Otome Game Rokkushuume, Automode ga Kiremashita

Episode 67: I felt like I was at the Beauty Bureau.

どうしてこうなった、そう問うた所で意味はなかろう。皆どうして『こう』なっているのかを知っているし、私も趣旨をちゃんと理解しているから。

だからこの場合はどうしてじゃなくてもっと簡潔に『解せぬ』と言った方が良いかもしれない。

「全員くじ引き終わったー?」

「こっち残って無いけど」

「こっちも、全員引いたっぽい」

私の困惑を他所に話を進めているのは同じクラスの男女数名。さっき私を呼びに来た子は入っていない所を見るとあの子は橋渡しを頼まれただけらしい。

空っぽになった二つの箱を見て満足気に頷いた中心人物は夜の薄暗い明かりの中でもニコニコと太陽の様に笑っている。

「よーし、んじゃあ皆引いたくじを確認してー!」

彼……サーシアの声に反応して皆がゆっくりと動き出す。人数は一クラスより少し多そうな所を見ると何人か他クラスの人も混ざっている様だ。こんなにいるなら断れば良かったと後悔した。あぁでもエル達が乗り気だったから結局は参加になったかもだが。

お気づきでしょうが、私が今いるのは合宿で割り振られた期間限定の自室ではない。

さっきまで楽しくパジャマ女子会を開催していたのが嘘の様に、パジャマから着替えた私とエル、プリメラは、私の部屋を訪ねてきた子の後に続いて宿泊施設の外へ出た。

玄関を出るとすぐに建物の裏へ周り、木々の生い茂る森の入り口を目指すとすぐに人の集団が見えて、そこが目的地であり集合場所。

嫌な予感しかしないシチュエーションだが、私以外は皆楽しそう。ちょっと不安そうな子もいるけど楽しいが勝ってるらしく口元は笑っている。

「それじゃあ今から、肝試しのルールを説明します!」

合宿、夜の森で肝試し。

乙女ゲームでは鉄板のイベントをまさか自分が体験しようとは思わなかった。しかも作り物じゃなく自然の宝庫を舞台にするなんて、ヒロインとの肝試しは文化祭のお化け屋敷なのに危険度私の方が高く無いか?

お化けは出ないだろうけど大自然を甘く見てたら痛い目を見る。

勿論その辺は発案者か許可を出した先生がちゃんと考えているだろうけど。

「くじの番号が同じ人とペアになって、この森の奥にある花畑から一輪摘んでここに戻ってくる。地図はペアに一つずつ配るから、まずはペアで固まってー!」

言われた通りに紙を見る。

エルとプリメラと三人で見せ合ったが全員違う数字だった。この人数だから予想はしていけど、ちょっと残念かも。

「三番の人ー!」

エルは楽しそうだなー……元気なのは今に始まった事じゃないけど。手を挙げて自己主張しながら人混みに突っ込んでいった所を見ると、肝試しに対する恐怖心は好奇心に敗北したらしい。

「私は七番だ……」

「……プリメラ、大丈夫?」

「う、うん……ちょっと緊張してるだけ」

そう言いつつ笑顔が強張っている。

逃げ出したいほどではないみたいだから大丈夫そうだけど、これはペアによって天国地獄が決まりそうだ。怖がりさんと当たったら心配だが……皆テンション高そうだし何とかなるだろう。

「私は、十二番か……」

キョロキョロと辺りを見渡してまだ一人の人を探す。男女ペアの方が多いみたいだけど女の子同士もちらほら、怖がってくっつき合うのが可愛らしい。

私は、正直誰でも構わないんだけね。

肝試しくらい、水色の死神に刈り取られる事を思えばなんて事は無い。暗くて歩きにくいのも、国外追放された際の飲まず食わずでさ迷った時に比べれば些細な事だ。

唯一避けて通りたい相手はいるが、これだけの人がいるのにたった一人に当たるなんて確率が低すぎる。私のくじ運がド底辺でもない限り大丈夫。

それ以前にサーシアが参加しない可能性もある。何か幹事っぽく忙しそうに働いていたし、自分は裏方に徹するとか楽に想像出来た。

どちらにしろ、私のペアが見つかればこんな心配は彼方に消える。

「すいません、十二番の方──」

「あ、あの……っ」

私が番号の書かれたくじを掲げた時、遮る様に聞こえた声と一緒に手首を掴まれた。

驚きと一緒に視線を向けると、ダークブラウンのおさげをした女の子が赤い顔で立っていた。

多分クラスメイト、名前は分からないけど顔は見た事がある。

「えっと……ペアの子?」

「い、いえ、私……っ」

「……?」

目を泳がせて焦っていると言うか困っていると言うか……あ、テンパってる、そんな感じ。風邪でも引いてるのかと心配になりそうな真っ赤な顔で、目もちょっと潤んで見える。肝試し参加しないで部屋で休んだ方が良いのではと声をかけるより早く、彼女の決意が固まったらしい。

「わた、私、お願いがありまして……!!」

必死の形相で、振り絞られた声で、紡がれたお願いはその必死さとは裏腹な可愛らしい物だった。

同級生のはずなのに微笑ましく思って、何の躊躇いも無く了承した事に後悔は無い。

「マリアさん、こっちこっち!代わってくれてありがとねー」

ニコニコと笑うサーシアの笑顔に心臓の辺りが軋んだ感覚を覚えた、きっと錯覚。

後悔は、無かった。ついさっきまでは、過去形にするつもりも無かったんだけど。