Oukoku e Tsuzuku Michi

Episode 395: Central Plains Unification Battle: Rafen the Devil's Capital Preliminary

南ユーグリア軍 東部軍司令部

総司令官パトリシア=ラーレイ

「正面部隊、依然ハードレット辺境伯軍と交戦中。戦況はやや不利です」 

「押し戻されても構わん。可能な限り損害を抑えつつ、戦闘を長引かせることに注力せよ」

 パトリシアは滑らかな桃色の唇を舐めて言う。

「かかったな」

「お見事です」 

「作戦は順調に推移しております」

 参謀達が賞賛の声をあげる。

 彼女が率いるのは先の戦いを生き残った三万と増援の東部第二軍団四万を合わせた七万。

但し東部第二軍団の四万は小国モルト攻略の為に臨時に集められた二線級部隊であり、装備も練度も劣っていた。

「しかしながら恐ろしいのはハードレットの軍ですな。第二軍団が主力とはいえ、五万の正面部隊がまったく歯が立ちません」 

「数がものを言うであろう開けた場所に陣を張った時には正面から撃ち破れるかとも思いましたが」

「一つ一つは貧弱に見える防御陣地が重なり合うことで実に厄介、用兵も見事かつ兵の練度も高く……中央軍が戦い撃破した諸侯軍とは雲泥の差。王国の最精鋭部隊と言われても信じたでしょう」

 参謀達は言ってから敵を褒めすぎたかと気まずそうな顔でパトリシアの顔色を伺う。

だが彼女もまた小さく頷いて同意する。

「うむ、私も前任のダボル将軍より手強いと聞かされてはいたがこれほどとは思わなかった。戦場に出ては悪魔のごとく、一軍を率いては狡猾な蛇のごとくか……陽動にかかったのは前任ダボル将軍が正道に徹し、馬鹿正直に攻め続けてくれたお陰かもしれぬな」

