魔王ちゃんのことは時間をみてってことにして、まずはラーシュに送るものと公爵どのの買ったものを回収するためにカイナーズホームへと向かった。

けど、量が量であり、無限鞄に入れるのもラーシュのところに送る物の整理で一日かかってしまった。

 今日こそ魔王ちゃんの武力アップを、と思ったら、勇者ちゃんがなんか泣きそうな顔でやって来た。どうした?

 ……あと、どうでもイイけど、女騎士さん、確実に太ってるよね。あなた、ちゃんとお仕事してるの……?

 いや~、食事やおやつが美味しくて~と、なぜか照れる女騎士さん。まあ、あなたが満足しているのなら構わんけどさ……。

「……ルククが来ないの。ボク、嫌われちゃったのかな……?」

 ルククが来ない? あ、そう言やもうそんな時期か。すっかり忘れてたわ。

 渡り竜たるルククは、春の初めにこの大陸に渡って来て、半年ほど暮らし、秋になる前に南の大陸へと返って行く。

 前世の暦で言えば今は八月の半ば過ぎくらい。この大陸ではまだ夏であり、あと一月くらいは夏が続くだろう。

 今は南の大陸に渡るために栄養を補給している頃だ。

「別に嫌われた訳じゃねーよ。南の大陸に渡れるために腹いっぱいにしている最中なんだよ。ただ、腹いっぱいと感じたらルククは、そのまま南の大陸へと返るがな」

 本来なら栄養補給する前に送るものを用意して、ルククの体につけていなくちゃならないのだ。

 ちなみにラーシュのところでは、ルククがこの大陸に旅立つ直前に荷物を括りつけるようだ。ラーシュの別宅がルククが住む湖の近くにあるからできるんだとよ。

「え! ボク、ルククと冒険できないの!?」

「いや、大丈夫だよ。ルククが南の大陸に返るときは、この上を通るからな。それに飛び乗れば問題ねーさ」

 大地には下りはしないが別れの挨拶のために低空まで下りてくる。勇者ちゃんなら問題なく飛び乗れんだろう。ダメなときはオレが放り投げてやるよ。勇者ちゃん、軽いし。

「よかった~!」

 心底喜ぶ勇者ちゃん。本当にルククと仲良くなったんだな。

「勇者ちゃんよ。ルククと一緒に行くならこれを頼むわ」

 無限鞄から収納鞄を二つ、取り出した。

「なに、それ?」

「一つは、オレの友達に渡して欲しい鞄で、こっちは勇者ちゃんのための鞄だ」

 まずはラーシュに渡す収納鞄を預けた。

「これをオレの友達のラーシュって男に渡して欲しい。多分、一番最初に会うヤツだ。違ったら渡したいものがあるからラーシュを呼んでくれと伝えくれ。この鞄はラーシュ以外開けられないようにしてあるからよ」

 竜王を倒してから忙しいと手紙に書いてあったから、もしかして違うヤツが来るかもしれんからな。

「ラーシュは、十六、いや十七歳か。背はわからんが、黒髪に金の瞳を持つ男だ。本人を確かめたいときは、『コーヒーを一杯いただきたい』と言え。『美味しいブラックを用意しよう』て返されたらそれがラーシュだ」

 オレとラーシュの間で決めている秘密の合言葉の一つで、もし、オレの代理人と称するヤツがいた場合に確認するためのものだ。

 王子さまなだけに、いろいろ命を狙われたりするから、万が一に備えて取り決めたのだ。

「うん、わかった!」

 アホな子ではあるが、頭はそれなりにイイ、はず。女騎士さん、そこんところは任すよ。

 女騎士を見ると、了解とばかりに敬礼した。一度も会話したことないけど、一番心を通い合わせたのはあなただよ。

「で、こっちは旅の間の勇者ちゃんの家だ」

 もう一つの収納鞄を渡した。

「家? 鞄が?」

 不思議そうに収納鞄を見ている。

「南の大陸まで二十日くらいかかる。その間、どこかの島に下りて休憩するみたいだが、多分、人がいない場所だ」

 これはラーシュとの手紙のやり取りで、なんとなく推察したものだ。もしかしたら空で休んでいるかもしれないが、どちらにしろ、ルククの背中に二十日近くいるなんては無理だ。

「そこで、用意したのがこの鞄だ。まず、床板をルククの背に見立てて、その鞄を置いてみな」

 うんと返事して、鞄を床板に置く勇者ちゃん。素直だね、この子は。

「それでどんな風を受けても剥がれない。ちょっと剥がしてみ」

 ふん! と気合を入れて鞄を引き剥がそうとしたが、びくともしなかった。

「なんで!?」

 結界超便利だからさ。

「外したいときは、三回鞄を突っ突いたら取れるから。試してみ」

「こう? あ、外れた!」

 びっくりした顔で鞄を見ている。

「で、その鞄の本領は中だ。鞄の中に頭を突っ込んでみな」

 なんの躊躇いもなく頭を突っ込んだ。この子、この弱肉強食な世界でよく生きてるよな……。

「うわっ! 中が部屋になってる!?」

「そのまま入ってみな」

 するりんと勇者ちゃんの体が鞄の中に吸い込まれた。女騎士さんもどうぞ。

 勇者ちゃんも勇者ちゃんなら女騎士さんも女騎士さんで、なんの躊躇いもなく鞄へと入った。このコンビ、本当によく生きてるよな?

 オレも鞄の中へ入り、使い方を説明し、また外へと出る。

「もっと欲しいものがあるならメイドさんに揃えてもらえな」

 鞄の口を開いて中の二人に言い、あとは任せた。

 さてと。今度こそ魔王ちゃんの武力アップをやりますか。