Reincarnation Monarch
Episode 539: Communication
「旦那様、シェスター殿より一報が参りました」
ナスリは、ロンバルドの書斎の扉を開けると足早に駆け寄り、右手に持った封書をさっと素早く手渡した。
ロンバルドも素早く受け取り、封書の中身をあらためた。
「……ほう。さすがはシェスターだ。早々に親衛隊の大半を抑えたらしい」
「それはそれは……すごいですね」
「うむ。どうやら隊員たちの多くは帝都オーディーンに留まっていたようだ」
「……それはまた、なぜでしょう?」
「……帰りづらかったか……故郷に帰っても職がないかのどちらかだろうな……」
「なるほど。たしかに監獄帰りでは故郷に錦を飾るというわけにはいきませんし、それにいかな大国ローエングリンとはいえ、地方によっては不景気で安定した職を見つけるのは大変でしょうね……」
「うむ。ヴァレンティンは国土が狭く人口も少ない小国のため、細かいところまで社会保障を行き渡らせることが出来るが、大国となれば中々そうもいくまい。国土があれだけ大きいと、中央の目が行き届かなくなるのは必然。かといって地方に一定以上の権限を与えすぎれば、腐敗の温床ともなる。其の辺のバランスのとり方が実に難しいところだ」
「なるほど。小国と大国の国家経営は違うということですね?」
「うむ。はっきり言って比較対象にすらならんといったところだろうな。規模の違うものを同質のものと考えるのは危険だ。少なくともわたしはまったくの別物と捉えている」
「わかりました。わたくしもこの名誉あるシュナイダー家の家計を任せられている者として肝に銘じておきます」
「ああ、頼りにしている」
「は。……ところで大半の隊員たちを抑えたということですが、どのように説得したのでしょうか?」
するとロンバルドは軽く何度もうなずいた。
「……どうやら金……のようだな。隊員たちは獄から開放されたばかりで、多くの者は定職にはつけずに一時雇いがほとんどだったらしい」
「なるほど。いかな帝都とはいえ、前科者をそうおいそれと雇ってはくれないでしょうからね」
「うむ。なので皆シェスターの誘いに乗ってくれたようだ」
「ちなみに如何程で?シュナイダー家の家計を任される者として其の辺は把握しておりませんと……」
ナスリの求めにロンバルドは手元の紙片を差し出した。
ナスリはそれを受け取ると素早く紙面上に視線を走らせ、書かれている数字を頭の中の計算式にはめ込んだ。
「……大変結構です。この程度の出費ならばシュナイダー家にとってはどうということはございません。残りの隊員たち全てを雇い入れたとしてもまったく問題ないと言えましょう」
ナスリは言うや、手元の紙片をロンバルドに返した。
ロンバルドはおもむろにそれを受け取ると、満足気にうなずいた。
「当然だ。シェスターにぬかりはないさ」
ロンバルドはそう言うと、ナスリに向かって軽くウインクをしたのであった。