、その間、プリムラはアドバイスの通り、ずっと練習をして過ごしていた。

それが計らずとも、彼女を仕立てあげてしまったのだ……!

『勇者だけは絶対殺すウーマン』に……!

狙われた勇者たちはたまったものではない。

彼らは声を枯らすほどの喚きを、『スイッチ職人』と化したひとりの少女に向けていた

「ぷっ……プリムラさぁぁぁぁぁぁんんっ! やめてっ! もうやめてぇぇぇぇ!!」

「押さないで、押さないでぇぇぇぇぇんっ!!」

「死んじゃう! 死んじゃうよぉぉぉぉぉっ!!」

「プリムラさんっ! いや、プリムラ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

追いつめられた勇者たちはついに、『プリムラ様コール』を始める。

ダンダンと足を踏み鳴らすのと相まって、それは地を揺らすほどの震撼となり、会場をビリビリと振るわせていた。

しかし、それほどの力、それほどの熱量であっても……。

届かない、まったく……!

「こうきたら、こうっ……! こうきたら、こうっ……!」

プリムラはバカつきそうなほどに真面目に、真剣に、ひたむきに……。

ボタンを叩き続けるのみ、であった……!

彼女をそんな無我の境地へと、誘っていたのは……。

……『ゴルドくん耳栓』っ……!!

これは、マンドラゴラの絶叫ですらシャットアウトしてしまうほどの逸品である。

勇者の駄々っ子のような泣き喚きなど、届くはずもない。

これがなければ『やさしさモンスター』である少女は、最初の試練のボタンすら押せなかっただろう。

勇者の命乞いと姉の笑顔を天秤にかけ、七転八倒していたに違いない。

司会者は、ぜひともプリムラがそうなってくれることを願って、根気よく待っていたのだが……。

とうとうインキチからせっつかれ、時間いっぱいとなってしまう。

彼は、断腸から漏れているような声を振り絞った。

『さっ……さささっ……さあっ! 最後の試練である、『爆炎魔法』……! 最後のドでかい一発をブチかまされちゃうのは、リインカーネーション様か、それとも勇者か……!? どっちにしても食らったほうは、タダではすまないじゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!! 大怪我しちゃうのは、いったいどっちなのかぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!? この究極の選択に、プリムラ様はきっと、お悩みに違いないじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんっ!!』

そう煽るのがもはや馬鹿らしくなるほどに、決まりきった結末が訪れようとしていた。

『ななっ……! なんとぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!? 選ばれたのは、勇者っ……!! 最後の試練までもが、勇者が受けることになってしまったじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!! ジャンジャンっ……!!』

……ばりばりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!

爆炎魔法特有の、炎の精霊が放つ、硝煙のような匂いが迸る。

「ぷっ……プリムラさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!?!?」

椅子から動けない勇者たちは、イヤイヤと首を振って涙を迸らせる。

そのハラハラと散った、100人分の涙の訴えも、虚しく……。

……ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!

2階客席の窓ガラスが爆散し、炎が噴き上がった。