 パトリシアはニヤリと笑う。

「だがそれも最早無意味だ」

 パトリシアは立ち上がり、ゴルドニア東部一帯の地図――その中心に描かれたラーフェンと東の果てに描かれたリントブルムに駒を置く。

「ハードレット領の中核都市ラーフェンが落ちれば決着はつく。武勇に優れる相手と馬鹿正直に真正面からチャンバラやる必要などないのだ」

 南ユーグリア軍が苦戦を続ける正面の戦いは全て陽動だった。 

本命は東から大きく迂回してラーフェンに迫る練度の高い精鋭部隊だ。

「奴らは全ての兵を正面に持って来ているからな。ラーフェンの防備は手薄だ」

「は、間諜からの情報では市内にいるのは千に満たぬ衛兵のみ、ごく一部重武装の部隊もいるようですが、二百程度で問題になりません」

「街壁も厚さ、高さともに中小都市のそれです。街壁の周りに木を植えておるなど防御意識も低く、本格的に攻撃すれば問題無く破れるでしょう」 

「現在街を預かる最高者は内務担当の文官とのこと。まともな指揮はできぬでしょう」 

「空をトカゲが飛んでいた。用水路から手が出ている。植木が夜な夜な動くなど意味不明な報告は無視致しました」

 パトリシアは満足げに頷く。

「後はここ……リントブルムか。よくもまあ不毛の地に町を作ったものだ」 

「鉱山に併設された鍛冶屋の群れ……剣鎧から矢、大砲までを生産する一大生産拠点か。まさかこのような辺鄙な場所にあるとは」

「奴らが何十門も大砲を使って来るわけです。ゴルドニアの正規軍より潤沢な兵装と兵も噂しております」

「ここを抑えれば奴らの補給は断たれます。叩かぬ手はないでしょう」

 パトリシアは再び頷いた。

「敵もまさか我々が山の民の領域を通って迂回できるとは思わなかったでしょうな」

「そしてラーフェンの内情が全て筒抜けとも……」

 女司令官はククと鼻で笑う。

「悪魔といえど全ての者に忠誠を誓わせることはできないと言うことだ。なあ御両名?」

 参謀達も可能な限り無表情で、かつ侮蔑と嘲笑の雰囲気を隠さずに視線を送る。

「俺は一族の未来を憂いただけだ。無駄口を叩くつもりは無い」

「どうしよう……私……私こんなつもりじゃ……」

 視線の先には憮然とした顔の背の低い男と、青い顔をしてがたがた震えるメイドの姿があった。

同時刻 ラーフェン近傍 南ユーグリア軍

「街壁沿いに敵兵無し。防御設備は少数の櫓のみ、事前情報通りです」

「東から計画通り陽動の小規模攻撃を仕掛けた後、地形的に脆弱な南側より本格的に仕掛けます」

 南ユーグリア軍、ラーフェン攻略隊はあまりにもスムーズに行動を開始する。

ラーフェンの情報は兵士の数から防御設備まで全てが筒抜けになっていた。

攻略隊は想定していた通りに攻撃に移ることができたのだ。

「東門より敵の反撃です。大弩と小口径の大砲が数門の模様!」 

「良い兆候だ」

 攻略隊の司令官はほくそ笑む。

反撃があるのは移動に手間のかかる大弩と大砲が東門近くに据えられている証明。

つまり本来の攻撃目標たる南はがら空きだと言うことだ。

「情報ではラーフェンで指揮を取っているのは悪魔ではなく文官らしいが、どうやら本当のようだ」 

「姿を見せてから攻撃まであえて数時間の猶予を与えて東の防御を固めさせる。思い通りに動きましたな」

「我々の諜報網は敵を完全に凌駕していますね」 

「ははは、情報が筒抜けな上に、こちらは一万五千で敵は二千そこそこ、おまけに司令官が役人ときては負けようがない。さっさと落としてしまうぞ」

 南ユーグリア軍は東門に迫るふりをしてから急転回して南に向かう。

城内の守備隊が慌てる声が聞こえるが、大弩を南に据え直す時間はもう無い。

「ははは見ろ。街壁の向こうから木が覗いているぞ」 

