Otome Game Rokkushuume, Automode ga Kiremashita
Episode One Hundred Sixth Return to the Stage
ケイトの部屋で眠り転けた私が目を覚ますと、そこは私の部屋でした──。
思わず叫びそうになったよね。目を開けると違う場所、ってオート生活を思い出してちょっとしたトラウマだからね!
後から聞いたら、ケイトから連絡を貰ったアンが迎えに来てくれたらしいです。うん、ありがとう。寝ちゃってごめんよ。
結果として、これが実家での最後の思い出になりました……何か不穏だな、単に新学期の準備で忙しくなっただけなんだけど。
始業式の前日に寮に戻る事になったけど、道中もケイトとは一緒だから、特別寂しいとかもないしね。
「新学期かぁ……」
「そんなに嫌か」
「新学期が嫌というより家に居たいって気持ちが大きい」
「どっちにいても生活は変わらないだろうに」
「それはまぁ……そうだけど」
流れる景色を眺めながら、 窓の縁に肘を付く。行きも帰りも経路が同じだから風景を見た所で新鮮味なんてない。むしろ後どれくらいで学園に付くのかを計算出来て落ち着かないくらいだ。
向かい合って座るケイトも同じ様に窓枠に頬杖を付いているが、私と違って特に気負う物はないらしい。もしかしたら私よりも学園に馴染んでんじゃないかこいつ。
「クラス替えも面倒臭い……持ち上がりで良いじゃない、一から人間関係作るのって大変なのよ」
「一年掛かってもクラスメイトから敬語抜けなかったんだっけ」
「うるさい」
そうですよ結局最初から最後まで敬語だし目もほとんど合わなかったっての。気にしてない、気にはしてないけど……何だろう、変な気分にはなったよね。噂を信じて人の事黒光りした虫みたいに嫌ってたあの時の威勢はどうしたよ、っていう。
まぁ所詮は十代前半の子供だ、周りの空気に呑まれたりする事ってあるよね。これでも精神年齢はお姉さんだからそれについては理解してるよ。
まぁ理解するだけで許しはしないけど。だって私、一応同級生だからねー。精神年齢が幾つであろうと、同級生のした事を大人な対応で許した上げる義理はない。心が狭いって?オートモード生活で削られまくったからな!
「ケイトは……無いか」
「勝手に納得しないでよ、多分あってるけど」
「じゃあ一応聞くけど、クラス替えに緊張したりするの」
「しないな」
「やっぱり」
その分私が緊張してるんだけどね。むしろ自分の事よりケイトの方を心配してると思う。
だって私のは友達と離れたらどうしようー、っていう学生らしい可愛らしいもんだけど、ケイトに関しては生き死にに関わるといっても過言じゃないからね!
お願いだから今年は王子とクラスが離れて頂きたい……いや王子だけでなくその幼馴染みとも是非、離れてもらわないと困るが。
去年一年で学んだ、ケイトに関しては学年が違うとか、自分じゃないとかって甘い認識はすべきではないと。学園に上がる前は基本的に二人で遊んでいたから自覚してなかったけど、私はケイトを巻き込まれると弱い。それこそ病んだ魔王に喧嘩を売れるレベルで判断力が低下する。それ自体に後悔はなくとも、火種は少ないに限るのだ。普通に私の身が持たない。
「クラスが変わって話さなくなるならそれまでだし、仲良い奴はどこにいてもそれなりに繋がってられるもんだろ。多分」
「ケイト、年齢詐欺って言われない?」
「……大人びてるって意味なら、よく言われる」
「やっぱり」
考え方が私より達観してる気がするんだけど……これは私の影響なのかな。私より、って時点で元から素質あったとは思うけど。小さい頃から一緒にいるから人格形成に影響があっても可笑しくはないか。
「マリアもある意味詐欺だと思うけど」
「それ、絶対良い意味じゃないわね」
「むしろ良い意味なら年齢詐欺なんて言い方しないから、普通」
「それは私に対する嫌味か」
「気付いてくれて嬉しいよ」
え、さっきの年齢詐欺発言根に持ってます?ちゃんと伝わってた……ケイトが汲み取ってくれただけか。勉強になったのでこれからは気を付ける。気を付けてケイト以外には言わないようにしよう。
「後はあれ、見た目詐欺。こっちは一応良い意味で」
「全く良く聞こえないんだけど……」
でも残念な事に自覚あるんですよねぇ……見た目と中身のギャップ。見た目通りとか言われたら完全なる悪役なんで嫌だけど、正反対もあまりよろしくない。ケイトに関しては絶対馬鹿にしてるしね!
