そして強引に馬車に乗せられ、どこかに連れていかれる途中にこの森を通っていると、強い魔物に襲われて護衛を殺されてしまったらしい。

馬車を壊され、一緒に乗っていた奴隷たちが次々と殺されていく中、二人も魔物に傷を負わせられるが命からがら逃げ伸び、この洞窟の中に隠れ込んだそうだ。

「なかなか大変だったんだな」

「「……ん」」

わざわざ街道を通らず森を抜けようとしたのは、こちらの方が近道だからだろう。

護衛がいれば魔物も怖くないと思ったのかもしれない。

しかしその奴隷商人とやら、奴隷たちに対して随分と酷い扱いをしていたようだ。

少しでも失敗したり、気に喰わないことがあったりすると、すぐ暴行されたという。

道理で身体のあちこちに古い傷があったわけだと、リオンは納得する。

ついでに治してあげたが。

「そろそろ体力も回復しただろう? 出発するぞ」

こんな子供を放っておくわけにはいかない。

リオンは町まで連れて行ってやるつもりだった。

すると二人が不安そうに顔を見合わせた。

「心配するな。この森の魔物なんて俺たちからすれば雑魚だ」

『まかせてなのー』とばかりにスーラが触手で身体を叩いている。

「それともここに残るか?」

「「っ!」」

ぶんぶんと首を左右に振る二人。

「じゃあ、ついて来い」

「「ん」」

少しは素直になってくれたようだ。

屁とスープのお陰だろう。

二人を連れて洞窟の外へ出る。

すると早速、魔物が近づいてきた。

猪の魔物だ。

「ブフオーッ!」

鼻息荒く突進してくる。

「「~~~~っ!」」

双子が慌てて出てきたばかりの洞窟の中に逃げ込もうとした。

リオンは二人の襟首を掴んで引き留めると、

「心配ないって。ほら、見てみろ」

スーラが猪の魔物に向かっていく。

小さなスライムからしてみれば、猪は十倍以上の大きさがあった。

「「っ……」」

双子が思わずといった様子で顔を手で覆う。

しかし激突した瞬間、吹っ飛んだのは猪の方だった。

「ブフィッ!?」

双子が目を丸くした。

「つよい」

「すごい」

称賛されて、ふふーん、とばかりに身体を膨らませるスーラ。

人間で言うと胸を張っている感じなのだろう。

それからリオンは片腕で一人ずつ、双子を抱き上げた。

「普通に歩いていたら時間がかかり過ぎるからな」

「「……?」」

さらに頭にスーラを乗せると、リオンは地面を蹴った。

「「っ!?」」

急激な加速に双子が息を飲む。

まだ子供の部類だろう少年が、自分たち二人を抱えて猛スピードで走り出したのだ。

双子が信じられないといった顔でリオンを見上げると、至って涼しい顔をしていた。

「すごい」

「はやい」

馬車よりもずっと速く、時には魔物すら置き去りにしていく速度に、双子は興奮したように鼻息を荒くする。

たまに正面から襲い掛かってくる魔物は軽く蹴散らしながら三十分も走っていると、やがて木々が途切れた。

どうやら森を抜けたようだ。

リオンは目的地の町へとたどり着いた。

「……こんなに大きな都市だったか?」

そこにあったのは、しっかりとした市壁に護られた大都市だった。

どうやら百年の間に大きく発展したらしい。

双子を連れて門へと近づくと、衛兵が驚いた様子で、

「まさか子供だけで旅をしてきたのか?」

「一応、冒険者だ」

身分証でもあるギルド証を見せると、「こんな子供がDランク?」と驚いていた。

「ともかく、リベルトへようこそ」

「リベルト?」

リオンが知っているのはメリッサという都市だ。

「メリッサ? そりゃ一体、いつの話だ?」

衛兵が教えてくれる。

「今のこの都市があるのもすべて、百年前に魔王軍の侵攻から人々を護ってくれた勇者リオン=リベルト様のお陰だ。その功績を称えてリベルトと名前を変えたんだよ」

実はここ前世でリオンが救った都市だった。

当時はまだ小さな都市だったが、地理的に重要な場所にあることから魔王軍のターゲットになってしまったのである。

(まさか、都市の名前にされてるなんてな)

リベルトとは前世のリオンの家名だ。

元々は平民で家名などなかったのだが、魔王軍との戦いで戦績を残していったことで、あるとき名乗ることを許されたのだ。

別にこだわりなどなかったので、適当に思い浮かんだものを付けただけなのだが。

中に入ると、街並みに百年前の面影はほとんどなかった。

人も多く、活気に溢れている。

「「ひといっぱい……」」

こうした都会の喧騒には慣れていないのか、リオンの身体の後ろに隠れる双子。

「……さて。二人ともこれからどうしたい?」

リオンは二人に問いかけた。

「「どう、したい……?」」

ピンときていないような顔をする二人。

「奴隷商人は恐らく森で死んだだろう。お前たちはもう自由だ」

「「じゆう……」」

双子は顔を見合わせた。

(まぁいきなり言われても困るだろう。とりあえず孤児院にでも連れていくか?)

そう思っていると、

「「……いっしょにいる……だめ?」」

「うーん」

リオンは冒険者だ。

さすがに二人のような子供を連れて冒険をするわけにもいかないだろう。

「「なんでもする!」」

懸命に主張してくる二人。

さらに『だめなのー?』とスーラまで。

いつの間にか双子に感情移入してしまったらしい。

(せめてスーラみたいに従魔にできればいいんだけどな……)

リオンが心の中で呟いたそのときだった。

――男の子が従魔になった。

――女の子が従魔になった。

(……ん? 今この二人、従魔にならなかったか?)

いやいや、そんなはずはないと、リオンは首を振る。

従魔というのは調教士が使役する魔物のことだ。

つまり魔物でなければ従魔にはできない。

(……それとも、獣人なら可能なのか?)

もし従魔となったのであれば、鑑定してステータスを確認することができるはずだった。

リオンは確かめてみる。

男の子

種族:猫人族

種族レベル:2

力:B

耐久:B

器用:B

敏捷:A

魔力:B

運:B

女の子

種族:猫人族

種族レベル:2

力:B

耐久:B

器用:B

敏捷:A

魔力:B

運:B

「……マジか。見れたし」

しかも明らかに普通の獣人の子供のそれではなかった。

リオンの従魔になったことで急激に強くなったのだろう。

「「……?」」

二人はすぐに変化に気づいたようで、不思議そうに自分の身体を見下ろしている。

これなら冒険に連れて行っても問題ないか、とリオンは考える。

……問題ないどころか、すでに上級冒険者並みのステータスなのだが。

「……分かった。そんなに言うなら望み通りにしてやろう」

「「んっ!」」

二人は嬉しそうにリオンに抱きつく。

どうやら完全に懐かれてしまったようだ。