「内側に木を植えるとは……呆れ果てる馬鹿さ加減だな」

「総員梯子をかけて登れ。てっぺんまで行けば木を足がかりに街に入り放題だぞ」

 南ユーグリアの指揮官は笑い、兵達もこれは勝てるぞと確認しながら南街壁に突撃していく。

「迎撃しろ! 撃て撃てー!」

 街壁からは数十程度の衛兵が櫓上からクロスボウを射掛けてくるが、焼け石に水で南ユーグリア兵の勢いは寸分も削がれてない。

逆に援護の弓隊が櫓に向けて集中攻撃を開始すると衛兵はたちまち倒れるか、転がり落ちてしまう。 

「よし取り付いたぞ!」

「こちらもだ」

 それほど高くないラーフェンの街壁は歩兵が持ち運べる梯子をかければ十分に越えられる。

百以上の梯子が街壁にかけられ、次々と兵士が登っていく。

 あまりにも簡単にラーフェンの命運は尽きたかに思われた。

「俺が一番乗――」

「なんの俺も――」

「はへ?」

 兵が梯子を登りきり、街壁を乗り越えたその瞬間。

パンと軽い音と共に彼らの頭が弾け飛んだ。

 威勢よく登っていった兵士達が頭部を無くし、無言でずるずると梯子を滑り落ちて来る。

「何が……起きたのだ?」 

 指揮官にも何が起きたのかわからない。

「怯むな! 一基、二基の大弩でもあったのだろう。一気に登って押し切ってしまえ!」

 砲声がしなかったことから、大弩だと判断した指揮官が発破をかけ、兵達は再び鬨の声をあげて梯子を登っていく。

「当たれば運が無かっただけのこと!」

「仲間が仇を打ってくれる」

「行くぞ――!!」

 一気に梯子を駆け登る兵士が再び街壁を超える。

「「「みぎゃっ!」」」 

 彼らは同時に奇声を上げ、放物線を描いて弾き飛ばされた。

どう見ても大矢や砲弾を受けた動きではなかった。

 数秒の沈黙の後、ドサドサと兵士達が落下してくる。

 最初と同じく頭部が無い者、胸から上がボロ雑巾のようになっている者、顔面だけが原型を留めて居ない者。その中で一人だけ、顔を半分潰されながらも息のある者がいた。

「おい、何が起きた! 壁の向こうで何があった!?」

 指揮官が男を抱き起こして問う。

兵士は半分潰れた口をパクパクさせて声を絞り出した。

「木……」

「木? 街壁の向こうに生えている木か!?」

 兵士はかすれゆく声で言った。

「木が……動い……て……化け物……」

 兵士が絶命して脱力する。

 同時に兵士を囲む男達の上に影が落ちる。

全員が不良品の石臼のようなぎこちなさで後ろを振り返る。

「木が……高くなってる?」

「いや違う……高くなってるんじゃない。木が街壁を登っているんだ! ただの木じゃないぞ!」

「嘘だろ……木が動くなんてこれは悪夢だ! 俺は矢でも受けて昏倒したのか!?」

 木が枝をまるで腕のように使って街壁から次々と身を乗り出してくる。 

それは常識では考えられない。幼子が見る悪夢のような光景だった。

 南ユーグリア兵は尻持ちをつき、あるいは転がるように逃げ出し、あるいは呆然と見上げる。

 ラーフェン外周に植えられた木が全てアルラウネであるとはさすがに南ユーグリアの諜報網でもわかるはずがなかった。

 意志を持ち、動き回れる彼女は人を襲うなと命令されていた。その者が街に害を及ぼさない限り。

「うわぁぁぁぁ! ぐえっ!」

 転がるように逃げる男の背に鋼鉄並の強度を持つツタが突き刺さり、上空高く放り投げられる。

「腰が抜けて立てな……ぎゅっ!」

 尻持ちをついていた男の頭に太い枝が振り下ろされ、男は地面に薄く潰れて広がった。

「これは夢だ。あり得な――」

 呆然とする男の頭上に袋のような蔦が伸び、ばしゃりと液体がかけられる。

途端に男の甲冑が溶け落ち、髪と皮が無くなり、赤い肉と白い骨が剝けるように現れて最後は完全な液体に変わってしまう。

