Outaishihi ni Nante Naritakunai!!

Souvenir Talk With Her 3

「良かったですね……」

思わず涙ぐみそうになってしまう。うるうると目を潤ませていると、義母は「あと……」と言った。

なんとまだ話に続きがあるらしい。

今ですら萌え死にそうだというのにこれ以上だなんて、義母は私をどうしたいのだろうか。

ちなみに先ほどの義母の可愛らしい姿に、ミニの私たちは全員尊さで倒れた。

親指を立て、「いい萌えでした。ありがとう」と幸せそうな笑みを浮かべている。こうなればもう、祭りの準備どころではなさそうだ。

「陛下がその……額に……口づけをなさってきて……もう……もう……恥ずかしくて死にそうでした」

先ほどまでより更に真っ赤になる義母。義母は両手を頬に当て、恥ずかしそうだ。

そして聞かされた私はといえばもう……瀕死である。

――手を繋いで、額にチュウ? なにその少女漫画的展開! ピュアすぎる!! 素敵!

誰もいなければ、テーブルをガンガンと叩きたいところだ。

というか、話だけ聞けば、普通にラブラブ夫婦である。

もうここまで来れば、あとはもう時間の問題。そう思えるほどには進展している。

「こ、こんな感じだったのです……。もう……思い出すのも恥ずかしい……ああ、やはり話すのではありませんでした。あまりにも色々なことが急に起こりすぎて、自分で処理できなかったのです。聞いてもらっておいてなんですが、リディ、忘れて下さい」

「いや、それは無理です」

せっかく義母が教えてくれたのだ。忘れるとか不可能である。

「胸の内にしまっておきます。大丈夫です。私、今聞いたこと、誰にも話しませんから」

女同士の恋バナだ。いくら夫でも話す気はない。

私から秘密が漏れることはないと告げると、義母はホッとしたような顔をした。

「ありがとう、リディ。私には相談できるのはそなたしかいないのです」

「私で良ければいくらでも! 頼って下さい! いつでも、なんでも聞きますから!!」

全力でアピールした。

むしろ何か起こるたび、逐一報告して欲しい。

しかしフリードといい、義母といい、この親子は全力で私のツボをついてくる。

フリードにはいつも萌えまくって大変なことになっているし、義母は義母で尊さで萌え死ねる。

――私、王家に嫁げてよかった。

この二人と家族になれた私、幸せすぎである。

一応言っておくと、ここに国王が出てこないのは、私があまり彼のことを知らないからである。親しくなると、彼もまた私のツボをついてくる存在である可能性は十分にあり得る。

いや、いつもの走りすぎた感じとは違い、額にチュウで留めた彼ならすでに推せるのかもしれない。

ヴィルヘルム王家、恐るべし。

「その……それで、ですね。今後私はどうすればよいと思いますか?」

尊さに震えていると、義母が助けを求めるように聞いてきた。姿勢を正す。

私は真顔で彼女に言った。

「何もしなくて大丈夫です」

「えっ……?」

「お義母様は今回、十分すぎるほど頑張りました。それに先ほどお義母様ご自身がおっしゃられたではありませんか。まだ応えられない、と。大丈夫ですよ、お義母様。今回と同じです。いけると思った時に行動すればいいんです。無理に先に進む必要はありません」

私の言葉を食い入るように聞いていた義母が、ホッと肩の力を抜いた。

「それで……いいのですか?」

「いいです。絶対陛下は待って下さいます。お義母様のペースで行きましょう。ゆっくりで構いませんから、自然に大丈夫だと思った時に、やれると思った行動を取って下さい」

「……自然に」

「はい。陛下だって、無理やりなんて思っていらっしゃらないはずです。急ぐ必要なんてありません。ゆっくりお二人のペースで進んでいけばいいと思います」

「私たちのペースで……」

国王のペースではあっという間に最後まで突き進んでしまうだろうが、幸いなことに今の国王は義母のことを待つ姿勢を見せている。

義母に、自分のつがいに惚れられたい。今度こそ気持ちを通わせたいと思っているのだ。

だから焦れはするだろうが、義母の意思を無視する真似はしないはず。

私の話を聞いた義母は、ゆっくりと頷いた。

義母もおっかなびっくりではあるけれども、国王に歩み寄ろうと彼女なりに頑張っているのだ。傷ついた心を抱えながらももう一度だけ信じてみよう、近づいてみようと頑張る義母。そんな義母がとても眩しく、愛おしく見えた。