「マリアに友達が少ないのってそれが一番の理由じゃない?見た目から来る印象のせい」
「あ、やっぱりそう思う?」
「後はマリア自身が必要としてないから。正直そんな気にしてないでしょ」
「うん……まぁ、別に」
誤解されると余計ないざこざを招きかねないので遠慮したいが、それを改善して友達を増やしたいとは思わない。ただ遠巻きにされるだけなら、別に怖がられても……いや流石に一年かかっても敬語が抜けないのは気にしたけどさ。
「クラス替えでエルちゃん達と離れても、新しい友達が絶対欲しいとか思わないだろうし」
「ケイトの口からちゃん付け聞くと違和感凄い」
「マリアちゃんって呼んでやろうか」
「そしたら私もケイト君って呼ぶわよ」
「止めて気持ち悪い」
「そっくりそのままお返しするわ」
口悪いなこいつ……見た目詐欺ってケイトの事でもあると思う。見た目は綺麗で、中性的な雰囲気なんだけど、中身はマイペースの極みだし口悪いし……私よりずっとギャップあるだろ。
「……まぁ俺としては、あの二人が一緒の方が楽できるだろうけど」
「え……エル達の事パシリにでもする気?」
「しねぇよアホ。つーかマリアはどっからそういう言葉覚えてくんの」
「……諸事情」
「言う気無いってのは分かった」
いやぁ……すでに数十年の時が経ってはいるが、この世界でオート生活をするまでは極普通の一般日本人だったんで。流石にもう慣れたけど、お嬢様言葉って面倒だし使いにくい。後下手に丁寧に喋ったらケイトは確実に笑うだろ、知ってんだからな!
「そうじゃなくて、二人が一緒の方が色々と安心出来るって事。俺もあの子達も側から離れたら何しでかすか分かったもんじゃないし」
「…………そんな事ないわ」
「間が長ぇ」
自分でも自信が無かったからな!これでもフラグクラッシャー目指して頑張ってるはずなんだけど……ケイトに言われる不安倍増だわ。
「ま、頑張れ」
「急に投げ遣り!心が籠ってない!」
「いやもうここで心配しても仕方ないし、そうなった時に考える事にした」
「切り替え早すぎない?」
「俺の長所」
「たまに短所に思える時もあるけどね」
それ引っ張られて、私もくよくよ悩まずに済んでる所もあるんだけど……うん、これ以上切り替え早くなられても困るから黙ってよ。
「あ、もうすぐ着くんじゃね?」
ケイトの言葉に窓の外を見れば、確かに景色が変わっていた。学園の周りは自然ばかりで、一度都会の喧騒を完全に離れる。正直通っている時は気にならないが、こうして外から帰ってくると自然だらけで何もない。何もない所に、突然巨大な城郭都市……もとい、学園が出てくるなんて、ファンタジーって凄いな。上から見たら、木と草原の緑しかない場所に突然国がある、って感じなんだろうか。分かりにくいって?私も説明しづらい。
「……生きて行けますように」
「物騒だから」
大袈裟に聞こえるかもしれないが、私にとって生死が関わる場所だ。
なにせあそこは、攻略対象がフラグを持って集まる、乙女ゲームの舞台なのだから。