「ぎゃああああ!」

「なんだこれはぁぁぁ!!」

 惨劇はそこら中で起こっていた。

蔦が乱舞し、消化液が飛び、南ユーグリア兵の悲鳴が交差する。

「お、お前達何を見ている。俺達は衛兵隊だろうが、矢を射ろ、石を投げろ、防戦するんだ!」

「お、おう」

「ああ、そうだった、戦争してるんだった」

 衛兵隊の隊長が叫び、あんぐりと口を開けていたラーフェン衛兵がおずおずと攻撃を再開する。

だがほとんどの者が目の前の敵より、動き回る木から視線を外せないでいる。

「木が動いてる……ありえねぇ……」

「こいつら敵味方見分けられるよな?」

 衛兵の困惑を察したのかアルラウネの一体からにゅっと人型が現れ、安心させるように兵達に触れる。

「とりあえず大丈夫みたいだぞ」

「あ、少し可愛い」 

 安心した衛兵隊は敵への攻撃に集中する。

 一方の南ユーグリア軍は街壁に取りつくどころではなくなってしまった。

「しっかりしろ。これは悪夢ではない! 奴らは魔物を手なずけて使っただけだ、動揺するな!!」

「おかしいのがいるだけで数自体は圧倒的に少ない! 負けるな撃ち返せ!」

 混乱する前線を救おうと後方から無数の矢が放たれ、街壁周囲に降り注ぐ。

兵力差から衛兵隊はひとたまりもないように思われたが。

「わぁぁぁぁ! ……ってあれ?」

「あ……ありがと」

 落下する矢の多くは目にも止まらぬ速さで動くアルラウネの蔓によって空中で撃ち落とされ、落とし損ねた矢も彼女自身の幹や枝に刺さって止まり、被害はほとんどなかった。  

 アルラウネはわさわさと揺れた後、矢を射る者を狙って本格的に街壁の外に出ていこうと蠢き始める。

「こらっ外に出ちゃダメ! 壁の内側で戦いなさい!」

 綺麗な女の声にアルラウネはピクンと反応する。

枝を腕、根元を足をように動かし、今にも街壁を乗り越えようとしていた数体が動きを止めて街壁内に戻っていく。

「そう。私達はここを守らなきゃいけないんだから勝手に出ていっちゃ駄目。わかった?」

 もちろんその動きを南ユーグリア側も見逃さない。

「化け物が指示を聞いた? 奴が魔物を操っているのか!?」 

「あの女を狙え!」

 クロスボウ兵が狙いを定める。

粗末な兜を被った女は街壁内を小走り程度の速度で移動している。

 一人の兵士がその異様さに気付いた。

「……おい待て。なんで街壁内の女がこっちから見えるんだ? 高く無い街壁とはいえ4mはあるぞ」

「良く見たら櫓に乗ってる訳でもないよな。どういうことだ」

「動きもやたら上下に揺れておかしいぞ」

 その時、女が彼らに視線を向ける。

「よいしょ」

 にゅんと女の胴体が伸び女の上半身全体が街壁の上に現れた。

「むっ狙われてる!」

 そしてクロスボウ兵が自分を狙っている事に気付き、にゅるんと姿勢を低くした。

 兵士達は得物を取り落として呟く。

「……伸びた」

「下半身が蛇だった」

「この街はどうなってるんだ……悪魔の根拠地は本当に魔都なのか」

 撤退のラッパが鳴り響く。

ラーフェン北部 水道橋取水池

「大型の取水口がありました。情報通りです!」

 腰まで水に浸かっていた兵士が嬉しそうに言い、指揮官の男は満足げに頷く。

一面に広がる湿地帯の行軍に苦労していた兵士からも喜びの声が漏れる。

「正面攻撃だけで事は済むだろうが、万全は尽くさねばな。よしんば奴らが思いのほか粘ったとしても、水の手を切ってしまえば長くは持たん」

 ラーフェンの人口は四万、それだけの民が使う水を井戸や市内に降った雨水だけで賄うのが不可能なのは分かりきっていた。故に南ユーグリアはラーフェン攻略に際して水の供給元を徹底的に調べていたのだ。

