Reincarnated as a Villager ~ Strongest Slow-life
779 Brave Man's Bag
魔王ちゃんのことは時間をみてってことにして、まずはラーシュに送るものと公爵どのの買ったものを回収するためにカイナーズホームへと向かった。
けど、量が量であり、無限鞄に入れるのもラーシュのところに送る物の整理で一日かかってしまった。
今日こそ魔王ちゃんの武力アップを、と思ったら、勇者ちゃんがなんか泣きそうな顔でやって来た。どうした?
……あと、どうでもイイけど、女騎士さん、確実に太ってるよね。あなた、ちゃんとお仕事してるの……?
いや~、食事やおやつが美味しくて~と、なぜか照れる女騎士さん。まあ、あなたが満足しているのなら構わんけどさ……。
「……ルククが来ないの。ボク、嫌われちゃったのかな……?」
ルククが来ない? あ、そう言やもうそんな時期か。すっかり忘れてたわ。
渡り竜たるルククは、春の初めにこの大陸に渡って来て、半年ほど暮らし、秋になる前に南の大陸へと返って行く。
前世の暦で言えば今は八月の半ば過ぎくらい。この大陸ではまだ夏であり、あと一月くらいは夏が続くだろう。
今は南の大陸に渡るために栄養を補給している頃だ。
「別に嫌われた訳じゃねーよ。南の大陸に渡れるために腹いっぱいにしている最中なんだよ。ただ、腹いっぱいと感じたらルククは、そのまま南の大陸へと返るがな」
本来なら栄養補給する前に送るものを用意して、ルククの体につけていなくちゃならないのだ。
ちなみにラーシュのところでは、ルククがこの大陸に旅立つ直前に荷物を括りつけるようだ。ラーシュの別宅がルククが住む湖の近くにあるからできるんだとよ。
「え! ボク、ルククと冒険できないの!?」
「いや、大丈夫だよ。ルククが南の大陸に返るときは、この上を通るからな。それに飛び乗れば問題ねーさ」
大地には下りはしないが別れの挨拶のために低空まで下りてくる。勇者ちゃんなら問題なく飛び乗れんだろう。ダメなときはオレが放り投げてやるよ。勇者ちゃん、軽いし。
「よかった~!」
心底喜ぶ勇者ちゃん。本当にルククと仲良くなったんだな。
「勇者ちゃんよ。ルククと一緒に行くならこれを頼むわ」
無限鞄から収納鞄を二つ、取り出した。
「なに、それ?」
「一つは、オレの友達に渡して欲しい鞄で、こっちは勇者ちゃんのための鞄だ」
まずはラーシュに渡す収納鞄を預けた。
「これをオレの友達のラーシュって男に渡して欲しい。多分、一番最初に会うヤツだ。違ったら渡したいものがあるからラーシュを呼んでくれと伝えくれ。この鞄はラーシュ以外開けられないようにしてあるからよ」
竜王を倒してから忙しいと手紙に書いてあったから、もしかして違うヤツが来るかもしれんからな。
「ラーシュは、十六、いや十七歳か。背はわからんが、黒髪に金の瞳を持つ男だ。本人を確かめたいときは、『コーヒーを一杯いただきたい』と言え。『美味しいブラックを用意しよう』て返されたらそれがラーシュだ」
オレとラーシュの間で決めている秘密の合言葉の一つで、もし、オレの代理人と称するヤツがいた場合に確認するためのものだ。
王子さまなだけに、いろいろ命を狙われたりするから、万が一に備えて取り決めたのだ。
「うん、わかった!」
アホな子ではあるが、頭はそれなりにイイ、はず。女騎士さん、そこんところは任すよ。
女騎士を見ると、了解とばかりに敬礼した。一度も会話したことないけど、一番心を通い合わせたのはあなただよ。
「で、こっちは旅の間の勇者ちゃんの家だ」
もう一つの収納鞄を渡した。
「家? 鞄が?」
不思議そうに収納鞄を見ている。
「南の大陸まで二十日くらいかかる。その間、どこかの島に下りて休憩するみたいだが、多分、人がいない場所だ」
これはラーシュとの手紙のやり取りで、なんとなく推察したものだ。もしかしたら空で休んでいるかもしれないが、どちらにしろ、ルククの背中に二十日近くいるなんては無理だ。
「そこで、用意したのがこの鞄だ。まず、床板をルククの背に見立てて、その鞄を置いてみな」
うんと返事して、鞄を床板に置く勇者ちゃん。素直だね、この子は。
「それでどんな風を受けても剥がれない。ちょっと剥がしてみ」
ふん! と気合を入れて鞄を引き剥がそうとしたが、びくともしなかった。
「なんで!?」
結界超便利だからさ。
「外したいときは、三回鞄を突っ突いたら取れるから。試してみ」
「こう? あ、外れた!」
びっくりした顔で鞄を見ている。
「で、その鞄の本領は中だ。鞄の中に頭を突っ込んでみな」
なんの躊躇いもなく頭を突っ込んだ。この子、この弱肉強食な世界でよく生きてるよな……。
「うわっ! 中が部屋になってる!?」
「そのまま入ってみな」
するりんと勇者ちゃんの体が鞄の中に吸い込まれた。女騎士さんもどうぞ。
勇者ちゃんも勇者ちゃんなら女騎士さんも女騎士さんで、なんの躊躇いもなく鞄へと入った。このコンビ、本当によく生きてるよな?
オレも鞄の中へ入り、使い方を説明し、また外へと出る。
「もっと欲しいものがあるならメイドさんに揃えてもらえな」
鞄の口を開いて中の二人に言い、あとは任せた。
さてと。今度こそ魔王ちゃんの武力アップをやりますか。