Osama, known as' The Waste Dog 'and banished from both the party and the workplace, becomes the' Golden Wolf 'and strips the brave clan of fangs!
46 1 Volume Launch Anniversary Outside Whirlwind and the Sun 26
観客たちは我が目を疑った。
血走った眼を見開いたまま、服の袖でゴシゴシとこすってしまうほどに。
無理もない。
ピッチに敷き詰められたパネルは罠だらけ。
誤ってひとつでも踏んでしまうと、下手すると大怪我、それどころか命すら危ういというのに……。
その上を、かけっこのように走るだなんて……!?
あ り え な い 。
本来ならば、疑心と暗鬼。
そして剥き出しの人間性という、魑魅と魍魎が跋扈する、この最終ゲーム。
いままでの挑戦者はパートナーの言葉を疑ってかかり、パネルの表示と照らし合わせ、心理戦を繰り広げ……。
ただの一歩を踏み出すのにも、長考を要していたというのに……。
その上を走るということは、思考、ゼロっ……!?
今の世界の常識では、ただのバカ……!
あ り え な い っ …… !
パネルの上をぱたぱたと走る少女たちは、笑っていた。
「お姉ちゃん、わたし、もうすぐゴールですよ!」
「ああん、まってぇ、プリムラちゃん!」
もはや彼女たちは、自分の足元が何色に光ろうとも、気にも止めていなかった。
パネルはひっきりなしに、赤と緑の明滅を繰り返している。
すると、どうだろうか。
いままでは恐怖の地雷原でしかなかった、パネル群が……。
まるで咲き乱れるように、キラキラと輝きはじめたではないか……!
誰もがその光景に、心奪われる。
「う……うそ……」
「ま……マジ……」
「き……きれい……」
それはさながら、花畑を遊ぶ妖精。
それはさながら、桃源郷を遊ぶ天女。
あ …… あ り え な い っ …… !!
今回の『聖心披露会』には、5万人もの応募があった。
それはひとえに、優勝賞品が豪華だったからである。
そしてその賞品は、ひとりにしか与えられない。
となれば、パートナーを蹴落としてでも、それを手に入れようとするのが人間であろう。
観客席の勇者と聖女たちは思っていた。
もし自分がこのゲームに挑戦したなら、自分なら絶対にウソの情報を与えるだろうし、相手の情報は信じないだろうと。
現に、9組もの挑戦者はそうであった。
みな一見して強い絆で結ばれ、相手を裏切ることなどしなさそうであった。
しかしいざゲームが始まったら、その絆を紙の鎖のように断ち切り、梅酒のようなさらりとした顔でウソをつく。
どろどろに腐りきった本心を、仮面のような笑顔で覆い隠し……。
相手を蹴落とすために、死地へと導く……。
それが、『人間』というもの……!
しかしその『人間』を覆す、『超人』が……。
いや、まさに『蝶人』といっていい、身も心も美しき者たちが舞い降りたのだ。
その名は……。
ホーリードール家っ……!!
このゲームにおいて、2人の挑戦者はピッチの両端に立ち、中央にあるゴールを目指す。
ピッチの中央には、床に『ゴール』と書かれた広い空間があり、地雷原を抜けてそこにたどり着けばゲームクリア。
ふたりともゴールした場合、遠く離れていたふたりが出会う形となるのだ。
このゲームにおいて、今まで多くの者たちが引き裂かれてきた。
身体的にはもちろんのこと、関係的にもズタボロにさせられた。
しかも、成功しても失敗しても、結果は同じであった。
このゲームはいちど挑戦したが最後、パートナーとの関係は、二度と修復できないほどの、深い傷を残す……!
陰では『悪魔のゲーム』などと呼ばれていたこのゲームに、ついに、天使が舞い降りた。
その天使たちは、純度100%。
疑う気持ちなど、つゆほども持ち合わせてはいない。
みずみずしい果汁のような気持ちで、パートナーのことを信じ切っていた。
そう……。
彼女たちにかかれば、地雷原すらも、ただの歩きやすい道っ……!
なぜならば……。
お互い心から、相手のことを信じているから……!
キャッキャと笑いながら、まずはプリムラが最後のパネルを踏みしめ、ゴールにピョンと降り立った。
マザーは子供たちと「かけっこ」をするのが大好きである。
ただ全力で走っても、常人の早足以下のスピードしかでないので、ものすごく遅い。
となると彼女はいつもビリッケツなのだが、いちばん最後にゴールした彼女は、切らした息を整えもせず、いつもこうする。
「はぁ、はぁ、はぁぁ……! あらあら、まあまあ! 足がとっても速いのねぇ! すごいわぁ、えらいわぁ!」
自分のひとつ前にゴールした子供、つまりは普段はビリの子供を真っ先に、ギュッと抱きしめるのだ。
……彼女とかけっこした子供は、どんなに足が遅い子でも、走るのが大好きになるという。
先にゴールしたプリムラは、姉に向かって声援を送る。
「お姉ちゃん、がんばって! あと半分ですよ!」
ここで彼女は、
「あっ、間違ってました! 最初は真っ直ぐって言いましたけど、本当はそこから右です!」
などとウソをつくこともできた。
自分はすでにゴールしているので、マザーを罠にかければ優勝賞品の独り占めも可能であった。
しかし、彼女は……。
「そのまま真っ直ぐですよ! お姉ちゃんファイト、ファイト!」
まるで控えめなチアガールのように小さく跳ねて、ライバルを応援しはじめる始末……!
もはやこの姉妹には、なんのやましさもなかった。
相手の言うことを信じ切り、かけっこをして、応援する……。
まるで、幼い子供のような無垢さであった。
「はぁ、はぁ、はぁ……! ママ、がんばっ!」
姉は汗と胸を振り散らし、懸命に走る。
特出した重さに振り回されるように、ヨタヨタと蛇行する。
それ見ているだけでハラハラするような光景であったが、パネルの幅は2メートルほどあるので、なんとか踏み抜かずに済んでいた。
しかし、このママはそれを上回るドジっ子であった。
ゴール直前のパネルを踏んだとたん、
「あらっ? あらららっ?」
突然足がもつれだし、千鳥が酔っ払ってしまったかのような、急激なコースアウトをはじめる。
そのまま、マグマのように赤く赤熱するパネルに、吸い寄せられるようにフラフラと……!
「お……お姉ちゃん、あぶないですっ!!」
プリムラの楽しげな顔は一変、真っ青になって駆け出す。
対面のフィールドに足を踏み入れ、マグマの境目で「おっとっと」とバランスを取る姉の身体を抱きとめた。
しかし華奢なプリムラでは姉の身体を支えきれない。
振り乱した胸に巻き込まれる形となって、ふたりとも「おっとっと」状態に……!