 当然城側も水の防備は固めているだろうと、千近い兵を率いて来たものの、実際にはまったくの無人だった。

「やはり文官は戦を知らぬな。それとも回せる人手がないのか。いずれにせよ勝敗は見えた」

「では予定通り取水口を破壊します」

 兵士達は大型のハンマーやツルハシを持ち出す。

「敵はいないが深い場所もあるから足元に気をつけろよ。こんなところで溺れ死んだらつまらん。俺なら化けて人魚になってしまう」

「ははは、違いない」

「人魚と言えば上半身は裸体の美女と聞きます。自分は指揮官殿の胸毛など見たくありませんぞ」

 指揮官の冗談に兵士達は笑い、レンガ造りの巨大な取水口を破壊しようとしたその時だった。

 取水口から何かが飛び出し、兵士に掴みかかって水の中に引きずり込んだ。

「なんだ!?」

「おい今のは……うわ!」

 今度は別の男が足をすくわれて倒れ込み、そのまま浮かんでこなくなる。

「な、何かいるぞ!」

「気をつけろ! 周りを……ひっ」

 水面を警戒していた兵士の後方からナニカが飛び出し、首筋にしがみついて水の中に押し倒す。

「な、何がいた!? 伏兵か?」 

「ヒレがあったぞ。巨大な魚……?」

「馬鹿言え! 今、目があったぞ、あれは人間だ!」

 言い争う兵士達をあざけるように水面に赤い染みが広がり、かつて戦友だったモノの一部が浮かぶ。

手首、足首、そして首……一旦浮かんだそれらを水の中から伸びた手が再び水の中に引き込む。

 次々と浮かんでは消える人間の残骸に混じり、水中から小さな頭が続々と現れる。

その数一〇程。

「入口壊すの悪い人」

「悪い人は食べていい」

「こいつらはなんだ?」

「子供? いや、違う!」

 更にポコポコと頭が増え、二〇を超える。

「久しぶりにお肉」

「たくさん食べる」

「えらがついてるぞ!」   

「手にもヒレが……」

 南ユーグリア兵を囲むように頭は更に増えていく。

「むしゃむしゃする」

「美味しいそう」

「こいつらまさか人魚……」

「都市の取水池にか? ありえん」

「来るぞ! 防御体勢を取れ!」

 南ユーグリア兵は混乱しながらも奇襲を受けた時の対応通りに隙間なく集まり、円形の防御陣地を組む。

槍兵が外周に立ち、クロスボウが中心から水面に目を凝らす。

「油断するな……」

「待ち構えるんだ……」

 人魚の群れは彼らの周りをスイスイと泳ぎながら徐々に距離を詰める。

そして水中で一瞬停止した後、跳ねて飛びかかった。

「来た!」

 だが南ユーグリア兵も奇襲でなければそう簡単にはやられない。

飛びかかる一体を盾で殴って弾き飛ばす。

「見え見えなんだよ!」

 別の兵は潜行して足を取ろうとした一体に槍を突き立てる。

人魚は激しく震え、血の跡を残しながらフラフラと逃げていく。

「どわ、助けてくれ!」

「任せろ!」

 人魚に飛びかかられてよろめく兵士に別の兵士がクロスボウを放つ。

ボルトは正確に人魚の脇腹に当たり、人魚は力を失ってドボンと水の中に落ちる。

「ふぅ助かったぜ」

「この戦いが終わったら一杯奢って貰うからな」

 二人の兵士はがっちりと手を取り合う。

他の兵もどうだ見たかと威勢をあげる。

 その様子を見て指揮官が叫んだ。

「人魚とはいえ所詮は畜生だ。飛びかかるか足を取るかしかできない。落ち付いて対処すれば問題無い!」

「おうとも! 油断しなければ大丈夫だ」 

「ゆっくりと動いてここから離れるぞ。陣を崩すなよ!」

 兵士達は叫び士気を奮い立たせる。

数匹の攻撃を防いだとはいえ、足場の悪い湿地で人魚と戦うには悪手すぎる。

もちろん池の中などは論外だ。

 早急に人間のフィールド、乾燥した平地に戻る必要があった。

だが彼らの運命はそう甘くはない。

 小さく、それでいて脳に直接届くような悲しい声に兵士全員が振り返る。

「可哀想に……可哀想に……こんなに血を流して……」

 取水口に腰かける人魚が一体……他よりも一際大きな彼女は言うまでもなくミルミだった。

膝の上には槍で突かれ、血を流して震える我が子を抱いている。

「痛い……ママ痛いよ……」

「なんて酷いことを……この子はただお肉を食べようとしただけなのに」

 ミルミは兵士達を睨みつけゆっくりと口を開く。

「お、親玉だ」

「いいから動きを止めるな。早く湿地を抜けるんだ」