「ふふ、でも良かったですね。ずいぶん陛下に近づいたではありませんか。まさか帰国直後にこんな素晴らしい話を聞かせていただけると思っていなかったので望外の喜びでした」

「お、大袈裟です」

「そんなことありません。きっと今頃陛下もお喜びになっていると思いますよ」

「……そうだと良いのですが」

いつもの義母ならきっと『別に陛下がどう思おうと構いません』と言っていただろう。それが今は、素直に『喜んでいて欲しい』と言っているのだ。

素晴らしい変化だと思う。

――多分、それを陛下には言えないんだろうけど。

きっと私にだから正直な気持ちを告げてくれたのだ。義母の信頼がとても嬉しく誇らしかった。

上機嫌で、少し冷めてしまった珈琲を飲む。義母も話しっぱなしで喉が渇いたのか、コーヒーカップを手に取った。しかし、義母と話すのは本当に楽しい。もう少し、国王との話でも聞きたいところだなと思っていると、どこからか私の名前を呼ぶ声がした。

「リディ!」

「ん?」

声の方を振り返ると、フリードがこちらに向かって歩いてきているのが見えた。手を振っている。父や国王との話は終わったのだろうか。義母をチラリと見ると、彼女は呆れたような顔をしていた。

「お義母様?」

「本当にこらえ性のない子だこと。きっと寂しくなってそなたを迎えに来たのでしょう」

「えっと……」

どう答えたものかと思っていると、義母が秀麗な眉を寄せた。

「思い出しました。そういえばイルヴァーンでは大丈夫でしたか? 一応出発前に釘は刺しましたが、あの子のことです。どうせ止まらなかったのでしょう」

「はは……ははははは」

まずい方向に話がいった。

義母が言っているのは夜のことだ。

一応、初日に我慢しよう的なことは言ってみたものの、結局いつも通り抱かれていた私は、笑うしかなかったのだが、それで義母は答えを知ってしまったようだ。

「やはり……! 全く、他国でくらい控えればよいものを……リディ、大丈夫でしたか?」

「わ、私は平気です。ほら、今も元気ですし!」

わざとらしいかなと思いつつも、元気そうなポーズを取ってみる。

実は昨夜は一睡もしていないのだが、それを言えば、義母は怒り狂うだろう。それが分かっていた私は『元気』だという事実だけを告げた。

エッチに関しては、わりと地雷だらけなのが義母なのである。

「……」

じっと義母が私を見つめてくる。誤魔化すようにえへへと笑った。

義母には申し訳ないが、私はフリードが好きなのである。だから嘘は吐かないまでも、彼の印象が悪くなることは避けたいし、大体、フリードとは同意の下でエッチしているのだから、彼だけを責められないと思っていた。

――本当に嫌なら断ればいいんだものね。

応じてしまった時点で、私は被害者ではない。……断れたかどうかは別にして。

「リディ」

うんうんと頷いていると、笑顔のフリードがやってきた。

しかしいつもながら、タイミングが悪い。いや、フリードの姿が見えたからこの話になったのだから、時期は関係ないか。

過去に絶倫国王と色々あった義母は、息子が性生活を少々行きすぎなほど謳歌しているのが気に入らないのだ。……私が自分と同じ目に遭わないか心配という意味で。

私は何度も大丈夫だと言っているのだが……まあ、確かに心配されてしまうのも仕方ないくらいの回数はしている気がする。

このままでは義母に、絶倫エロ息子と罵られる日もそう遠くないのではないか。それは彼の名誉の為にもできれば避けたいところだが……もう手遅れなのかもしれない。