Otome Game Rokkushuume, Automode ga Kiremashita
Episode 35: Can I have one friend?
結局その日は良い案が思い浮かばずにお開きになった。次に会うのは五日後、ジュリアーノ伯爵が出張で他国に行っているらしい。あの人本当に息子に尊敬されてないんだなぁ……自業自得だけど。
しかしそれよりも、私には考えなければならないことがある。
全くと言って良いほど、出来ることがない。
いや、出来ることはある。でもそれは私が取れる道じゃない。
私が彼の家庭環境を知っているのは過去五回の知識であって、現在の私はネリエルを全く知らないはずの人間だ。彼を変える方法は分かるが、それはジュリアーノ家の問題にも手を付けなければならない。
今の状態でそれをすれば、改善所かネリエルは確実に私を疑い不信感を募らせて悪化と言う未来しか予想できない。
それは困る。長引くのは嫌だ。
「ネリエルが外に出て、人との会話に慣れる……」
色々考えてみるけど、そんなの実践あるのみだよね。椅子に座ってノートに書いたって知識はついても技術はつかない。
「うーん……」
「何悩んでんの?」
「え……って、ケイト!何でいるの?」
私室のソファーに体育座りで悩んでいると聞こえてきた声に振り向けば、いつの間にかすぐ後ろにケイトがいた。
ここ私の部屋なんですけど!そしていつ入った!
「デリア様が案内してくれた。ノックしたのに返事ないし」
「うっ……気付かなかった」
「だろうね。今日あのジュリアーノ伯爵の末っ子に会ったんでしょ?どうせ悩んでるんだと思って」
さすがは幼馴染み、よく分かってらっしゃる。
「その様子だと思ったより悪かった感じ?」
「悪いと言うか……どうすれば良いのか分からないって所かしら」
理想を言うならネリエルの家庭環境には触れず、彼に人との最低限の関わりを学んでもらいたい。
そんな方法、そう上手く転がっては……。
「……あった」
「ん?」
「思い付いたかも」
今思い付いたやり方ならネリエルは人との接し方を学べる。最低限の関わりを知ることができる。
勿論、ジュリアーノ家の問題には触れずに済む。
うん、これならいける!
「ケイト、少し協力してくれる?」
「それは良いけど、何する気?」
「簡単よ。ネリエルと、お友達になってしまえば良いの」
× × × ×
五日後、私はネリエルをテンペスト家へと呼び出した。
少しは渋ると思ったけど、思いの外あっさりと了承してくれた。やっはりネリエルが行きたくないのは自室の外であり自宅の中、そしてパーティー会場……つまり家族のいる場所と言うことか。
ごめんねネリエル、でもそれは私が解消できる事じゃない。
ヒロイン、もしくは家族で解決するしかない問題だ。
「あ、あの……何で、僕」
「ネリエル様、私とお友達になりましょう」
「へ……っ?」
私の言葉に、ネリエルは目を真ん丸く見開いて驚いた。
うん、驚くよね。私も自分で言っててびっくり。
あんなに避けたがっていた攻略対象に自ら友達宣言をする日がくるとは……図太くなったと言うべきか。
多分ネリエルが一番害のない攻略対象だったから言えたんだろうけど。ツバル相手にだったら例え天地がひっくり返って消滅しようと言わない。
「人との会話になれるには人と話すのが一番手っ取り早いわ。友達になってしまえば話は早いし、ネリエル様も気が楽になるかと思ったの」
プラスして、関わっちゃったんだからもうこの際友達になっといた方が後々良いんじゃないかって言う打算。クレイ先生の時も似たような事思った気がする。
「と言うわけだから、行くわよ!」
「え、えぇっ!?」
何だか事態についていけてないみたいだけど、知らない。こういう事は勢いが大事なんだから!
ネリエルの手を引いて向かったのはいつもお世話になっている薔薇園。
中庭とかでも良かったんだけど……あんまり人が来るところだとネリエルがゆっくり出来なさそうだし。薔薇園ならほとんど人は来ないし、来たとしてもお母様とかくらいだからね。
「ケイトー、いるー?」
「いるよ。先に準備しててって言ったのマリアだろ」
「だから準備は出来てるかって聞いたのよ」
「言葉は正しく使ってくれる?」
薔薇園の中に入れば、いつも使っている丸いテーブルセットの上に三人分のお茶とお菓子。普段は二脚しか無いけど、ちゃんと前もって追加の一脚を頼んであるから椅子もちゃんと三つある。
「あ、あの僕……」
突然増えた人数にネリエルは分かりやすく狼狽えた。
ケイトを見て、私を見て、俯く。それを何度も繰り返して、何を言えば良いのか考えているみたいだった。多分、実際考えてるんだろう。でも何を言えば良いのか分からないって感じかな。
「ケイトです。マリアとは幼馴染みで……ネリエル、だっけ?君の二つ歳上」
「あ、えと……ネリエル・ジュリアーノです。ジュリアーノ家の……末子、です」
「ん、了解。あんまり畏まらなくて良いよ。俺は平民だし、マリアもそう言うの気にしないから」
「は、はい……っ」
ケイトの緩い雰囲気に少し落ち着いたのか、ガッチガチに凝り固まっていた体から少し力が抜けた様に見えた。
やっぱり、ケイトを呼んどいて正解だった。私だけだとどうしても身分にがんじがらめにされて窮屈そうだったし。
何よりケイトがいれば私もリラックスしやすい。 貴族同士だけだとどうしても気を使ったり勘繰ったりしちゃうけど、ケイトがいると緩衝材の役割を果たしてくれる。
まぁ元々ケイトの性格自体がマイペースだって言うのもあるんだろうけど。
「さ、二人とも座って。折角のお茶が冷めてしまうわ」
何はともあれ、第一関門突破……かな。