 ミルミは悲しげな、それでいて怒りに満ちた叫び声をあげる。

それは大音量でありながら人の耳には聞こえなかった。

だが兵士達は本能的にそれがまずいものだと直感し、陣を乱して足を早める。

「ママが泣いてる」

「悪者が姉妹を傷付けた」

「やっつけないと」

 声に呼ばれたのか、彼らを囲むようにして水面に五〇の頭と百の手が現れる。

「新手だ! 多いぞ!」

「急げ急げ!」

 彼らの後方、側面、そして前方の浅い湿地帯の水面も波立ち、そこら中から細い腕と小さな頭が現れる。

「陣を保――いや、もういい! 走れ、走れ走れ――!!」 

 数は既に二百や三百ではない。

一面全てに大小の人魚が密集していた。

 陣形どころか装備まで捨てて走る南ユーグリア兵。

だが人間は泥に足を取られる湿地で走れるようにはできていない。

 それに対して小さな人魚達は膝までほどしか水が無い湿地でも自由に動き回ることができる。

「あぶっ!」「ぎゃっ!」「ひぃぃ!!」

 側面と後方の兵士が次々と引き倒される。

一旦転ぶと何体もの小さな人魚が覆いかぶさり、悲鳴はすぐに消える。

「やっつける」「追い払う」「逃がさない」「食べる」「お肉」「足は私の」「中身も欲しい」

 中心に居る兵士も次々と足を取られて倒れ込んでいく。

傍にいる者も倒れてしまった味方を助ける余裕は無い。

「散り散りになるな! 散ったら全員食われるぞ! 固まって南東に抜けるんだ!」 

 悲鳴と断末魔が響く大混乱の中、南ユーグリアの指揮官は必死に部下に指示を出しながら自身も逃げる。

 だが男の前に大きな影が立ちはだかった。 

「親玉……」

 ミルミは黙って指揮官を睨み続ける。

 ずっと後ろに居たはずの彼女がもう追いついている。

指揮官は逃げられないことを悟って剣を向けた。

「綺麗な胸だ。ここは引いてやるから触らせてくれないか?」

 言いながら振りかぶった男が最後に見たのは美女の口には不釣り合いなノコギリのような歯だった。

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主人公 エイギル=ハードレット 25歳 春

地位 ゴルドニア王国辺境伯・東部大領主 山の伝説 ドワーフの友 アレス王の友 竜殺しの英雄

エルフの仲介者 白都の性王

家族

ノンナ(正妻)カーラ(臨戦)メル(退避)ミティ(退避)マリア(退避)カトリーヌ(退避)

ブリュンヒルデ( )グレーテル(退避)メリッサ( )クウ(退避)ルウ(退避)

ミレイ(臨戦)ピピ(出陣)ケイシー(疎開)リタ(臨戦)ヨグリ(脚本家)アリス(臨戦)レア( )マルスリーヌ(退避)娘ステファニー(退避)ブリジット(退避)フェリシー(退避)

ナーティア(お金持ち)ソフィア(愛人)セクリト(落ち込み)セバスチャン(執事)ドロテア(王都屋敷管理)クラウディア(臨戦)クララ(臨戦)セレスティナ(動揺)モニカ(動揺)アデラ(プロ愛人)

スージィ(参謀B)ソラナ(参謀A)

部下

セリア(副官)マイラ(指揮官)マータ(付き人)イリジナ(指揮官)プチチェリー(諜報)

ルナ(指揮官)ルビー(指揮官)ギド(護衛隊)ポルテ(臨時副官)

レオポルト(参謀)トリスタン(参謀)アドルフ(防衛司令官)クレア&ローリィ(緊急事態)リリアーヌ(女優)クロル(臨戦)アルマ(使用人)

虜囚

クリストフ(???)

人外

ラミー(木兵部隊指揮官)アルラウネ(交戦中)ミルミ(食事中)

ペット 

ポチ(スクランブル)メッサーシュミット(昼寝)シュバルツ(馬)フェルテリス(援軍)

領民 220000人

重要都市 ラーフェン 40000人 リントブルム 7000人 特別開拓地区 14000人

正面戦線 23450名

歩兵14000 騎兵1500 弓兵1500 弓騎兵6000 砲兵450 

大砲60門 大型砲30門 ドワーフ砲16門 野戦砲20門 戦車50両 

王都 14000名

アレス兵14000

ラーフェン防衛隊 1850名+a

護衛隊 150名

治安隊 200名

衛兵 1000名

後送兵 500名

大弩、大砲若干 

アルラウネ二〇〇

人魚  約九〇〇

ポチ     一

ハーピー  六〇

財産 金貨170000 戦費諸々(30000) 

経験人数782人 産ませた子68人+565+???