三校戦秋の部は、今年もロンドールの優勝となった。

キース先生の事件はかなり皆へショックを与えたが、この話題がかなり陰鬱な空気を吹き飛ばしてくれた。

「――てなわけよ。まったくも~ギル君にも見せてあげたかったゾ」

ホムラさんは俺の頬を突きながら自分の武勇伝を語る。

「はぁ‥‥‥。凄いっすねそれは」

「でしょ~!」

いくら俺が興味のない返事をしても、この自信満々の反応である。

こりゃ太刀打ちできねえや‥‥‥。

「それくらいにしてやれ、ホムラ」

「あらアレックス。まだ起きてたの」

アレックス‥‥‥ホムラさんと一緒に三校戦の代表魔術師に選ばれていた人だ。

かなり屈強な体格に、金髪の角刈り。

見るからに強そうだ‥‥‥魔術なしの闘いなら秒殺だろうな‥‥‥。

「こちら、ギルフォード・エウラ君。私のお気に入りよ」

アレックスは俺の方をじーっと見る。

「君がね‥‥‥。噂は聞いているよ。大変だったろう」

噂‥‥‥恐らくキース先生のことだろう。

「いや、そんなことは‥‥‥」

「ふん、まあいいさ。君たちの真の力を視れるのはこれからだからな」

「え?」

「何今の「え?」って!? もしかしてギル君、知らないの!?」

ホムラさんが珍しく取り乱して身を乗り出す。

何、なんか俺知ってなきゃまずいようなこと知らないの!?

「な、なんのことでしょうか‥‥‥」

アレックスとホムラさんははぁと溜息をつく。

「大物なのかなんのなのか‥‥‥」

「ギル君は大物だからねえ。私が保証するわよ」

「あのそれより、何の話なんですか? 真の力を視れるって」

「春秋の三校戦、これは学校のいわばメインイベント。だとすると、これから行われるのは春三校戦の前哨戦‥‥‥その名もロンドール魔術学校新人戦!!」

「新人戦‥‥‥?!」

ホムラさんは満足気に頷く。

「そう、新人戦! 三つのクラス全員がトーナメント形式で対戦して、新人で一番の魔術師を決めるのよ。ま、三校戦と違って校内だけだけど、それでも盛り上がるわよ~どのクラスの子が有望なんだー!ってみんな必死なんだから」

「そんなのがあったんですか‥‥‥」

ホムラさんは俺の頭を小突く。

「まったく、ほんとギル君は何も知らないんだから。――あ、もしかして私に教えてもらうためにわざと情報シャットアウトしてるんじゃ‥‥‥。全部教えてあげてもいいんだよ?」

ホムラさんが上目遣いでそう俺に言い寄ってくる。

「ち、違いますよ!!」

ホムラさんはニヤニヤと笑う。

後ろでアレックスが呆れた顔で溜息をつく。

はぁ、これがホムラさんのいつものやり口か。

本当にドキドキしちゃうからやめてくれ‥‥‥。

「あはは、まあ新人戦は一年生にとっちゃ重大なイベントだからね~今全員が血眼になって練習してるんじゃないかな」

「そんなもんですか」

「そうよ! だって三校戦のメンバーに選ばれるかもしれないし、上の方の先生の目に留まれば卒業後に勧誘されるかもしれない‥‥‥自分の実力をお披露目する機会なんだから!」

そう言われればそうか。

意外とこの学校で外向けに実力を示せる機会というものは多くない。

こういう場所を上手く使ってこその魔術師か‥‥‥。

「でもさー去年は酷かったわよね」

「そうだな‥‥‥」

「なんでですか?」

ホムラさんが小声で話す。

「ほら、例の破壊神君‥‥‥今回の三校戦にも出てたカース君。あの子一人だけ強すぎて、完全に無双しちゃったのよね‥‥‥。ほんと空気が白けていたわ。まあ、魔術師の卵を見に来ていた魔術関係者は神童現る! って大喜びだったわけだけど…‥。」

‥‥‥これは他人事じゃねえな。

できるだけ辛勝するようにしないと大会自体を壊しかねないわけか‥‥‥青春するってのも難しいな。

「ま、今年は特に秀でた子がいるっていう話は聞かないし――あぁ、コルニクスにいるグリム君はなかなか手ごわいかもねえ。それ以外は‥‥‥あーベルちゃんもそうか」

ホムラさんはあれこれと指折り数える。

この人いったい何人覚えてるんだ‥‥‥?

もしかして全員チェックしてるのか!?

「うーん、意外と拮抗した戦いになりそうね! 今年は面白そう!」

「ちなみにホムラさんは誰が優勝すると思います?」

「そうねえ。順当に行けばグリム君‥‥‥かベルちゃんかなあ」

しかし、ホムラさんはけど、と付け足す。

「君がやる気を出しちゃったら‥‥‥どうなるか分からないわね」

「え、それはどういう――」

「さ、もう寝る時間よ~私は部屋に戻るわ!」

「俺も戻るとしよう。ギルもしっかり休めよ」

「あ、ちょっとホムラさん!」

「おやすみ~」

そういってホムラさんは手をヒラヒラとさせ、階段を昇っていく。

ホムラさんにはいろいろ見抜かれてるのかなあ‥‥‥。

サイラスともつながりがあるみたいだし‥‥‥。

まあ青春は楽しむものだ。俺が全力を出して大会をぶち壊すようなことはしないさ。

――多分ね。