Reincarnation Monarch

Lesson 430 Materials

「……どんな特使だったんだ?」

ガイウスの問いに、カルミスはにやりとした顔付きのまま答えた。

「停戦を要求するものだった」

「そんなことはわかっている。俺はその内容を聞いているんだ」

「だろうな。まあわたしも詳しく知っているわけではないのだが、レノン様から伺った話では……脅されたようだ」

ガイウスは驚き目を見張ってカルミスを見た。

「脅された?ローエングリンがダロスにか?……いやそれは考え難いな……逆ならともかくな。ローエングリンの国力はダロスの倍以上はある。これまではダロスと同程度の国力のレイダムとで、ローエングリンを東西から挟み撃ちする格好であったため、地政学的優位性によって三国間の均衡は保たれていたが、エスタ戦役によってレイダムの国力が大幅に削がれた以降は、ローエングリンは両国に対して二正面作戦を展開することも可能になったはずだ。ならばローエングリンがダロスを脅す材料はあっても、ダロスの側にはないはずだ」

ガイウスの長広舌を聴き終えたカルミスは、何度も大きく頷いた。

「そうだな。確かにお前の言うとおりだ……ただし普通に考えればの話だがな」

「……普通ではない脅しの材料を持っていたということか?」

「そうだ」

「それはなんだ?」

するとガイウスの問いにカルミスは両手を広げて肩をすぼめた。

「わからん」

「おい、ふざけるなよ?」

「ふざけているわけではない。その材料が何なのかはわたしにははっきりとはわからんのだ。ただ……」

「ただ、なんだ?早く言え!」

「そう急かすなよ。実はな、レノン様にはもう一人片腕と呼ばれている男がいてな。その男はリボーといって諜報活動を専門にやっているんだが、そのリボーが以前ダロスに関する驚くべき情報を持ってきたことがあったんだ」

カルミスはそこで一旦言葉を区切ってガイウスの反応を伺った。

するとガイウスは怖い顔で真正面から睨見つけていたため、カルミスは慌てて話を先に進めるのだった。

「その情報というのはだな……ダロスの旧都テーベの近郊にあるバースという村が一夜にして消え……」

するとガイウスがカルミスの言葉を自らの叫び声によってかき消した。

「バースだと!!」

「……びっくりさせるなよ……まったく……」

「おいカルミス!バース村の消失がその脅しに関係あるっていうのか?」

「……あ、ああ、おそらくな……しかしお前、なぜバース村消失事件のことを知っているんだ?」

「そんなことはどうでもいい。その特使はバース村の件を持ち出したんだな?」

「いや、特使ははっきりとバース村の名は出さなかったようだ。だからこれは推測に過ぎないんだ……だが特使は……ダロスには秘密兵器があると言ったらしいんだよ」

「……その秘密兵器とやらが、バース村を一夜にして真円の湖に変えたんだな?」

「おそらくな。教皇以下のローエングリン首脳たちも、バース村消失事件については耳にしていたために秘密兵器と言われてピンときたようだ。それで停戦に合意したってわけだ」

ガイウスは一度大きく息を吐き出すと、これ以上ない真剣な表情で考え込むのであった。